がんと認知症
団塊の世代が75歳の後期高齢者となる2025年を「2025年問題」と言われているようです。
がん患者の7割が65歳以上の高齢者であり、65歳以上の約15%が認知症だと言われています。
つまり、がんと認知症を併せ持った高齢者が今後も増えていくことが予想されます。
「膵臓がん患者と家族と集い」など、患者会に参加するのは、比較的元気な方で、認知症を患っている方はほとんど見かけません。見えないのです。
肺がん、前立腺がん、結腸がんなど高齢者に代表的ながんで見ると、3割くらいの方が軽度から中等度の認知症か、軽度認知機能障害(MCI:認知症ではないが日常生活やがん治療など特殊な場面でやや支障を来す状態)と思われます。
認知症のある眼科患者さんには次のようなポイントが大切です。
- 意思決定能力。治療を受けるか受けないか、どんな治療を受け、どこで療養するかなどの決定が難しくなります。「認知症で何もわからない」と早合点をして、家族が全ての治療方針を決めてしまうことも間違っています。基本は患者の意思を最大限に尊重することです。
- 服薬(患者が処方された薬を指示された通りに服薬するかの程度)。経口の抗がん薬が増えましたが、指示通りに服薬できないために『効果なし』と判断され、治療中止になっている症例や、倍量服薬して薬剤師が青ざめるといった症例があります。
せん妄により、点滴をしている抗がん剤の針を抜いてしまうようなことも起こります。 - 緊急時。認知症では突然の判断や臨機応変の対応が難しくなります。例えば、『熱が出たら連絡してください』などの指示を出しますが、指示通りできないため症状が悪化し、家族が救急車を呼ぶようなこともあります。
大腸癌を例にとると、治療開始から6ヶ月以内の死亡率は、認知症なしで8.5%、認知症ありだと33%と大きな開きがあります。
その一方でがん拠点病院などの急性期病院において、医師や看護職などの認知症に対する認識が十分とは言えません。
厚生労働省の「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」において次のように指摘されている通りです。
認知症の人の身体合併症等への対応を行う急性期病院等では、身体合併症への早期対応と認知症への適切な対応のバランスのとれた対応が求められているが、現実には、認知症の人の個別性に合わせたゆとりある対応が後回しにされ、身体合併症への対応は行われても、認知症の症
状が急速に悪化してしまうような事例も見られる。身体合併症対応等を行う医療機関での認知症への対応力の向上を図る観点から、関係団体による研修も積極的に活用しながら、一般病院勤務の医療従事者に対する認知症対応力向上研修の受講を進める。
認知症を抱えたがん患者の家族については、認知症の経過、関連する健康上の問題(特に身体合併症)について、ほとんどの家族は理解をしていない、と言われ、次のような点に負担を感じています。
- 予後を予測し、あらかじめ起こりうることを相談しなければならないこと
- 意思決定代理に伴う苦痛
- スティグマ(精神疾患など個人の持つ特徴に対して、周囲から否定的な意味づけをされ、不当な扱いことをうけること)
- 重い介護負担
大腸癌を局所再発した独り暮らしの弟がいて、その治療方針の決定や診察の付き添いなどでも、初めて経験することも多くて面食らっています。
財布や診察券などの所在が何度もわからなくなる、電動車椅子でなければ移動もできないのに、がん拠点病院の診察には付き添いなしで一人でタクシーに乗って行きたがる。
基本的には本人の意思を尊重すべきなのですが、それでがん治療や手術にまで見つけることができるのかどうか。
悩みが多くなってきます。