今日の一冊(140)『がん免疫療法の突破口』

原題は「THE BREAK THROUGH」、アメリカのサイエンスライター チャールズ・グレーバーの著作です。

結構、読みでがありました。

がん免疫療法の突破口【ブレイクスルー】

がん免疫療法の突破口【ブレイクスルー】

チャールズ・グレーバー
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免疫療法開発100年の歴史

2018年、ノーベル医学・生理学賞は、J・アリソンと本庶佑の「免疫チェックポイント阻害剤によるがん治療法を切り開いた功績」に対して与えられました。しかし、この業績が成し遂げられるまでには、壮絶な歴史があったのです。

ピュリッツァー賞を受賞したムカジーの『がんー4000年の歴史』は2010年に上梓されたが、その中に免疫療法に関する記述はありません。その後の10年間に免疫療法に関してブレークスルーが起きたのです。

19世紀の末、コーリー医師は、奇跡のような腫瘍の消失をヒントに、「コーリーの毒」と呼ばれた免疫ワクチンを作りました。しかしそれは、世界の100年先を行くが故に、理論的裏付けが浅くてエセ療法の烙印を押されてしまいました。

またローゼンバーグ博士が研究した、インターロイキン-2を使いT細胞を体外で活性化して体内に戻すという養子免疫療法も、標準治療になることはできませんでした。

こうした失敗にもめげず、がんを免疫の力で治そうという試みは、多くの医学者が挑戦をし続けてきたのです。

NIHのローゼンバーグ博士を始め、幾多の研究機関から、がんの免疫療法に取り組む医学者・科学者が育っていったのです。アリソン博士もその一人でした。

そしてブレークスルーが起き、転移や再発をしたがんは治ることは困難でしたが、免疫チェックポイント阻害剤によって、がんは治る時代、治癒する時代が来たのです。

がんを免疫療法で治すことは人類の悲願でした。この本はそのブレークスルーに至るまでの100年以上にわたるがん免疫療法の歴史の解説書です。

患者と家族の臨場感あふれる物語

医学的な解説書であるのみならず、免疫療法に関わってきた人たちが織り成すドラマが丁寧に書かれています。また研究者や医師だけではなく、臨床試験に参加した患者やその家族も登場し、臨場感あふれる読み物となっています。

そしてその患者たちの中から、死の淵から生還した者が現れてきたのです。

ローゼンバーグ博士のT 細胞をサイトカインで活性化する方法は、ある程度の効果を示すことによって大きな話題にもなりましたが、何かが T 細胞の免疫反応の邪魔をしていたのです。

人類はそれに気がつく過程を丁寧に描いています。それに最初に気がついたのがアリソン氏でした。

CTLA-4という分子が免疫を抑制していることに気がついたのです。そしてこの分子の作用をブロックできる抗体をマウスに投与して、治ることを示しました。このとき、初めてがんは免疫で治せることが証明されたのです。

そればかりか、T細胞の凄まじいばかりのがん破壊力が分かったのでした。免疫細胞が、ブレーキを外して本来の仕事をすれば、がん細胞は数日で消滅することが示されたのです。一方でブレーキを外されたスポーツカーが暴走をして、患者をしに至らしめる恐れも生じたのです。(サイトカインストーム)

それに続いて抗 PD-1抗体が見つかり、さらにPD-L1抗体、免疫チェックポイント阻害薬の開発が続きます。

CAR-T療法は、遺伝子工学を駆使して抗体分子とキラー T 細胞結合させる治療法です。白血病やリンパ腫に対して奏効率が80%から90%のオーダーというような驚くべき成績を出しています。

これからの免疫療法の発展方向にもページを割いています。

がんの周辺や腫瘍微小環境の研究によって、微小環境の中で何が起きているのかが徐々に明らかになってきました。現在はチェックポイント阻害剤の全盛時代ですが、既存の治療法と免疫チェックポイント阻害薬との組み合わせによって様々な研究が行われており、その数は数千にものぼると言われています。

免疫療法分野としてはやや独特ですが、腫瘍溶解性ウイルス療法は特異的なアプローチです。ウイルスを使って正常な細胞に害を与えることなく腫瘍細胞だけを弱らせて殺すという治療法です。

免疫細胞が毎日発生するがんを殺しているは、都市伝説?

巷では、「毎日数千個発生するがん細胞免疫細胞が殺してくれている」とか「老化やストレスで免疫力が低下するからがん細胞が生き延びてがんが発症する」という言説がまかり通っているが、しかし第5章でシュライバー博士が述べている免疫監視機構は、そういう言説を支持するものではない。

がんの排除相、平行相、逃避相の三つの層において、免疫ががん細胞に働きかけるということは確かであるが、がん細胞がそれを逃れて増大するという事象が存在することも確かです。しかしこれらの事象は全てのがんで必ず起こるわけではない。

免疫によってがん細胞はどれくらい効率よく排除されているかは、まだ明確に計測されてはいない。超重度の免疫不全マウスでも、がんでバタバタ死ぬようなことはないのです。

従って、毎日数千個発生するがん細胞を免疫細胞が殺してくれているという話はありえないとの説が有力になっています。

若者でがんの発症しにくいのは、主には遺伝子の傷を修復する仕組みや、異常な細胞をアポトーシスに導く仕組みによるものであると考えられます。

このようにして、免疫に関する知見も日々進化しているのです。

この10年間のブレイクスルーに続いて、次の10年間はより一層の免疫療法の発展するに違いありません。

体外で活性化させたT細胞を体内に戻しても、がん細胞がT細胞にブレーキを掛けて、免疫から逃避する仕組みが明らかになっているのに、そうした科学を無視して、いまだに自由診療の「昔の免疫(細胞)療法」で大金をとっているのは、詐欺以外の何物でもないでしょう。


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