今日の一冊(129)『アインシュタインの旅行日記:日本・パレスチナ・スペイン』

アインシュタインの日本人観

アインシュタインは、相対性理論を発表した物理学者としても有名だが、彼は1922年(大正11年)から翌年にかけて約1ヶ月半の間、妻エルザとともに日本を訪問したことがある。しかも彼は日本へ向かう船上でノーベル物理学賞受賞の知らせを受け取る幸運があった。

アインシュタインの旅行日記: 日本・パレスチナ・スペイン

アインシュタインの旅行日記: 日本・パレスチナ・スペイン

アルバート・アインシュタイン
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本書は旅行中にアインシュタインが書き残した日記や手紙類をまとめたものです。

アインシュタインの往復の船旅は、日本の蒸気船を使っているのですが、船上では日本の女性に対してあまり好印象は持っていませんでした。しかし、日本に滞在している間に、彼の日本人に対する印象はどんどん変わっていくのです。

皮肉や疑念とはまったく無縁な純然たる尊敬の心は、日本人の特徴だ。純粋な心は、他のどこの人々にも見られない。みんながこの国を愛して尊敬すべきだ(187ページ)

とまで述べる。1922年と言えば大正デモクラシーの最中で、関東大震災が起きる1年前です。日本では多くの講演をこなし、物理学者の長岡半太郎や政治家の山本宣治とも会って意見を交換しています。

日本人は正当にも西洋の知的業績に感嘆し、成功と大いなる理想をめざして科学に没頭しています。しかし西洋より優れている点、つまりは芸術的な生活、個人的な要望の簡素さと謙虚さ、そして日本人の心の純粋さと落ち着き、以上の大いなる宝を純粋に保持し続けることを忘れないでほしいのです(236ページ)。

日光に滞在していた12月5日の日記ではこんな記述がある。

日本人はイタリア人と気性が似ているが、日本人のほうが洗練されているし、今も芸術的伝統が染みこんでいる。神経質ではなくユーモアたっぷり(183ページ)。

その一方、ユダヤ人としてファシズム政権から命を狙われる恐れもあった彼なのに、中国人やトルコ人に対しては、人種差別的な書き込みもある。

義理の2人の息子に宛てた手紙にこうした記述がある。

日本人のことをお父さんは、今まで知り合ったどの民族より気に入っています。物静かで、謙虚で、知的で、芸術的センスがあって、思いやりがあって、外見にとらわれず、責任感があるのです(238-239ページ)。

さて、現在の日本人にもまだこうした美徳が残っているのだろうか。特に政治の世界ではアインシュタインに恥ずかしいようなできごとが続いている。「今だけ、金だけ、自分だけ」という風潮がのさばっているような気がしてならない。

相対性理論と宮沢賢治

アインシュタインは仙台でも講演を行っているのだが、花巻にいた宮沢賢治とは接点がなかったようだ。講演を聞いたという記述も見つからない。

ただ、宮沢賢治は相対性理論にも関心があり、彼の作品はアインシュタインの相対性理論が深く影響してるのは明らかです。

『ビジテリアン大祭』にはこんな一節がある。

又小学校の一年生にエービースィーを教えるなら大学校でもなぜ文学より見たる理論化学とか、相対性学説の難点とかそんなことばかりやってエービースィーを教えないか、と斯う云うことになります。

『銀河鉄道の夜』なんかも、ジョバンニとカムパネルラの会話を相対性理論で解釈してみれば面白いし、この作品そのものが四次元時空の旅物語だから、相対性理論そのものだ。

不完全な幻想第四次の銀河鉄道」という表現も出てくるし、光速に近い速度で運動している系では、時間がゆっくりと進むという相対性理論における「時間の相対性」を知っていたから、銀河鉄道の時間と地上の時間に大きなズレが設定されているのだろう。

また、「春と修羅」の「序」は、つぎのように結ばれている。

すべてこれらの命題は
心象や時間それ自身の性質として
第四次延長のなかで主張されます

「序」には「大正十三年一月廿日」と記されているから、アインシュタインが来日した2年後である。


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