ミクロの大冒険

録画を取ってあったNHKスペシャル『人体 ミクロの大冒険』をやっと観終わりました。CGをふんだんに使った興味深い内容でした。1回目。遺伝子は受精の瞬間に決まるが、細胞は周囲の環境を察知しながら働かせる遺伝子を選択しているのであり、これはまさにエピジェネティクスの考え方です。2回目はシステムとしての人体内で情報伝達をになっているホルモンの役割でした。3回目の最後が特に印象に残りました。「老い」とは、「死」とはどういうことなのか。なぜヒトはがんになるのか。それを免疫系の反乱として解明します。

「老化」とは「免疫細胞の暴走」として理解することができます。T細胞をはじめとする免疫細胞が本来の働きをしなくなるのです。
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免疫システムの司令塔であるT細胞が判断能力を失い、マクロファージは正常な細胞を攻撃し、異物を攻撃するはずの炎症性サイトカインの不必要な放出が、動脈硬化や糖尿病の原因だったのです。
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これらの老化に伴うとされてきた多くの病気の共通の原因として「免疫系の反乱」があると分かってきたのです。

では、どうして免疫細胞の司令塔であるT細胞はなぜ判断能力を失って暴走するのか。骨髄で作られたT細胞は、胸腺という小さな組織に送られて、そこで司令官となるための教育を受けます。「非自己」である異物や微生物を正しく識別して、「自己」である正常な細胞は攻撃しないための教育です。そして卒業試験に合格するのはわずか5%です。95%は役立たずとして破壊されるのです。非常にムダの多い仕組みですが、こうして免疫システムが正しく働くようになっているのです。

ところが、この胸腺は思春期を過ぎると退縮してほとんどなくなるのです。
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その結果、20歳ごろから後は、新しいT細胞はほとんど作られなります。T細胞は非常に寿命の長い細胞ですが、それでも70歳ごろになると、正常な判断力を持ったT細胞は非常に少なくなるのです。
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こうして老化が進むのです。さまざまな病気に罹りやすくなります。しかし、私たちは残ったT細胞でやりくりしていくしかないのです。

希望はあります。山中教授の発見したiPS細胞を使うと人為的に新しいT細胞を大量に作ることができるのです。将来的には成人病、生活習慣病と言われるほとんどの病気が、たったひとつの方法、人工T細胞を補充することで治療が可能になるかもしれません。

現状でも、運動をすることで免疫力を高めることができるのです。わずか5分の強い運動だけでも、免疫細胞が活発に動くことが分かっています。これは筋肉から分泌される物質が免疫細胞を活発化させるためです。
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番組では触れられていませんでしたが、免疫細胞と脳・神経系は、ホルモンを使って活発に情報交換をしています。心の有り様が免疫細胞の活性化に影響を与えているのです。したがって、免疫システムを活発にするためには、「心の平安」と「運動」が重要なのです。食物やサプリメントは、これらに比べれば影響力は小さいと言えます。十分な睡眠と地中海料理などの健康的な食事をすることです。

がん患者は、心を穏やかに過ごし、適度な運動を心がけることがもっとも効果的です。ともかく、歩け、歩け、です。間違っても、安保徹の「免疫理論」や済陽高穂らの「ジュース療法」に騙されないように。

番組で紹介されているような老化と免疫の関係は、20年も前に多田富雄が『免疫の意味論』で言及していることであって、決して新しい発見ではありません。

免疫の意味論
胸腺が退縮するのにやや遅れて、T細胞系の免疫機能の低下が起こる。T細胞に依存した抗体の生産能力、がん細胞などを殺すキラーT細胞機能、ヘルパーT細胞機能などが、だんだんと低下する。」非自己」に対するさまざまな反応性は、遅かれ早かれ低下の一途をたどるのである。

老化による免疫系の失調は、おしなべての反応性の低下などという生やさしいものではなくて、裏腹に起こってきた無規則な反応性の異常上昇を含む、極めて深刻なものなのである。

こうしたさまざまな異常のおおもとに、胸腺の加齢による退縮という事実があることは想像にかたくない。免疫超システムの自己組織化に大きな役割を持
つ胸腺が、その働きの一部を停止してしまった。日々消費され、また運命的に寿命を終わってゆくT細胞を、有効に入れ替えるためのメンバーのサプライがなく
なった。

老化の悪性なところは、生体機能のさまざまな部分が一様に低下してゆくなどという生やさしいものではないことである。

生殖年齢が終わると、プログラムされたように自己組織化の働きを低下させ、運命的に退縮してゆく胸腺。その縮小の効果が現れるまでには長い時間がか
かるが、やがて時限爆弾のように超システムを崩壊させる。それは、一方的に自滅的で、今のところ防ぎようがない。しかもそれが、自他の識別という、生物個
体の自己同一性に関わるところから、胸腺の退縮は深刻である。

生物的にいえば、生殖年齢を過ぎた個体を、95%もの免疫細胞を破壊し続けながら生かしておくことは、種の発展という観点からは不必要なことです。細胞がそれを知っているのです。

地球の長い歴史の中で、環境の激変にあっても子孫を残すという生物の目的のためには「性」と「死」を獲得することが最も合理的な戦略だったのです。
「死」を避けて生き続けようとすることは、「生」そのものに反する行為であり、遺伝子の存続と生物の多様性を否定することでもあるのです。細胞死による利
他的な自己消去能こそが生命の摂理の根底にあり、「死」なしでは新たなアイデンティティを持った固体の創生は望めないし、存続もできないことになります。


の遺伝子が本来的に利他的であるとするならば、私たちの固体も、究極的には他のために生きるべくして生まれてきたと言えるのではないでしょうか。有性生殖
と「死」による遺伝子のシャッフルがなければ、「個」のアイデンティティも生まれようがなく、「個」のアイデンティティの時間的蓄積が「死」によって完結
することを考えれば、「死」は「生」の別名だということになります。

可老可死のなかで自分の夢を追求し、与えられた時間のなかを自由に生きることで、人間の本来の姿が見えてくるのです。だとするならば、不
老不死を願い身体を再生することを願うのではなく、「心」を再生することが、がん患者に限らず全ての人間にとって「命」を生きることになるはずです。
「今、ここに生きよ」と多くの賢人が言ってきたことは、そのような意味でもあるのでしょう。

「死」がやってくれば受け入れれば良いのです。ただ、できうるならば穏やかなものであって欲しい。苦痛の時間は短い方が良いと願うだけです。死ぬのは嫌だけれども、怖くはないのです。

ヒトは進化の過程で、可老可死を選択することによって生き残ることができた生物の末裔なのです。


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