医者と患者のすれ違いはなぜ起きるのか?

患者には3タイプある

外科医けいゆうのペンネームでTwitter でも発信をしている山本健人さんがブログで、患者と医師のすれ違いについて書いています。

それによると、患者には三つのタイプがあると考えます。

  1. 標準治療の意味を理解していて、自分ががんになったら標準治療を迷わず受ける、と考える人
  2. 標準治療のことはよく知らず、高いお金を払えばもっといい治療が受けられるのではないか、と迷ってしまう人
  3. 標準治療の意味を十分に理解してはいるが、標準治療を迷わず受けるとは言えない人

医者は、2のタイプの人を1のタイプにしたいと頑張っているのでしょうが、3番目の患者のように、既に知識の豊富な方に対して、標準治療の意味や有効性を説明しても、患者さんの気持ちは変わりません。

それは、「患者は自分にとって固有のベストを求めるが、医師は他の誰にでも等しく適用可能な、統計学的に優れた治療を求めるから、お互いの考えがすれ違う」のです。

患者は自分に合った唯一の治療法を求めているのに対して、医師は統計的・確率的に最も有効だと思われる治療法を勧めます。

これは医師の立場に立ってみれば仕方のないことですよね。エビデンスに則った、一番効果の可能性がある治療法から始めるのは理にかなっています。

しかし患者にとっては、その治療法が自分に合うのかどうかは、やってみなければわからないわけです。

患者は個別化医療を求めている

「科学的な個別性」を患者は求めているわけですが、近年、個別化医療(プレシジョン・メディシン)に力を入れられています。患者の「自分に効く治療法」への要求にある程度は応えられる望みが出てきています。

しかし、まだまだ時間はかかりそうです。患者個人に対して、確実に効果のある治療法をする、そのために現場で使用可能な個別化ツールはまたアバウトです。

現状では、患者も医師も、未熟な部分にはある程度の妥協を許すという考え方が求められているのだろうと思います。

医師の判断-思考の過程

エビデンスのある治療法に対して、効果のない患者さんが一定数おります。ではそうした患者の場合、医師はどのように判断をし、治療法を決定しているのでしょうか。

多分そこから先は、医師としての経験と勘が働いているのではないかと思っています。長年の経験からこの患者には、こちらの治療法が効果があるはずだと、パターンマッチングを行っているのではないでしょうか。あるいは直感と言ってもいいかもしれません。

『医者は現場でどう考えるのか』あるいは『なぜ直感のほうが上手くいくのか』というこの2冊の著作には、そうした医者の判断がどのようになされているのかを解明しています。

医者は現場でどう考えるか

医者は現場でどう考えるか

ジェローム グループマン
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グループマンは、『医者は現場でどう考えるか』で「医師はデータではなく、患者の物語に耳を傾ける必要がある」として、EBMに関してはこんなふうに述べています。

いわゆる科学的なエビデンスに基づいた医療(EBM)は急速に広がり、今や多くの病院において規範になっている。統計学的に立証されない治療法は、臨床試験の成績に基づいた一定量のデータが得られるまで、ご法度なのだ。

もちろん医師は誰でも、治療法を選択する際にその研究成果も検討すべきである。しかし、EBMに頑なに依存する今日の医学では、医師が数字だけに頼って受動的に治療法を選択する危険がある。

統計は、目前にいる生身の患者の代わりにはならない。統計は平均を表わすものであり、固体を表わさない。医薬品や治療に関する医師個人の経験に基づく知恵ー臨床試験の成績から得られた「ベスト」の治療法が、その患者のニーズや価値観に適合するかどうかを判断する医師個人の知識ーに対し、数字は補足的な役割でしかない。

また『なぜ直感のほうが上手くいくのか?』でには、「無知は専門家の知識に勝る。情報は少ない方が上手くいく」として、驚くような事例が列挙されています。

直感を「無意識の知性」ととらえ、その仕組みを明らかにしています。

(医療行為のような)不確実な世界では、複雑な方略は後知恵で説明することが多すぎるので、まず間違いなく失敗する。未来にとって重要な意味を持つ情報はごく一部だ。そこで、直感術はその肝心な部分だけに的を絞り、残りを無視する。最善の手がかりのみに頼る単純な経験則は、その役に立つ情報のかけらに命中する可能性が高いのだ。

これなんかも示唆に富んだ指摘ですね。先進的な治療法をやってみて、成功しても失敗に終わっても、後知恵なら何とでも言えます。治療の前に判断するための材料は、極少なくてもよい。その方が選択に失敗する可能性が低い、というわけです。


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