今日の一冊(147)『がんと外科医』阪本良弘

がんの手術の中でも一番難しいといわれる膵臓がんの手術。そのような肝胆膵がん治療の最前線にいる杏林大学附属病院 肝胆膵外科診療科長の阪本良弘先生の著作です。

がんと外科医 (岩波新書)

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阪本 良弘
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内容は、朝7時半のカンファレンスから始まる外科医の日々の描写、あるいは手術の記録をイメージ図で書く目的、そして肝胆膵がん治療の開発研究の軌跡と最新の状況と広範囲に及びますが、中でもこの本を書くきっかけになったというある膵臓がん患者との出会いに1章が割かれています。

その患者とは、今日の一冊(104)で紹介をした『<いのち>とがん がん患者となって考えたこと』の著者坂井律子さんです。

著者の阪本医師は坂井律子さんの主治医だったのですね。

主治医と患者とのやり取りが丁寧に書かれていますが、手術の前のインフォームドコンセントを得るためのときの様子が特に印象に残っていると書かれています。坂井律子さんは主治医の話を熱心にメモを取られ、ご夫婦で説明に納得して同意書にサインをされました。そして8時間に及ぶ手術は無事に終了しましたが、私と同じように術後の下痢に悩まされることになります。

これはがん近傍の上腸間膜動脈周辺の神経叢を一部切除することが原因です。下痢は水分と体力を奪います。

手術の直後は、食事をすると途端にトイレに駆け込むような状態が続きますから、食べることに消極的にもなります。体力の回復が遅く、合併症などのリスクも増えます。

坂井さんもアヘンチンキを処方されていましたが、医療用麻薬ですから2週間ぶんしか処方することができず、下痢に悩まされる体で2週間ごとに通院することになるのです。

さて坂井さんの膵臓がんは半年間6クールの TS-1の術後補助療法のかいもなく、肝臓に転移が見つかります。

肝臓への転移は小さなもの1個だったのでフォルフィリノックスの治療後コンバージョン手術を目指します。今でこそガイドラインに書かれるようになっておりますが、当時はまだ標準的な治療とは言えない状態でした。

しかし患者の治療への意欲や体力、何よりもがん腫瘍の状態を考慮してコンバージョン手術に挑戦することになったのです。

このような著者と坂井さんのやり取りの中で「患者力」という言葉ができます。

「患者力」には色々な説明のされ方をしますけれども、次のようなことでしょう。

患者として病状を正しく理解し、医療者と良好な関係を築きつつも、情報を集めて自ら考え、考え抜いて実践可能でありそうな治療法の選択肢については医師に質問をする。それは決して医師の治療方針に逆らっているものではなく、医師と適切な間合いを置き、かつ礼儀もわきまえながら、新しい提案を実践していく力なのかもしれない。

万全ではない体調の中で、坂井律子さんが冷静に治療法を模索し、実行したことに「患者力」の高さを感じさせられたと書いています。

また、坂井さんを通じて、膵がんの患者さんのブログを読んでみると、進行した膵がんを患いながらも、化学療法を何クールも継続し、長期に生存されている方のブログには、患者さんの日常、今日も検査を受けて大丈夫だった、生き延びたという心情が生々しく綴られていたと感想を述べています。

そうなんですよね。

外科医や腫瘍内科医の先生にも、膵臓がん患者のブログをたまには読んでほしいと思います。

CT の検査結果を待っている間の不安感やCA19-9が上がった時の落胆、あるいは血液検査の結果が良くって抗がん剤治療ができたときの安心感、逆にできなかった時の落胆ぶり、そういった生々しい患者の実際を知って欲しいと思います。

なぜなら、抗がん剤治療はほとんどが通院の外来で行われるので、医者は患者の悩みや副作用など実際のの状況を知ることが少ないと思うのです。

『がんと外科医』を読んでそうしたことを考えました。

〈いのち〉とがん: 患者となって考えたこと (岩波新書)

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