心と癌と量子力学の関係(6)

前回、「いま切実にがんの治癒を願っている患者は、がんを複雑系と考える立場をどのように自分の治癒へとつなげばよいのでしょうか」と書いて宿題にしてありました。私の答えは次のようになります。

がんの成長を抑制するための方法をすべて文字通りに実践しない限り自分の身を守れない、というわけではない。人間の体は、それ自体、各機能が他の機能と相互作用を起こすような、均整のとれた巨大システムである。その機能のうちたったひとつにでも変化があると、必ず全体に影響が及ぶ。だからこそ、食事療法、運動、精神面の訓練、もしくは人生にこれまで以上の意味や意識をもたらしてくれる何らかのアプローチ法のうち、自分が実践しやすいものから始めればよいのである。人それぞれ状況も性格も異なるのだから、やり方もそれぞれであるべきだ。ただし、すべてのアプローチ法に共通している重要なポイントは、生きたいという願望を強めることができるかどうかという点である。

人間は高度な複雑系であり、なかでも脳はもっとも高度な複雑系です。この脳が免疫系とも相互作用をしており、免疫系は精神活動、「こころ」といわれるものとも相互作用しているのです。複雑系は、システムを構成している各要素間が強い相互作用をしていて、さらに部分が全体とも相互作用をしている。複雑系の基本性質は、「ほんの少しWshot00013条件が変わるだけでまったく違った結果が生み出される」ということです。これはローレンツの「バタフライ効果」ともいわれています。ローレンツが「ブラジルでの蝶の羽ばたきがテキサスの竜巻を引き起こすか?」という題で講演を行なったことが起源になっています。

ローレンツは、流体力学をもとにした単純な三つの数式により、気体の示
すカオス的行動をシミュレーションして感動的な図形をつくった。これが蝶々のような図形になっていたのです。この図形がアトラクターと言われるものです。(ストレンジアトラクター  )

3変数の微分方程式でのアトラクターの例。対流運動を簡単化した方程式で、このアトラクターが初期の差を増幅し続けてカオスと呼ばれるアトラクターであることをローレンツが証明した。こちらのページに、方程式とアトラクターを描くシミュレーションがあります。

気象も複雑系のひとつです。複雑系は非線形系でもあるのです。非線形系では、ある規則性を理解しても将来の予測は不可能だという性質があるのです。だから天気予報は当たらない。つまり、スパコンを使って温度や気圧や太陽熱や地形等のデータをすべて使って計算しても、ほんの少しの「ゆらぎ」があれば、そしてゆらぎは必ず存在しますから、明日の天気は当たる確率が高いとしても、一週間後、一ヶ月後の天気予報はほとんど当たらないということになるのです。これがカオス理論です。

がんが増殖する要素(逆に言えば縮小する要素)がN個あったとすると、今の私のがんの状態はN次元の状態空間におけるある一点で表わすことができます。N次元空間を我々は思い浮かべることはできませんから、仮にN=3の場合を考えると、3次元空間のある点で表わすことができます。X軸に「食べ物の抗がん作用」、Y軸に「運動による体質改善」、Z軸に「こころの免疫賦活作用」を考えるとすると、この3要素の現在の値をプロットした点に私のがん=健康状態を表示することができます。3要素が変化すると、この点はそれに応じた軌道を描きます。この図は便宜上3次元で3要素しか書いていませんが、実際はもっとたくさんの要素があります。

そして人間にはホメオステーシス(恒常機能)といわれる、健康な状態を保とうとする性質があるのですから、これらの3要素に少しのゆらぎが生じても(微少ががん細胞が発生しても)、もとのあるべきところに戻ろうとするはずです。十分な時間がたったあとで、これを状態空間の軌道として描けば、いろいろな軌道を描きながらもある正常範囲の領域に落ち着いてくるはずです。つまり、アトラクターとして固定点あるいは固定された領域に落ち込むことになります。

人間は治ろうとしている。だから治る方向にちょっと肩を押してやれば、そのちょっとの摂動が複雑系全体に大きな影響を与えることがあるのです。

食事を変えれば体質が変わる。がん細胞の餌となる有害なものが体外に排出され、細胞内の分子がよりよい環境になる。瞑想をすればストレスに強いこころが育まれて、NK細胞が活発になる、脳からも免疫活動を補強する情報伝達物質が放出され、食事によって改善された体質のなかを効果的にがん細胞まで移動する。動物性タンパク質よりも植物性タンパク質を多く摂ると積極的に運動をするようになる。瞑想やヨガは自分の体への意識を高め、胃への負担や体全体への影響を感じるようになり、バランスの悪い食事は避けたくなってくる。放射線や抗がん剤による影響を低減し、治療の効果を高めることができるようになる。このようにすべての要素が相互作用をしているのです。

複雑系のある要素に少しの摂動を与えれば、それが「ブラジルの蝶がテキサスの竜巻を起こす」ように、大きな影響を与えることになるのです。あるいは気象の例でいえば、つい最近も大雨による水害で多くの人命が失われましたが、大雨の降りやすい地形があります。主に南東側の斜面です。天気予報を当てることは難しいかもしれないが、南東側の斜面には大雨による水害が起こりやすいということが分かってれば、被害を防ぐ対策を立てることができるのです。がんについても、確実とは言えなくても有効だと思われる対策はたくさんあるのです。

つまり、これをやれば100%がんが治るという治療法やサプリメントは、複雑系の基本的性質からいってもあり得ないということです。しかし、効果があると思われる(エビデンスがあるということではなくて)ものを、いくつか実践していけば、アトラクターがある軌道に徐々に落ち着くように、がんが治癒する可能性が格段に高くなるということは言えるでしょう。

玄米菜食で必ず治るとか、体を温めればがんは消滅するとか、笑っていればそれだけでがんは逃げ出すとか、このような「これだけで」「100%治る」という言葉をもてあそんでいる者たちは信用してはならないということです。もちろん玄米菜食だけで治ることもあるはずです。ですからまったくウソというわけではない。それはその人のN個のがんが治る要素のなかで、玄米菜食による要素が高かった、あるいは他の要素との相互作用でそのような結果になったということです。「これさえやれば」という考えは、がんも人も複雑系であり、各要素が相互作用しているという事実を無視しているのです。

話題ガンになったら読む10冊の本―本えらびで決まる、あなたの命は少し変わって、船瀬俊介氏の最近(2009/7)の著作に『ガンになったら読む10冊の本』があります。10冊の本として次のような本が挙げられています。

  1. 『医者が患者をだますとき』  ロバート・メンデルソン
  2. 『「薬をやめる」と病気は治る』  安保徹
  3. 『病気にならない人は知っている』  ケヴィン・トルドー
  4. 『癒す心、治す力』  アンドルー・ワイル
  5. 『新版・ぼくが肉を食べないわけ』  ピーター・コックス
  6. 『新・抗がん剤の副作用が分かる本』  近藤誠
  7. 『ガン食事療法全書』  マックス・ゲルソン
  8. 『「ガン・治る法則」12か条』  川竹文夫
  9. 『ガン絶望から復活した15人』  中山武
  10. 『病院に行かずに「治す」ガン療法』 船瀬俊介

船瀬俊介氏といえば、『新・知ってはいけない!?』が「2009年トンデモ本大賞」に輝いています。「秋葉原惨劇のルーツはブッシュ政権」というこじつけ、「グルメ番組は石油・穀物・食肉メジャーの陰謀」といった陰謀論、「宅間守は化学物質のせいで殺人鬼にになった」「野生動物は断食で病気を治す」「骨髄造血は否定されている」といった珍説の数々を紹介している本らしいです。(読んでいません)

彼の『ガンになったら読む10冊の本』にも首をかしげるような箇所がたくさんあります。放射線が腫瘍を発生させるというが、問題は放射線の量でしょう。自然放射線でも年間で2.4mSvの被曝があります。どんなに少ない放射線でも危険だというのなら、自然放射線も避けなければなりません。不必要な医療被曝を避ける、というのなら理解できますが。

代替療法が普及しないのは「医療マフィアの陰謀」だという相も変わらずの陰謀説。第3章の『病気にならない人は知っている』を紹介した箇所では、

  • 有害な電磁エネルギー
  • 携帯電話中継タワーからはエネルギー波を発している
  • 携帯電話からは協力で不自然なエネルギー
  • 高圧電線からはマイナスエネルギー
  • コンピュータからはマイナス電磁エネルギー
  • マイナスイオンは健康を増進させる
  • ビル風はプラスイオンを含んでいて健康に有害

などと書かれています。
マイナスのエネルギーとは物理的にどんな状態を指すのでしょうか。マイナス電磁エネルギーて何なのでしょう。 彼には活性酸素とフリーラジカルとマイナスイオンの区別もつかないようで、全部ひとくくりにして「有害」だと言っています。九州大学理学部に籍を置いた人物の書いたものだとは、とても信じられません。この点だけを見ても、彼の他の記述をまともに信じては危ないということが断言できます。一見科学的に見える言葉を使って、都合の良いように解釈しているだけです。もっともこの本に書かれていることがすべてでたらめというわけではなくて、正しい指摘の部分もありますが、いかんせん、すべての記述に関してその根拠が示されていない。私はアンドルー・ワイルの主張がすべて正しいとは思っていませんが(特に霊性に関して)、しかしこの本に取り上げられることは不本意なのではないでしょうか。安保徹氏と一緒くたにされてはかわいそうです。

一面の真実でも、それを唯一の真実だと主張したとたんに似非科学への仲間入りをすることになるという見本です。

がんに効く生活―克服した医師の自分でできる「統合医療」この本の対極にあると言えるのが、『がんに効く生活』です。医学研究者でありガン患者でもあったシュレベールが、客観的な研究者の目で、実験結果をわかりやすく、根拠のあるデータを集めて、科学的に裏付けられた実践的データによって「ガン患者が何を為すべきか」を語っています。しかもそれは著者自身が実践して効果を確かめたことばかりです。自分自身をがんから守るための重要なポイントは、

  1. 体質をケアする必要性
  2. 体が本来もっている防衛力に対する意識
  3. 防衛力同士が組み合わさって起こる作用の相乗効果

だと言います。そして成功の鍵は「昨日までの自分を変えること」だと。

がんを、作らない、育てない、あきらめない

『がんになったら読む10冊の本』よりも、私はこの一冊で十分だと言うことができます。最初に書いた私の答え(青いフォントの部分)も、実はシュレベールがこの本で述べていることを借用したものなのです。


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