今日の一冊(119)『がんと腹水治療』

大量のがん性腹水を安全かつ迅速に処理可能な改良型の腹水治療システム(KM-CART)を開発した松崎圭祐先生の著作です。

がんと腹水治療 -末期がん・肝硬変 先端医療の現場-

がんと腹水治療 -末期がん・肝硬変 先端医療の現場-

松﨑 圭祐
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KM-CARTとは

松崎先生は、東京都豊島区にある要町病院の腹水資料センター長です。

腹水が溜まると苦しいものです。私の友人が膵臓がんの末期になった時、がん研有明病院から松崎先生を紹介されて、そこを受診したことがあります。

がんが進行して腹水がたまるとお腹が張って食事ができなくなったり、息が苦しくなって睡眠も取れなくなって弱ってきます。さらに腎臓への圧迫により利尿剤が効かなくなって、尿が出なくなり、命も危険になってきます。

がん性腹水では、腹水が増えて苦痛症状が出てくると、患者に闘病意欲があっても、抗がん剤治療が中止されて、緩和ケアへの移行も勧められます。

しかし腹水による苦痛を、モルヒネなどの薬物療法で緩和することは困難です。

症状緩和の方法として、腹水ドレナージと言ってお腹にチューブを入れて腹水を抜く方法がありますが、医師はそれをやりたがりません。その理由は、腹水にはアルブミンとグロブリンという体に大事なタンパク質が大量に含まれているからです。腹水を抜いて捨てると、これらの栄養素も廃棄するので、栄養状態が急速に悪くなって全身状態が悪化し、さらに腹水が溜まりやすくなるという悪循環に陥ります。

大量の腹水が溜まってくると、腹水の症状緩和ができないために抗がん剤の投与などそれまでの治療が継続できずに中止されたうえ、腹水も治療してもらえないという”腹水難民”が生まれているのが現状です。

これを改良したのが KM-CART(改良型腹水濾過濃縮再静注システム)です。

1977年に現在の形のCARTシステムが発売、1981年に保険認可されているものの、がん性腹水治療法として一般に普及していないのが現状です。

この原因として従来のCARTシステムの濾過方式上の欠点があげられます。細胞成分の多い癌性腹水では、狭いファイバー内腔に詰まるために2リットル前後で膜閉塞を生じて以後の腹水処理が不能となります。

上記の欠点を解消した改良型CART ( KM‐CART:2011年に特許取得、図 2 )を考案しました。

川島なお美さん&膵臓がんの症例

松崎先生のこの著作は、先生が育った生い立ちからKM-CARTの開発の苦労までをドキュメンタリー風に綴っておられます。

胆管がんで亡くなられた女優の川島ななお美さん。彼女もKM-CART で腹水治療をすることによって亡くなる1週間前まで舞台に立つことができました。

六十歳代の膵臓がんの患者さんの例では、手術不能の進行性膵がんで、抗がん剤をジェムザールから TS 1に切り替えて効果が出始めたところでしたが、多量の腹水にて経口摂取ができなくなり、治療を中止して緩和ケア病棟に転院しました。しかし緩和ケア病棟では腹水を抜いてもらうことができず、オピオイドの増量による症状緩和を勧められて余命一週間と告知されました。

しかし家族がインターネットでKM-CARTを知り、緩和ケア病棟から緊急転院して、21リットルの腹水をドレナージしてKM-CARTを行ったところ、食欲も回復して抗がん剤の TS-1を再開することができました。3ヶ月後には腹水が消失し、肝転移巣も小さくなっていました。そして栄養状態も回復して職場復帰ができるまでになりました。

免疫療法との併用研究

また、回収した腹水には大量のがん細胞とリンパ球などの免疫細胞が含まれているため、これをすり潰して樹状細胞ワクチン療法の抗原として用いることが可能になります。

現在の樹状細胞ワクチン療法はWT-1という人工抗原を使って作成されていますが、腹水から回収したがん細胞は純度が高く、純度の高い抗原から純度の高い抗体の作製が可能になります。

現在この抗体を使用した DC ワクチン療法の臨床活用が始まっており、オプジーボなどと併用することで近い将来がん治療の主役になることも可能と考えられています。

KM-CART実施施設名


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