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「がんペプチドワクチン療法」は夢の治療法か?(1)

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がんペプチドワクチン療法

10月26日の「クローズアップ現代」でも紹介されたように、がんのワクチン療法が最新の免疫療法として注目されている。大阪大学・久留米大学のWT1ペプチドワクチン、東京大学医科学研究所の中村祐輔教授らの進めている「がんペプチドワクチン療法」など、このブログでも情報をその都度紹介してきた。しかし、注目を集めている割には我々がん患者がそれらの治療法のどこが新しいのか、その全貌をつかむことは難しい。医学論文を検索すればある程度は把握できようが、医学的基礎のないがん患者に、論文を読んで内容を理解することは困難である。中村祐輔教授には「ゲノム医療」に関するいくつかの著作があるが、がんペプチドワクチン療法に関するまとまった著作はなかったが、このほど『がんペプチドワクチン療法』と、そのものずばりの著作が刊行されたので、その内容に沿って紹介しつつ、がん患者から見たいくつかの疑問点をあげてみる。そして、がんペプチドワクチン療法が第4の夢の治療法であるのか、考えてみたい。この著作の帯には「臨床医とがん患者の疑問に答える」と書かれているが、はたして疑問点が明らかになるかどうか。

がんペプチドワクチン療法の原理

ペプチドワクチンを注射するとどのような仕組みでがんを攻撃するようになるか。75_0001_3

  1. がん細胞には無秩序な増殖・浸潤・転移といったがんに特異的な性質に関係するがん特異的タンパク質(オンコアンチゲン)が存在する
  2. このタンパク質ががん細胞内で分解されて短い断片(ペプチド)になり、この断片とHLAのタイプがマッチングすると結合する
  3. 細胞内を移動して細胞表面に抗原として提示され、がん細胞の目印になる
  4. この目印を認識できる細胞障害性Tリンパ球(CTL)が存在していれば、がん細胞を外敵の侵入と見なし、パーフォリン・グランザイム・TNFなどの物質を放出してがん細胞を殺す

*HLA(human leukocyte antigen) ヒト白血球型抗原:自己と非自己を見分けるために重要な働きをしている分子で、白血球の血液型といってもよい。

しごく単純化すればこのような仕組みである。アンダーラインをした部分は、仮定の命題だと私が考えた箇所である。

がん細胞は元は自己細胞であり、変異がない限りリンパ球は攻撃しないはずであるが、それについてはこのように説明されている。

がん細胞とはいえ、もともとは自己のタンパク質であるため、理論的には変異などがない限り、それらに反応するリンパ球は排除されているはずだが、自己抗原に反応するリンパ球は100%完全に排除するには至っていないようである。

何となく歯切れが悪い表現だ。正常細胞を攻撃する恐れはないのか。それに対してはオンコアンチゲンを慎重に選ぶから正常細胞への影響はほとんどないと考えている、と説明する。

上の4.で述べた細胞障害性Tリンパ球(CTL)を誘導するのががんワクチンであ20091116144648075_0002
る。

  1. 9~10アミノ酸からなるペプチドワクチンをアジュバント剤とともに皮下注射する
  2. 表皮または真皮の樹状細胞の上でこのペプチドが抗原として提示される
  3. 樹状細胞がリンパ節などに移動し、集まってきたT細胞を活性化(教育)して細胞障害性T細胞(CTL)に成長させる
  4. このCTLががんの目印を見つけて攻撃する

結局は「がんペプチドワクチン療法」とは「樹状細胞療法」の一種といってもよいだろう。テラ株式会社とセレンクリニックの樹状細胞ワクチン療法は、体外に取り出した樹状細胞にがん細胞の特徴を覚え込ませて、それを体内に戻し、リンパ節に移動した樹状細胞がTリンパ球を教育してがんを攻撃するという仕組みである。がんペプチドワクチン療法は全て体内でその仕組みが起きる点が違っている。

樹状細胞が関するCTL誘導の機序は、次のようになる。

樹状細胞(DC)上のHLA ClassⅠ抗原と抗原ペプチドを認識して、CD8陽性キラーT細胞が誘導される。その活性化にはCD4陽性ヘルパーT細胞に由来するIL-2(インターロイキン-2)や樹状細胞に由来するIL-12等のサイトカインが必要とされる。

しかし、こうした機序はウィルスやバクテリアにおいて解明されているものであり、がんにおいて樹状細胞がこうした機序でCTLを誘導することが必ずしも証明されているわけではない。

また、がん細胞の表面に提示されているといわれるHLA抗原は、常に提示されているわけではない。がん細胞にはある割合でこのHLA分子の発現が失われている。この場合はいくらCTLを増やしても効果がない。がん細胞が目印を隠しているのだから、CTLはがん細胞を認識できない。そこで中村教授らは、がん細胞が成長するときに新しい血管を作りながら栄養を補給することに目を付けた。オンコアンチゲンではなく、腫瘍新生血管細胞をターゲットにしたペプチドワクチンである。

新生血管内皮細胞には血管内皮細胞増殖因子受容体(VEGFR Img01
)が作られる。この受容体はがんのみにあるのではないが、がんでは非常に高率で発現している。新生血管内皮細胞は正常細胞であるので、HLA分子が発現しており、VEGFRの一部が抗原として表面に提示されている。これを目印としてCTLを誘導し、がんの新生血管を攻撃して殺し、がんを兵糧攻めにしようというわけである。

このように書くとすばらしい方法だと受け取るかも知れないが、要するにCTLが、がん細胞を攻撃してくれるという保証がないから、がんの周りの新生血管を攻撃して兵糧攻めにしようというわけである。NHK等で紹介されて大きな反響をよんだ和歌山県立医大の膵臓がん患者の臨床試験も、この腫瘍血管のVEGFRを対象にしたものだった。


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