今日の一冊(108)「医療の現実、教えますから広めてください!!」

名郷直樹さんの本は、これまでもこのブログで何度も紹介しています。

ピンピンコロリは理想だが・・・

「健康第一」は間違っている』では、「ボケても寝たきりになってでも長生きしたい、というのと、美味しいものを喰って、タバコもやめないで、5年10年早死にしてもいいから、病院などには行かずに楽しく暮らしたい、という考えは”等価”ではなかろうか。しかし世の中は長生き志向、健康志向ですね。がんも早期発見、早期治療が唯一正しい選択だという風潮が蔓延しすぎているのではないでしょうか。」

タイトルだけを見ると医療否定本のようですが、名護医師は EBM 実践ワークブックなどの医師向けの著作もあり、早い段階から EBM に基づく医療を行ってきた方です。

「ピンピンコロリ」が理想だと言いますが、これは願ってもなかなか得られるものではありません。でも、ある日気が付いたら膵臓がんの末期だったというのは、高齢者にとってはピンピンコロリの理想的な最期に近いのかもしれません。

だって苦しいのは最期の数日からせいぜい一か月程度だし、膵臓がんでもほとんど痛みのない人もいます。脳梗塞で5年10年あるいは20年と介護が必要で、やっと死ぬような状態よりは、逆説的ですけども膵臓がんになるのも、高齢者にとっては「ピンピンコロリ」の理想に近いのではなかろうか。

まあこんなことをつらつらと紹介した記事を書いたことがあるのですが、名護医師の辛口の批判、独特の医療に対する視点には多いに啓発されます。

中には首をかしげる、いや私としては「それはちょっと違うんじゃないの」というところもはなくはないのですが、概ねたくさんの気づきを与えてくれる本です。

明治時代の脚気論争から進歩していない医者たち

最初にこの本の最終章の言葉を紹介しておけば、「医学は進歩したが、医者は進歩していない」と結論づけています。

有名な脚気論争からスタートします。明治時代の脚気の研究から、日本の医学界の体質について述べています。作家の森鴎外は、本名森林太郎といい軍医でもありました。日本海軍で脚気が集団発生する出来事があり、高木兼寛が米食と麦食の比較試験を世界初の臨床実験として行なったわけです。そして麦飯あるいは米ぬかを食わせれば脚気にならないということを事実で証明します。

それに対して森林太郎ら東大の派閥が論理で反論します。結局高木兼寛の主張は長く葬り去られて、日本全体で脚気がなくなるのは1960年以降のことです。

その背景には森鴎外ら東大グループの、権利に基づくだけで、理論を重視して事実を見ないという非科学的な態度がありました。

ディオバン事件を振り返れば、そのような現状は今でも変わっていません。ディオバンという降圧薬の臨床試験でデータの捏造が明らかになった事件です。

この事件には脚気論争で、事実に基づく論証をした高木兼寛が創立した慈恵医大と森林太郎の東大グループのどちらもが関わっているわけです。

早期緩和ケアにはオプジーボと同等の効果

緩和医療についても同様に分かりやすく説明しています。早期の緩和ケアを受けたグループと、標準治療だけのグループを比較すると、生存期間が約3ヶ月延びたという研究があります。

画期的な抗がん剤、免疫チェックポイント阻害剤のオプジーボですが、オプジーボの生存期間に対する効果は平均すると3ヶ月で、早期からの緩和ケアはオプジーボと同じ程度の効果があるのです。

独身で、介護者のいない患者が一番長生きする

面白い話題もあります。緩和ケアを診断の直後から導入したグループと、がんの診断されてから3ヶ月後に導入するグループを比較した試験ですが、後付けの分析ですか、介護者の有無によって患者の生存率に差があるかどうかをサブグループ解析をしています。

その結果は予想に反するもので、介護者を持つ患者では、介護者のいない患者と比べて1.52倍も死亡リスクが高い、という結果でした。さらに結婚している患者では2.92倍も死亡リスクが高く、一番生存期間が長かったのは、結婚せず介護者もいない患者でした。

結婚もせず、身寄りもない独居老人がこれからどんどん増えていきますが、当然彼らもがんになります。しかしこの研究結果を見れば、決して悲観する必要がないのではないでしょうか。

  • がん終末期の点滴に医学的効果は期待できない
  • 終末期の患者にとって在宅酸素療法は意外に効果がない
  • 終末期の呼吸困難患者にモルヒネは有効なのか

びっくりするのは、終末期の呼吸困難患者には扇風機で風を送った方が有効だという指摘です。

がん検診についても斜めからの指摘が盛り沢山です。

  • 助かるのであれば、がんは遅く見つかった方がいい
  • 早期発見のがんほどメリットを実感しにくい
  • がん検診で見つかりやすいがんは進行が遅い
  • 早期発見した人の生存期間はもともと長い
  • がん検診を自ら進んで受ける人は元々健康な人だ

プラセボと同じく安全ですと、首をかしげるDPP4阻害薬

糖尿病の治療についても多くのページを割いていますが、一つだけ取り上げでば、画期的な治療薬と言われたDPP4阻害薬についても批判的に書かれています。

何しろこの薬、プラセボと比較した試験が行われているのですが、「偽薬と比較して差がないから安全である」。そういうことで販売された薬なんですね。しかも、心筋梗塞などの心血管疾患については DPP4阻害薬で治療をした群で7.3%、プラセボ群で7.2%と、全く差がない。

ところがこの薬の宣伝には、この試験の結果を使って、「心血管疾患を増やす副作用はありません。プラセボと同等に安全です」こんな話になっているのです。

DPP 4阻害薬、実は私も勧められたことがあります。一錠が数100円もするんです。それでこの程度の効果しかありません。それで主治医には「私は新しい薬には飛びつかない主義です」と言って断ったことがあります。断って正解でした。

ワセダクロニクルが作った「マネーデータベース 製薬会社と医師」の上位に載っている医師の多くは糖尿病治療のエキスパートが多いですね。

ステージⅢの胃がんは、85歳の誕生日を迎えたと考える

がんについてもう一点書きます。

85歳の男性の平均余命は6歳と少しです。85歳まで生きた男性は平均すれば91歳まで生きるということです。逆に言えば、91歳までには半分の人が亡くなるということでもあります。

これに対して、例えばステージⅢの、遠隔転移はないが進行した胃がんの5年生存率は、40から50%です。つまり85歳の誕生日を迎えてお祝いをすることは、ステージⅢの胃がんを告知されたことと同等なわけです。そのように考えれば、がんとの付き合い方も少しは違った目で見えるのかもしれません。

名護先生独特の医療批判本ですが、じっくりと読めば大いに参考になること間違いありません。


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