今日の一冊(118)『新章 神さまのカルテ』、SAKUさんのことも

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【日 時】2020年1月18日(土) 13:30~17:00(開場・受付:13:20ごろ)
【場 所】京急本線 京急蒲田駅東口から徒歩3分、JR蒲田東口から徒歩13分 大田区産業プラザ3階 特別会議室
【対 象】膵臓がん患者とその家族、遺族
【参加費】1,000円(会場使用料及び資料代)
【定 員】 80名
【内 容】
●講演:押川勝太郎先生「がん治療の心得は登山と同じと知ってましたか?~トラブルを織り込んだ先読み能力が寿命を伸ばす~」
●患者さんどうしの情報交換会~フリートーキング

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最終更新日

作者 夏川草介は、「『新章 神様のカルテ』 自著を語る」で、このように述べている。

医者というろくでもない仕事を正気を保って維持するために、執筆業がある種の精神的リハビリのような役割を果たしていることはどうやら確からしい。結局、医療現場で力の及ばなかったこと、やり残したのではないかと迷うことを、丁寧に描きなおそうという試みが、私にとっての『神様のカルテ』であるのかもしれない。

多忙な現場で、どうしても掬いきれなかった患者の思いがある。もう少し何かできたのではないかと唇を噛むときがある。現場のあちこちに取り残してきたそういった暗い想念が、心の奥底の後悔という名の水甕の底にゆっくりと澱のように、泥のように沈殿していく。積もり積もった憂鬱な沈殿物が、やがて甕の口からあふれ出さんとしたとき、ふいに聞こえてくる声がある。

“そろそろ出番かね”

内科医、栗原一止の声だ。言葉とともに、胸の内で栗原がのそりと立ち上がる。物語はいつもこうして始まるのである。

”心の奥底の後悔という名の水甕の底”に、ゆっくりと澱のように沈んでいた患者への思いが、後半から、膵臓がん患者 二木美桜(ふたつぎ みお)を中心とした物語として進行していく。

二木さんは29歳で、理沙という名の7歳の女の子がいる。ステージⅣで切除不能。リンパ節と肝転移が疑われている。

FOLFIRINOXで治療を始めたが、骨髄抑制が激しく出て治療が続けることができない。抗がん剤をアブラキサンとジェムザールに変更をした。それ以降、骨髄抑制は出なくなり、比較的元気な状態が確認できたので退院することができた。

しかし一週間後ステントが詰まって40°の高熱ショック状態になる。

救急車で担ぎ込まれた二木さんは、緊急ERCPが必要で入院しないわけにはいかないが、絶対に入院は嫌だという。やらなければ敗血症で死ぬと言っても、「どうせ膵癌で死ぬんです。病院の中に閉じ込められて死ぬくらいなら、主人と子供と一緒にいます」と落ち着いた口調できっぱりと決意を言う。

一止は、離れ業を使って入院なしでERCPを終える。離れ業とは、麻酔の量を多めにして鎮静を長引かせることによって、入院をせずにERCPを終わらせようという作戦である。

お盆も終わった夏の午後、二木さんは再び高熱を出す。しかしやっぱり病院に行きたくないと来院拒否をしている。

一止はまた無茶な行動に出る。大学病院の医者が、許可もなく勝手に院外に往診をするのである。

「病院に閉じ込められて、家族にも会えないまま弱って行くくらいなら、私はここにいます。怖いことは何もありません」という二木さんを、「必ず帰ってくるようにする」と説得して、病院に連れてくる。しかし、既に末期である。

病状は不安定ながらも、本人の希望をくんで退院させようとするが、退院カンファレンスが紛糾する。病棟看護師、ケアマネジャーらすべてが「こんな病状では退院は論外である」と正論をまくし立てるのである。

医療には答えのない世界がある。
難病の診断、最先端の治療、最高の抗がん剤治療、そういったものについては膨大な知識と手段を有する医療は、しかし「死」を前にしたときにわかに沈黙する。
いつ治療をやめるべきなのか、どこで看取るべきなのか、家族の不安をどうやって支えるべきなのか、
「死」をめぐる問題に直面したとき、常日頃はあれほど饒舌であったはずの、技術も知識もガイドラインも、一斉に口を閉ざしてしまう。

そこで、かつてお世話になった先輩が開いているクリニックを訪れて、在宅ケアと往診も頼んで手配をする。これも大学病院の医者ならルール違反だ。

こうして二木さんは、蕎麦畑の見える部屋のある自宅で、最期の時間を家族と過ごすことができるようになる。

当たり前のように帰るべき二木さんの未来が、巧妙な論理や、場馴れした韜晦術、そして退院ガイドラインとやらによって隠されて、近くの病院への転院などというわけのわからないものに置き換えられていく。

ガイドラインが必要であることは間違いない。ルールや規則も、それがなければより一層の混乱をきたすことは疑いない。けれども、それらはあくまで道具である。ただの道具がいつの間にやら我が物顔で病院中を闊歩している。積み上げた道具があまりに多すぎて、道具の向こう側が見えなくなっている。

終末期をどこで過ごすかというがん患者の希望が、簡単には叶えられない現実がある。急変したと家族が動揺して、うっかり救急車を呼ぶものなら、管をつながれ、永久に帰ってくることができなくなる例は枚挙にいとまがない。

新章 神様のカルテ

新章 神様のカルテ

夏川 草介
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SAKUさんのこと

小説の世界だから、こうした無茶ができたのかもしれない。しかし、患者の最期の希望を少しでもかなえようとして尽力してくれた医療機関と医師もいる。

SAKUさんのことを想いだした。

SAKUさんには、昨年12月の『膵臓がん患者と家族の集い』に講演をお願いしていたが、当日になって容体が急変し、上京することができないと、主治医の先生からメールがあった。

その後、年が変わってから、改めて主治医の先生から次のような丁寧なメールをいただいた。

SAKUさんは、11/30に入院してからは、12/23の「集い」に参加することを楽しみにして、ベッドサイドでMACで原稿を書いたりされていたようでした。
ブログを書いたり患者会に参加していることは11/30に入院を決めたときに初めて伺いました。
当地域にある、患者サポートサービス(トラベルヘルパー)もご案内し手配のお手伝いもして、東京日帰りの準備もできていました。

12/23当日朝から発熱し本人も行くのは無理と理解されました。以後は徐々に意識混濁が続く状態となりました。

意識レベルは変動ありましたが、その後はまとまった会話が出来ない状態となりました。本人のお気持ちは聞けなくなりました。
残念ながら、1月1日昼過ぎに旅立たれました。

お話が出来るときに伺うと、患者の集いでお話が聞けること、懇親会でさらに談話できることが、SAKUさんの心の支えとなっていたようです。

これからも「集い」を末永く続けていただき、SAKUさんのような方の心のよりどころになっていただければ、と存じます。

医療者としては、がんを治す事が出来れば最善ですが、治らない方にも生きる希望を持って最期まで生きていただけるように、これからも患者さんたちに接していきたいと思っています。

「すい臓がん患者と家族の集い」の益々の発展を祈念いたします。

患者サポートサービス(トラベルヘルパー)までも用意して、最後の希望にそえるよう尽力してくださったことを知りました。

残念ながらSAKUさんの最後の希望は叶いませんでしたが、私は次のように返信しました。

SAKUさんは、告知当初から膵臓がんの集いに参加されていました。手術ができず、肝臓と肺に転移のあるステージ4でしたから、御本人も治らないことは覚悟をされていました。
それでも少しでも延命をと、さまざまな情報を集め、チャレンジされていたようです。また、自分の人生を見つめ、命や死についてもよく考えられていました。

そのようなSAKUさんの生き様に共感し、集いの場でも彼の周りにはたくさんの患者や家族が集まって話し合っているようすが印象的でした。そうしたこともあって、彼に講演をお願いし、膵臓がんの患者にとって参考になることを話してもらえたらと考えたのでした。

膵臓がんは厳しい病気ですから、他の患者会とはちがい、独特の雰囲気があります。100人もの膵臓がんの患者と家族、遺族が一堂に集まる場はこれまでありませんでした。
初めて参加される方は、恐る恐る参加してみたが、全員が、明るい雰囲気に驚くと言います。

治らないがんを宿した患者どうしが会って話をすることが、こんなにも勇気づけられるのかと、開催する度に印象を強くします。

がんとの闘いを「冒険の旅の物語」とするならば、旅の目的である「宝物」を首尾良く手に入れられることもあれば、叶わないこともあります。旅の途中ではさまざまな逆風や事故に遭います。一方で、人の助けに救われたり、すがすがしい愛に遭遇することもあります。

冒険の旅の目的は達成できなくても、旅を終わる頃には主人公の人間性や人生観が、旅を始める前とは違っていると思います。

SAKUさんの冒険はまさにそのような旅でした。

先生やスタッフのみなさんの献身的なサポートによって、彼は最後の旅の目的を持つことができました。その希望がどれほど彼を勇気づけたか計り知れないと感じています。

残念ながら冒険の旅は成功しませんでしたが、SAKUさんのなかでは「精いっぱい生きた」との思いに違いありません。

このように、患者を大切にする医療者が、全国にはたくさんいると信じています。

SAKUさん。天国で聞いているかなぁ。


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今日の一冊(118)『新章 神さまのカルテ』、SAKUさんのことも” に対して1件のコメントがあります。

  1. ジイジ より:

    新章 神様のカルテをご紹介頂きありがとうございます。
    私の大好きな小説シリーズの一つです。小説の舞台の松本にも行きました。
    実際にこのような医療者がいるのか?
    疑問もあるかと思いますが近い医療者には何人もお会いしました。
    治らないことが分かっていても患者のために出来る限りのことをしてくれる医師がいます。
    バアバの主治医もそのような医師でした。
    医師の大半はそうであると今も信じています。

    1. キノシタ より:

      ジイジさん。
      医者の世界も社会の一断面ですから、いろいろな考え方の医療者がいるのでしょう。しかし、多くの医療者が患者のためにとこの職業を選んだはずですね。
      人間ですから、弱い面も強い面もあって当然。しかし、誠意を持って働いている医師がたくさんいます。中には金儲けしか頭にない者もいますが、これもしかたがない。患者が見極める力を付ければよいことです。
      医者のよい面だけを、うまく利用すればよいと考えています。

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