今日の一冊(5)『近藤理論に嵌まった・・・』

高知に高齢の独り暮らしの母親を残した3人の登場人物の対談方式で書かれた「近藤理論批判」との触れ込みにつられて買った。十数年前、私も肺がんの手術をした母をひとりで高知に残していたので他人事ではない。

近藤理論に嵌まった日本人へ 医者の言い分(祥伝社新書)

近藤理論に嵌まった日本人へ 医者の言い分(祥伝社新書)

村田幸生
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「近藤理論に科学的に反論するのは結構難しい」と、端から白旗を揚げるように言う。相手は「抗がん剤は効かない!」と断定的にひと言で済むが、それに反論しようとすると、医療は個人差があり不確実性に満ちているから、統計的に反論していくしかない。ところが多くの医者は医療統計に関してほとんど無知である。なかには生存期間中央値と平均余命を混同している医者もいる始末である。

リードタイムバイアスだのクロスオーバー試験だのと続けられたら、普通の患者に理解しろという方が無茶というものだ。勝俣範之医師の『「抗がん剤は効かない」の罪』が科学的に反論し、抗がん剤の延命効果は「確かにある」としているのだが、話が専門的になる。これはしかたのないことなのかもしれないが、がん患者が聞きたいのは「抗がん剤で私はどれくらい長く生きられるか」なのだ。抗がん剤治療をすれば「統計的に」生存期間中央値が2か月延びます。と言われても、わずかに数ヶ月なのかと思ってしまう。がん患者としては「数年、2年は生きのびたい」と考えている。しかし、辛い副作用に耐えても数ヶ月。しかも、本当に自分は数ヶ月延命したのだろうかと考えてもその実感はないだろう。患者が亡くなったあと、遺族も「抗がん剤よ、ありがとう」という気持ちにはとてもなれないという。

著者も書いているように「抗がん剤に延命効果があるのは、一般に認められたコンセンサス」があるという。コンセンサスは科学的根拠ではなかろう。実際に近藤氏が言う「無治療」と抗がん剤治療を比較した大規模臨床試験は、存在しない。倫理的に許されないからだ。ある抗がん剤と新しい抗がん剤の比較だけである。だから、原理的に近藤理論に対して科学的な反論は無理である。

「標準治療が、現時点で最良の治療法である」を一応認めましょう。「再発転移したがんは完治することはない」も渋々ながら認めるとしましょう。「抗がん剤の延命効果は数ヶ月程度」も我慢しましょう。しかし、がん患者である私にはどのようなことをすれば良いのでしょうか?何かできることがありますか? という問いに、医者は何も答えてはくれません。がん患者だって「自分の命」だから自分の治療に参加したいのですよ。怪しげな代替療法は「これで末期がんから生還した」と断定してくれるから、つい騙されるのです。

抗がん剤で治らないことが分かっていても、まれにがんが消える患者がいたりするから、きつい副作用に耐えながら奇跡を信じて治療をしているのです。でなければやってられません。それでつい、止め時も考えられないで死の直前まで抗がん剤を投与する。しかし、誰が「馬鹿な患者」だと責めることができるでしょうか。

がんは複雑系だから、原理的に未来は予測できないのです。それを予測しようとするから悩みが尽きない。まれに奇跡的に治る人もいるが、じゃあどうすれば奇跡が起きるのかが分からない。医者に「治りますか?」と尋ねると「統計的には・・・」という答えがかえってくる。もちろん、そう答えるのが正しい。しかし、患者としては納得できない。

著者の村田幸生先生は最後に秀吉が柴田勝家を言い負かした『清洲会議』に例えて、「プレゼンテーションの優劣で勝負が決まっている」と言い出す始末です。近藤誠のプレゼンがちだと。まぁ、いいか。

私の考えは、標準医療は無視しないし多いに利用するが、ある程度のエビデンスがあれば代替療法も採用する。場合によっては抗がん剤も拒否することもある。やるべきことをやったなら、結果(死)を受け入れる準備をしておく。だって複雑系の未来を予測しようなどという努力はムダだから、そのエネルギーを別のこと、趣味や仕事や社会的な貢献に割けば良いと考えている。そのような生活をする方が、助かる確率が少しでも高くなると信じている。

「ボクの妻と結婚してください」の主人公、膵臓がんで余命6ヶ月と告知された三村のように、残される妻のことで必死になるのも良いかも知れないね。ところで、このドラマの最終回はハッピーエンドだというのだが、どんなになるんだろうか?もしかして誤診だったとか。日曜日が楽しみだ。


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