今日の一冊(151)『がんを瞬時に破壊する光免疫療法』
光免疫療法の開発者である小林久隆先生の初めての一般向けの解説書です。本日の発売です。
副作用や後遺症のないがん療法、体に優しくしかも経済的にもやさしいがん治療を夢見てきた小林先生の思いが詰まっています。
「光免疫療法」を標榜するクリニックに注意
オバマ前大統領が一般教書演説で言及するなと、世界的にも注目をされた光免疫療法ですが、日本では「光免疫療法」を標榜する全く別の治療法を行う無関係な医療機関が現れています。
「光免疫療法」という言葉を使っても法律的には規制はできません。小林先生も忸怩たる思いだと書かれています。
小林先生が開発した光免疫療法は日本国内で十数カ所で行われている治験の条件に該当して初めて参加が可能になるものです。つまり今現在治験の段階の治療法です。民間のクリニックで行われているはずがありません。
これらのサイトを見ましてもいかにも小林先生の光免疫療法と誤解をしそうな、近赤外線を使うとかがん細胞だけに薬が集中するとか、巧妙な説明をしています。
全身に適応が可能だと書かれており膵臓にも使える? これが本当ならすい臓がん患者としては嬉しい限りですが、残念ながら小林先生の「光免疫療法」とは別物です。
この治療に望みを託したがん患者さんとそのご家族に申し上げたいことは、がんの治療は標準治療以外は玉石混交であり、落とし穴も多く、どうか翻弄されずに正確な情報に行き着いていただきたいということ。そうした混乱を避けるべく、最近ではこの治療の技術基盤を「イルミノックスプラットフォーム」と呼称・区別化し商標登録をするに至った次第である。
小林 久隆. がんを瞬時に破壊する光免疫療法~身体にやさしい新治療が医療を変える~ (光文社新書)
光線力学療法との違い
光免疫療法と光線力学療法( PDT-Photodynamic Therapy)はがん研究者でさえ混同されていることがあるようです。
光線力学療法は、病巣部分に光増感剤を集積させ、そこに光を照射することにより発生する活性酸素でがんを死滅させる治療法である。ほかの治療に比して低侵襲ではあるが、がんへの光増感剤の集積はよくても正常細胞に比して2倍程度であるので、正常細胞もがん細胞と同じように障害され得る。つまり、正常細胞を傷つけずにがん細胞のみを破壊することは実際には非常に困難となる。この治療では、内視鏡を通して肺や食道などに光ファイバーなどを挿入し、できるだけがん細胞がありそうなところのみを狙ってレーザー光を照射する方法がよく用いられている。
小林久隆.がんを瞬時に破壊する光免疫療法~身体にやさしい新治療が医療を変える~(光文社新書)
光免疫療法は光線力学療法のように活性酸素の生成による非特異的な細胞障害ではなく、光化学反応によって起こされる抗体分子自体の形態変化によって機械的に細胞膜に障害を起こすものです。
学会などでも小林先生の発表後に「光線力学療法の進化系といったところですか?」との質問が出るくらいですから、一般に混同するのも無理からぬところはあります。この治療法もインターネットで検索するとたくさんのクリニックが行なっているようです。
「免疫」という言葉には注意
「免疫療法」という言葉の定義はあいまいです。ですから業者や企業に利用され、高額な自由診療のがん治療、がん商法に利用されてきました。保険適用されている免疫療法はごくわずかです。また「免疫力」アップを歌うサプリメントなどもあるので惑わされないようにしてください。
基本的に、がんに対する免疫力はあるがそれが十分に働いていないなどの、条件の良い患者には効果があるのかもしれません。適切な免疫細胞が存在しそれが頑張ってくれている、あるいはこの前の記事でも書いたようにT レグが免疫を抑えていない。そういった条件でなければ、免疫治療自体ではがん細胞減らす、あるいは死滅させることは難しいでしょう。
小林先生曰く、やはりがんという病に対するアプローチとしては、免疫をあげながら、同時にがん細胞を壊していかなければならない、これが理想であると私は考えます。
膵臓がんへの適用は?
膵臓がんでは下の表に見るように、EGFR、MUCI、CEA などのさまざまなタイプの抗原が発現しています。つまり一口に膵臓がんと言いますが、実際はいろいろなタイプの膵臓がんがあるのです。これが膵臓がんに対して免疫療法を行う際の課題となります。
さまざまなタイプに対応した多くの薬を製造しなければならないからです。将来的には、多種類の薬を揃えることができるようになれば、8割の膵臓がんはカバーできるはずです。しかしそれぞれの薬剤の開発費用は莫大になります。この点をクリアできれば希望が見えてきます。
楽天グループを応援してあげれば、三木谷さんが資金を出してくれる可能性はないのかなぁ!
光免疫療法はこれまで生存率が良くなかったが治りにくかった感あるいは治らなかった癌の治療に光がさす治療法です。
腫瘍崩壊症候群は起こるのか?
抗がん剤や放射線による治療によって大量のがん細胞が短期間で保護された場合、高尿酸血症、高リン酸血症、低カルシウム血症、代謝性アシドーシスなどいろいろな症状が生じることがある。これを腫瘍崩壊症候群といいます。
光免疫療法で急激に腫瘍が崩壊した時に、この現象が起きないのでしょうか。実は完全には解明はできていませんが、光免疫療法ではこの現象はまず起こらないことが実証されています。その理由は、がん細胞だけをターゲットにして壊しているので、正常な血管や免疫細胞などの健常な状態が維持できているからだろうと推測されています。
頭頸部がんへの保険適用が現実となり、胃がん、大腸がんでも臨床試験が進んでいると言われていますが、膵臓がんへの適用も待ち遠しいですね。まだまだ課題の多い光免疫療法ですが、頑張っていただきたいものです