玉川温泉、三朝温泉:「がんに効く」は本当か?

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YouTubeの動画でも紹介しています。

玉川、三朝温泉の効用

がんに効く温泉として、玉川温泉と三朝温泉が有名です。がん患者なら誰しも「いちどは行ってみたい」と思ったことがあるのではないでしょうか。

それぞれ次のような効用が謳われています。当然ですが「がんが治る」とは書かれていませんが、それらしき文章を探してみると、玉川温泉では、

  • 玉川温泉の温泉は無色透明ですが、pH1.2と極めて酸性が強く、源泉温度はなんと98度。硫黄臭と微量のラジウム放射線が含まれている非常に特徴がある泉質になります。
  • 赤血球数・血色素、白血球数の増加並びにその持続がみられるなど、造血臓器を刺激し、その作用を賦活調整する働きがあることがわかっております。放射線業務などに従事されている方にとっては、良い保養・療養泉になると思われます。
  • 湯治3~5日目頃に一時的な抗菌力の減退があるものの、温泉浴を続けていくに従い、次第に抗菌力が増大し、10日目頃には温泉浴開始前の1.5~2倍にもなることから、身体の防衛力増強や治癒力の増進など好ましい効果が期待できます。
  • 個人差があり、必ず治るとは断言できません。湯治により、自分自身が本来持っている免疫力・治癒力が向上し、その結果として回復に向かわれるものであることをご理解下さい。
  • 癌や難病に効くと評判ですが、本当に効果があるのでしょうか?
    湯治の結果、「快方に向かわれた」「延命効果があった」とのお話は良く伺いますが、医学的に解明されている部分は少なく、効果があるとは断言いたしかねます。玉川温泉での湯治は、泉質や環境などの刺激により、本来持っている治癒力を蘇らせ、自身の力で体を健康な状態へ戻すというものです。
秋の玉川温泉

三朝温泉も同様に、

  • 三朝のお湯は、高濃度のラドンを含む世界屈指の放射能泉です。 ラドンとは、ラジウムが分解されて生じる弱い放射線のこと。 体に浴びると新陳代謝が活発になり、免疫力や自然治癒力が高まります。 これが自慢の『ホルミシス効果』です。
  • 身体の治癒力を高める三朝温泉の「放射線ホルミシス効果」
    放射線のホルミシス効果とは、身体が微量の放射線を受けると細胞などが刺激を受けて、その働きを活性化させ、毛細血菅が拡張し、新陳代謝も促進、免疫力や自然治癒力を高めることです。三朝のラジウム泉は、人聞の身体にこのホルミシス効果を与えるとして有名であり、近年そのメカニズムが解明されてきています。メディア等にもとりあげられ、全国的な注目度も高まっています。
  • 気化したラドンを吸入することで身体に入ります。
    気化したラドンは呼吸により肺に入り、血液を巡り全身の細胞などを刺激します。また、ラドンを吸うと、抗酸化機能が高まることがわかってきました。抗酸化機能とは、老化や生活習慣病の原因といわれる活性酸素を消去する働きのことです。体内から活性酸素を消去する抗酸化物質SODなどの働きが高まるといわれ、動脈硬化症の予防が期待できます
  • ガン死亡率も全国の半分。
    1992年、三朝温泉地区の住民のガンによる死亡率は37年間の統計解析から全国平均の約1/2であるとの結果が報告され、「低線量被曝の影響を科学的に調べ直すべきだ」と提言しています。これは放射線ホルミシスの学説を強く証明するものでもあります。
三朝温泉

玉川温泉は「ラジウム」、三朝温泉は「ラドン」と、ともに放射線を含むことを強調しています。三朝温泉に比べて玉川温泉は「がんに効くとは断言できません」と、良心的に書かれています。

放射線ホルミシス効果とは、「弱い放射線を微量受けることで細胞が刺激を受け,身体の細胞を活性化させ毛細血管が拡張し、新陳代謝が向上、免疫力や自然治癒力を高める」とうたわれているものです。

しかしこういう説明では、勘違いや誤解を招く恐れがあります。

ラジウムとラドン

玉川温泉は「ラジウム温泉」、三朝温泉は「ラドン温泉」とされていますが、ラジウムもラドンもウランが放射性壊変する過程で生じる放射性元素ですから、同じ温泉です。

ラジウムもラドンもウラン-238が崩壊して生成されます。下図のように、ウラン-238はアルファ線、ベータ線、ガンマ線を放出しながら、最後は安定な鉛になります。

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原子力発電所で燃料として使われるのは、ウラン-238の同位体であるウラン-235です。

ラジウム-226は半減期1600年でアルファ線を放出しながらラドン-222になりますが、ラドンは気体なので空気中に浮遊します。温泉ではこのラドンを肺に取りこむことになります。(内部被ばく)

また、お湯や周辺の岩石などから発生するガンマ線を、体の外から浴びることになります。(外部被ばく)

肺に取りこまれたラドンは、さらにアルファ線を出してポロニウムになります。さらに多くのアルファ線やガンマ線を出しながら鉛になります。

肺に吸い込まれたラドンによって「内部被ばく」になるのです。しかも、ラドンからのアルファ線は数ミリメートルの距離しか飛びません。したがって、近傍の細胞にだけアルファ線を集中的に浴びせることになり、肺がんが増加するのです。

「がん情報サービス」などには次のように紹介されています。

欧米の一部地域の地下室等で高い濃度が検出されるラドンによる室内環境汚染は、肺がんのリスク要因となることがわかっています。

呼吸により肺に取り込まれたラドン(およびその娘核種)は、自然界放射線による被ばくの主要な原因です。近年、屋内ラドンの濃度レベルでも肺がんのリスクがあることが判明してきました。これを受けて、世界保健機関(WHO)は、2009年9月に屋内ラドンの参考レベルを改訂し、屋内ラドン濃度が100Bq/㎥未満になるよう推奨しております(WHOラドンハンドブック参照)。

ウラニウム鉱山労働者の追跡調査から、ラドンの職業性曝露は、肺がんリスクを高めることが明らかにされている。一方、一般家庭(特に地下室)において、かなり高濃度のラドンが検出されることが、米国、北欧の一部の地域で明らかにされ、その健康障害が問題にされるようになった。その後、北欧、北米、中国東北部において、室内ラドンを実測した上での症例対照研究が実施され、それらのメタアナリシスの結果、室内ラドン濃度が150Bq/㎥のレベルで肺がん相対リスクは 1.14と推定された。

つまり、ラドンには抗酸化機能があるとか、免疫力や自然治癒力をあげる効果よりも、肺がんになるリスクの方が無視できないのです。WHOも屋内ラドン濃度の規制を提唱しているほどです。

ところが、三朝温泉の客室中でのラドン濃度は100~530Bq/㎥もあるのです。

日本原子力研究開発機構の「身の回りにもあるウランとラジウム温泉」より。 「がん死亡率が低い」という主張は否定されている。

「放射線ホルミシス効果」は否定されている

では、三朝温泉のサイトにある、低線量放射線は健康に良いとする「ホルミシス効果」とはどういったものなのでしょうか。

国際放射線防護委員会(ICRP)は、「放射線はすべて、どんな低い線量でも生物に対して障害作用をもつ」とのLNT仮説を採用しており、世界保健機構(WHO)は、多くの国でラドンが喫煙に次ぐ肺がんの重要な原因であるとしています。アメリカの環境保護庁(EPA)は、ラドンに安全な量というものは存在せず少しの被ばくでもがんになる危険性をもたらすものとしているのです。また、米国科学アカデミーは、毎年15,000から22,000人のアメリカ人が屋内のラドンに関係する肺がんによって命を落としていると推計しています。

日本でホルミシス効果が一般に知られるようになったのは、近藤宗平氏の『人は放射線になぜ弱いか』の影響が大きいようです。

歴史的に見ると、原発の周辺地域における放射線被ばくを心配する声を抑え、放射線に対する規制を緩和しようとする動きとして現れてきました。

原子力発電所は、絶えず少量の放射線や放射性物質を周辺に排出しています。完全には封じ込められておらず、一定量以下なら法律でも認められています。原発の周辺にモニタリングポストがあるのは、そのためです。

そして周辺住民の放射線被ばくに対する反対論を抑えるために、「少量の放射線は体に良い」という「放射線ホルミシス効果」を宣伝するようになったのです。

日本の電力中央研究所が、一所懸命に「ホルミシス効果」を研究してきたのは、こうした理由からなのです。

しかし、電力中央研究所のホームページでは「放射線ホルミシス効果に関する見解」を次のように載せています。

  • 現在、当センターでは、放射線ホルミシスの研究は行っておりません。
  • これまでに得られた知見からは、ホルミシス効果を低線量放射線の影響として一般化し、放射線リスクの評価に取り入れることは難しいと考えています。
  • 当所の成果を引用して放射線ホルミシス効果を謳った商品の販売を行っている例がありますが、当所とは一切関係ありませんのでご注意下さい。

これは「岩盤浴」などを指しているのでしょうが、玉川温泉は「岩盤浴」の発祥の地として自ら宣伝しています。

また、国際放射線防護委員会(ICRP)は、1983年より放射線ホルミシスについて検討を開始しており、ICRP1990年勧告では、「今日、”ホルミシス”と呼ばれるこのような影響に関するほとんどの実験データは、主として低線量における統計解析が困難なため、結論が出ていない。そのうえ、多くのデータが、がんあるいは遺伝的影響以外の生物学的エンドポイントに関係したものである。現在入手しうるホルミシスに関するデータは、放射線防護において考慮に加えるには十分でない」と書かれているのです。

三朝温泉地区でのがん死亡率減少は本当か?

三朝温泉地区の住民の「がん死亡率も全国の半分」というデータがありますが、ここにも近藤宗平氏が登場します。

当時近畿大学原子力研究所教授の近藤宗平、国立がんセンターの放射線研究部長・祖父江友孝、岡山病院院長の古本嘉明らは、鳥取県三朝町の温泉のある地区の住民と近隣で温泉の無い地区の住人を比較対照した疫学調査を行い、非温泉地区に比較して温泉地区では1952年から1988年の癌死亡率が低いとする論文を日本癌学会の会報に発表した。以降、この論文はホルミシス効果の宣伝に利用されるようになる。

しかしその後の再調査で調査期間や調査方法などを更新・分析した結果、三朝町の高レベルのラドン地区と、三朝町の比較対照地区(ラドンが低い)で死亡率の差は見られなかった、と報告している(注:当研究では個々の被曝レベルは測定されておらず、喫煙と食事のような主要交絡因子を制御できなかった)。【Wikipediaより】

同じ研究を行ったグループが1998年に発表した再調査の結果は、死亡率の減少を否定するものであり、全がんの死亡率は対照地域と変わらず、有意に低いのは男性の胃がん死亡率だけで(胃がんの死亡率に関しては他の一般温泉(大分・別府温泉)においても低下していることから、放射線の関与は否定されている)、有意ではないが男性の肺がん死亡率は高まってさえいたのである。

ラドンを肺に吸入すればアルファ線によって被ばくし、肺がんが増加することは前述の通りです。しかし、三朝温泉関係のサイトでは、上記の再調査による結果には一切触れていません。

温泉の楽しみ方

原発の「安全神話」を補強するために登場した「ホルミシス効果」ですが、いまではほぼ否定されています。一方で、福島第一原発の事故によって放出されたヨウ素137ですが、同じ内部被ばくで、ベータ線を出すヨウ素137による甲状腺被ばくは、甲状腺がんが多発傾向にあるにもかかわらず、「影響はない」と否定され続けているのです。

私も温泉は大好きです。ラジウム温泉・ラドン温泉の、がんへの効用は科学的にはほぼ否定されているのですが、日常の生活を離れてゆったりと湯に浸かれば、ストレスも癒される。美味しい食事と観光をかねての旅行は免疫力も上げるに違いありません。

三朝温泉や玉川温泉で湯治をすることも否定するつもりはありませんが、CT検査による放射線被ばくを心配する同じ患者が、一方で、肺にアルファ線で被ばくするためにわざわざ遠くの温泉まで行くというのは、私には理解できません。CTによる外部被ばくよりも、アルファ線による内部被ばくのほうがはるかに危険です。

CTによるエックス線被ばくは「外部被ばく」であり、肺に吸い込んだラドンからのアルファ線は「内部被ばく」です。これはいってみれば「石炭ストーブにあたって暖を取っているのが外部被ばくで、燃えさかる石炭を口に含むのが内部被ばく」と例えられるでしょう。

同じエネルギーを取りこむのだから、シーベルトで表される被ばく線量は同じだと主張することがありますが、石炭を口に含もうとする人はいないでしょう。

ラドンのアルファ線よって、目に見えるほどのがんになるのは20年後です。20年後のがんよりも、いまのがんに効果があれば良い、という考えもあり得ますが、ホルミシス効果は否定されているのですから、効果は期待できません。

何も遠くの温泉にまで行くことはないです。近くの温泉で十分。我が家の近くには、字は違うが「多摩川温泉」があります。


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玉川温泉、三朝温泉:「がんに効く」は本当か?” に対して1件のコメントがあります。

  1. れいんぼう より:

    いつも有用な記事の配信をありがとうございます。
    昔と違って、「湯治」といえるほど長期間の滞在は難しいことが多いと思います。
    なので、期待する効果もリラクゼーションが主なのではないかなと推測しています。
    私自身は、、、、、家風呂の長湯で、、、、、。寒くなった今、出かけるのが億劫になっているという面もあり、、、。
    湯治、サプリ諸々、何をするにしても、自分なりの「理由づけ」があれば、いいのではないかと思っております。
    リスクや限界も承知した上で、というのは申すまでもないことですが。
    今後の配信も期待しております。
    ありがとうございました。

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