医療が目指すのは延命だけ?
川崎市立井田病院かわさき総合ケアセンター腫瘍内科医の西智弘先生が新刊を出されます。そのなかから、幼い子どもを抱え、ある日突然、膵臓がんと診断されたタムラさんの例を紹介されています。
大学病院の医師の対応がひどいですね。
こういう医師は未だにたくさんいます。「転移があるから手術はできません。すぐに入院して抗がん剤をやりましょう。ただし抗がん剤をしても治すことは難しいので、まあ数ヶ月延命できるだけですけども。」
タムラさんの場合もたぶんステージ4 B でしょうか。しかし一か月入院しての抗がん剤っていうのは今時少ないのではないでしょうか。初回の抗がん剤で慎重を期して入院することはあるにしても、一か月はないような気がします。
抗がん剤をやらないのなら緩和ケア。これも酷い対応ですね。もううちの病院にはかかれませんけどいいですか。
2歳の子供を抱えた若い母親に、そういった事情は一切考慮せずに、ただただ抗がん剤治療をすすめる。こんな対応はエビデンスでもないし、ガイドラインに沿った治療とも言えません。単にマニュアルに従っているだけでしょう。
大学病院やがん拠点病院では、こうした話を度々聞きます。こんな医師の対応が患者を民間療法に走らせるのです。
それに対して西先生の対応は、西先生は緩和ケア医でありしかも腫瘍内科医でもあります。ですから抗がん剤を続けながら緩和ケアもできますよという治療法を勧めます。
「医療に、人生を合わせる必要はありません。あなたの人生のため、あなたが大切にしたいもののために、医療がお手伝いをしていきます」とタムラさんに告げます。
大学病院の医師も忙しいでしょうから、患者と十分なコミュニケーションが取れないこともあるでしょう。しかし病院の方針や医者の価値観を押し付けるようでは、患者からの信頼も得られません。
テレビドラマの「白い巨塔」も患者に寄り添わない医療、ただ治す治療をすればよいという医者の傲慢さ、あえて言えば、新しい形のパターナリズムが問題になっているのではないでしょうか。
医療は、患者が幸せを感じるためにあるのです。