がんと免疫
「がんは免疫機構の監視をくぐり抜けて大きくなったのだから、自己免疫力ではがん細胞をやっつけることは難しい」
これは正しいでしょうか?
免疫とは、自己と非自己を区別する能力のことです。がん細胞を「非自己」と判断すれば、NK細胞が主役となってがん細胞を攻撃します。私たちの体内では、毎日5000個ものがん細胞が生じているといわれますが、ほとんどがNK細胞などの免疫細胞によって退治されているのです。しかし、たまたま「自己」と区別することができなくなったがん細胞は、免疫細胞の目を逃れて増殖することで、腫瘍として大きく育っていきます。
それでは一度がん細胞を見逃してしまったら、もう諦めなければならないのでしょうか。免疫力は無力なのでしょうか。そうしたことは決してありません。花粉症は免疫細胞によるアレルギー疾患ですが、昨年まで花粉症でなかった人が、今年になって突然花粉症に悩まされるということが起こります。どこかの時点で免疫システムに「スイッチ」が入ったわけです。
がんの場合でも、見逃したがん細胞が増殖し、周辺の正常組織を破壊し、転移していく過程で、免疫システムが、こいつは「敵だ」と認識し直すということがあるのです。スイッチが入り、がん細胞を攻撃し始めるのです。大腸がんが肺や肝臓等の別の臓器に転移した場合でも、原発部位を切除し、転移した臓器を治療すれば、その後はどこにも転移せずに十数年も元気でいる患者がときにいます。『がん六回 人生全快』の著者、関原健夫さんなどもその例でしょう。
転移する能力を持っていたのですから、近藤誠氏の説に従えば治らないはずです。体中にがん細胞が散らばっていても、免疫力によってそれ以上は暴れることがないように押さえ込んでいるとしか考えようがないのです。ま、近藤氏は「それはがんもどきだったんだ」と言うに違いありません。がんもどき論はこのように、反証可能性を持っていない。ああ言えばこう言う、ということです。カール・ポパーは「どのような手段によっても間違っている事を示す方法が無い仮説は科学ではない」とし、これが科学と疑似科学を区別する方法だと提唱しています。その意味では近藤氏の「がんもどき論」は似非科学の範疇に属していると言っても良いでしょう。
閑話休題
抗ガン剤の副作用がつらくて治療を止めたら、がんの進行が遅くなったということもしばしば起こります。抗がん剤による効果がなければ、治療が免疫力を損なうのですから、抗がん剤を止めたら本来の免疫力が働いてがんの進行を抑えるのでしょう。低用量抗がん剤治療にも、こうした側面があるのかもしれません。
では、どうしたら免疫力を高めることができるのか。科学的にはっきりしたことは分かりません。免疫という仕組み自体が、まだやっと入口が分かり始めたという程度ですから、確実にがん細胞をやっつける免疫のスイッチをどのようにすれば入れることができるのか、まったく分かっていないのです。
同じ膵臓がんであっても、患者一人一人でがん細胞の遺伝子の異常の状態は異なります。ひとりの患者の膵臓がん腫瘍でも、その中のがん細胞の遺伝子異常は、細胞ごとに違っているというのが、最近の医学で分かり始めたところです。
『がんに効く生活―克服した医師の自分でできる「統合医療」』に次のような記述があります。
ある日フィドラーは、共同研究者たちに顕微鏡で膵臓がんの映像を見せた。フィドラーのチームは、がん細胞をそれが利用する成長因子(”栄養素”)ごとに色分けすることに成功していた。こうした因子により、腫瘍が定着し、成長し、化学療法に対する耐性を身につけることができるのだ。色づけによって、ある細胞は緑に、ある細胞は赤や黄になる。(核は青くなる)。たとえば、膵臓がんの腫瘍を見ると、さまざまな色が現れており、がん細胞がさまざまな成長因子を利用していることが分かる。「ここから得られる結論は?」フィドラーはスライド上にレーザーポインターをあてながらたずねた。「赤の成長因子を抑えても、緑にやられてしまう。緑を抑えても、赤にやられてしまう。ということは、これらを一度に全部やっつけるしかない」
つまり膵臓がんの成長を抑えようとするのなら、がん細胞が利用している成長因子の全てを同時に抑えるしかないのです。そのためには抗がん剤だけではなく、あらゆる可能性を検討して、いくつもの代替療法を取り入れた方が良い。食物も、さまざまな抗がん作用の相乗効果を利用できるように、多くの種類を試した方が良いのです。「○○水」とか、ジュース療法だけで腫瘍の増大を抑えるような効果は期待できないのは当然でしょう。
かの有名なライト氏の例もあるように、自己免疫力は、ときには一晩で腫瘍を全て消してしまうほど強力な力を出すことがあります。全ての患者において、多かれ少なかれ免疫力が介在してがんと闘っているはずです。しかし、遺伝子の異なるがん細胞の全てをやっつけるほどの「スイッチ」が、どのようにすればオンになるのか、現在の医学ではまったく解明されていません。
がん細胞も、免疫力を獲得している人体も「複雑系」ですから、ある一カ所のスイッチがオンになることで、雪崩のように免疫システムの全体が活性化され、驚くような奇跡的治癒が起こるのでしょう。しかし、こうすれば絶対に確実だという方法はありませんし、あったとしてもその方法は一人一人で違うのだと思われます。
結局、現時点での最良の方法は、より可能性のある治療法(少なくともヒトでのある程度のエビデンスがあるもの。現代医学的であれ、代替療法的であれ)の中から、自分が納得できるものを選択して試してみる以外にありません。そうした参考として第一に挙げることのできるのが、シュレベールが『がんに効く生活』で紹介している内容だと思います。
- 第一に重視すべきは「心の平穏」を見出し、それを継続すること。これは決定的に重要です。そのために、瞑想・心臓コヒーレンシー・ストレスを最小限に抑えるバランスのとれた生活。
- 第二番に重視すべきは、「運動」です。運動の大切さは強調しすぎるということはない。
- 運動と同じく「栄養」を挙げることができる。
免疫細胞は、客観的に見て、より”生きる価値”があるように見える人生を送っている人間の体内では、それだけ活発に動くかのように見える。(シュレベール)