今日の一冊(44)『がんになって、止めたこと、やったこと』
5月1日の『死を前にして人は何を思うのだろう?』で紹介した野中秀訓さんの闘病記『がんになって、止めたこと、やったこと』が届きました。早速読んでの感想です。
細胞ががん化する仕組みは「多段階発がん説」と言われ、これが現在の標準的学説とされています。がん情報サービスの「細胞ががん化する仕組み」で解説されていますが、細胞ががん化すると、どんどん増える方向に一方向に進むと考えられています。治療をすることなく縮小することはないと。
遺伝子のエピジェネティックな変異もがん化に関わっていることが分かってきましたが、このエピジェネティクスは、がんの増殖だけに寄与するのではなく、縮小することもあるという説も強く出されてきました。
遺伝子のスイッチをOffすることで、腫瘍が縮小に向かうことはあたりまえに起こりうるというのが、新しいがんのエピジェネティクス理論です。
がんを取り巻く微小環境に適切な影響を与え、がんの進行をエピジェネティックに逆転させられるならば、遺伝子の異常がそのままであったとしても、がん細胞を正常化できる。それでは、どのようにすればそれが可能になるのか?
シュレベールは『がんに効く生活』いおいて、「食事・運動・心の力」の3つを挙げている。彼は「心の力」の章で「私がたどりついたその考え方」を次のように書いている。
- 心理的ストレスはがんの種子が成長していく土壌に大きな影響をおよぼしている。
- がんと関係のあるストレスとは「ひどい無力感」である。
- こうした状況はがん細胞の成長を促す可能性がある。
- がんの成長を促す炎症性因子はストレスに強く反応する。
- だが、誰でもがんと診断されたら、生き方を変えることはできる。そうすることが回復につながる可能性は高い。
エピジェネティクスの分野において、その研究の端緒を開いたとされる細胞生物学者ブルース・リプトン博士は、2009年に五井平和賞を受賞していて、そのときの記念講演が残されている。受賞記念講演「新しい生物学が明かす『心の力』」ではこのように述べている。
- 環境こそが遺伝子の活動をコントロールする
- ほとんどのがんは、遺伝子が悪かったからではなく、私たちの環境に対する対応ががんになる変異細胞をつくってしまったのが原因
- 「自然回復」と呼ばれる現象についても説明がつきます。死が近いという人が、自分の人生に対する信念を大きく変えた瞬間、遺伝子が突然変化し、奇跡的に回復し、元気になってしまうことがある
- 自分の知覚、つまり信条やものの見方を変えれば、脳から出る化学物質は変わり、自分自身の体も変えていくことができる
この講演内容は、博士の著書『「思考」のすごい力』
の要約にもなっている。
著書では量子物理学と生物学を橋渡しすることで、遺伝子のエピジェネティクスな変異を、量子物理学から説明する。アインシュタインが E=mC2で物質とエネルギーは等価であると発見したように、物質はエネルギーの別の存在の仕方である。そこから、遺伝子のエピジェネティックなふるまいも、量子力学的なエネルギー場の影響を受けるはずだと博士は考える。
「劇的寛解を経験した患者は、免疫システムを強力にする特別な遺伝暗号を持っているのではないか」と言う人もいます。その可能性はあると思いますが、同じ人が20年前にがんになったときの遺伝子発現と、劇的寛解をしたあとの遺伝子発現が異なることも考えられます。つまり、わたしが本に書いた9つのアプローチを実践して、特定の遺伝子のスイッチがオンになったという可能性もあるのです。
エピジェネティクスの研究で明らかになったのは、毎日30分の瞑想を8週間続けることで著しく遺伝子発現が変ったということです。つまり、瞑想はがん遺伝子のスイッチをオフにして、健康を促進する遺伝子のスイッチをオンにすることができるということです。
がん細胞と正常細胞の相互作用は、がんの進行に拍車をかけることもあれば、その進行を止めて自然寛解に導くこともある。がんの自然寛解は、体細胞突然変異説(SMT)では”奇跡”のように見えるが、組織由来説からみれば、がん細胞の正常なふるまいの範囲なのである。この自動修正は、幹細胞でも、完全に分化した細胞でも起きる。
がん細胞の周辺の微小環境に注目する組織由来説では、細胞間の相互作用が破綻すると、それによって細胞の内部環境が変化し、非メチル化などのエピジェネティックな変化が起きてがんが発生すると主張する。発がん物質は細胞の相互作用を破綻させ、その結果がんが引き起こされる。
がんの進行の第一段階はエピジェネティックな変化であり、それは逆行させることもできる。相当進んだがんでも、適切な条件を整えれば、エピジェネティックに逆行させることが可能である。微小環境論では、その適切な条件とは、免疫反応と、周囲の健康な細胞との相互作用であるとする。
ケリー・ターナー『がんが自然に治る生き方』より
野中さんもこれらの本をお読みになっていて、エピジェネティックに遺伝子のウイッチをOffすることで、がん細胞を縮小させようとしました。
そのために取った戦略が、
- 食事を改善する
- 早寝早起きを習慣化する
- 体の仲の悪いものを出すため解毒する
- ハーブや生薬を利用する
- ヨガを行なったり、鍼、マッサージなどを利用する
- 思考回路を変えてストレスをなくす
- 生活環境を徹底的に見直す
でした。医師から余命宣告を受けても、自分で調べて、自分で治療法を選択すること。これらを迷いなく実行していったのです。
本の中にはちょっとこれは? と思うものもありますが、それでいいんです。オーソモレキュラー(分子整合栄養療法)だろうが、高濃度ビタミンC療法だろうが、自分が信じられるものなら実行してみる。エビデンスなんて所詮は仮説です。データによってはいかようにでもなる代物ですからね。もっとも、信頼できるデータのない代替療法がはびこっていますので、それには要注意です。
野中さんも「これが効いた」とひとつのことを挙げているわけではありません。7つの戦略を元に、総合的にがんと闘ってきた結果だと思っています。だから、彼のやってきたある特定の療法を「私もやってみようか?」と考えるのはナンセンスです。
そうではなく、基本的な考え方を参考に、自分で調べて納得したものなら実行する、これが肝ですよ。