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今日の一冊(152)『いのちの停車場』南杏子

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介護や終末期医療をテーマにした作品を多く発表している南杏子さんの作品、在宅における終末期医療をテーマにした小説です。

5月には、吉永小百合さんが主演した映画も封切られることになっています。

映画『いのちの停車場』オリジナル・サウンドトラック

映画『いのちの停車場』オリジナル・サウンドトラック

安川午朗、村治佳織
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白石佐和子は城北医科大学病院の救命救急センターで、生え抜きの女性医師として、初めて副センター長に抜擢された医者です。

佐和子が当直の夜、近くで大規模な交通事故が発生しました。 救命救急センターのその時の受け入れ可能な重傷者は二人でしたが、佐和子は リクエストされた七人の全員受け入れることを決定します。しかし人手不足の中、バイトとして事務を担当していた医学部の学生が点滴の針を刺すところを、患者の家族に見咎められ、苦情が寄せられます。 その責任をとった形で、佐和子は大学病院を退職をします。

郷里の金沢に帰った佐和子に、待ちかねていたように父が、「仙川の所へ行ってやれ」と言います。仙川徹と佐和子は幼馴染で、父親同士も勤務医として親しく、家族同士で付き合いがありました。 仙川は、在宅医療専門のまほろば診療所を経営していますが、転倒して骨折をし訪問診療がままならない状態で、佐和子が帰ったのをこれ幸いに、頼み込んできたのでした。

在宅医療を一から学ぶ決意をした佐和子ですが、救命救急センターでの仕事とあまりの違いに戸惑うばかりです。

佐和子の退職の原因を作ったバイト医学生の野呂は、責任を感じて佐和子を探して訪ねてきます。そしてお手伝いをさせてほしいと運転手をかってでます。看護師の麻耶らにも助けられ、在宅医療に踏み出した佐和子ですが・・・。

夫婦で近江市場で魚屋を営業してきた徳三郎とシズ。ジズはパーキンソン病を患っていますが、徳三郎は医療費を気にして、必要な診察も薬も避けようとします。徳三郎は「こいつが早く死んでくれるとこちらがもたん」などと文句を言うのですが、シズが重篤な状態に陥ると救急車を呼んで大学病院に搬送させます。佐和子は徳三郎に、「死を学ぶ授業」と称して、死に至る過程や変化、今後の状態などを詳しく説明していきます。

78歳の大槻千代宅を訪問した佐和子は、あまりのゴミ屋敷ぶりに唖然とします。しかもこの家の主がいない。探し回って風呂場を覗くと、湯船から顔を出してギョロッとした目がこちらを睨んでいる。昨夜風呂に入って午後の時間になってもそのまま湯船に入っているのでした。そうした生活を送っている千代ですが、近くに住んでいる娘とは折り合いが悪く、いつも言い争いが絶えません。

そんな千代が風呂場で転んで転倒し救急車で運ばれます。そして余命は長くないと言われるのですが、在宅医療に切り替えてゴミ屋敷を改修し、バリアフリーします。風呂場を改修する間、娘の所に”もらい湯”をすることになりました。ところがそれが楽しかったらしく、娘とも仲が良くなり病気もどんどん回復していきます。

厚生労働省の統括審議官 宮嶋一義に膵臓がん見つかったときにはすでに肺に転移していました。ステージ4で手術も不可能です。抗がん剤の効果も乏しく、郷里の金沢で最期の時間を過ごそうと決意します。佐和子にその主治医となるようにとの依頼が、元の城北医科大学の医学部長から来たのです。

宮嶋審議官は、厚生労働省において『病院から在宅へ』という政府のキャンペーンの先頭に立って来ました。国全体の医療費を削減しなければこの国は持たないとの考えのもとに政策を遂行してきた彼としては、治る見込みのない膵臓がん患者となった今、無駄な医療費を費やすのは自分の信念に反するという思いでした。

悪液質で痩せ細って行く夫に何とか食べさせようと葛藤する妻、仕事一筋の息子は、まだ抗がん剤を諦めるのは早いと食ってかかります。そんな宮嶋が臨終を迎える居間には、子供の頃息子と遊んだプラレールの電車が、部屋の中全体を音を立てて走っていました。臨終の席に駆け込んできた息子は、それを見ると絶句して・・・。

小児がんセンターから紹介されてきた若林萌は6歳。腎腫瘍で肝転移もありステージ4の末期の状態です。腎横紋筋肉腫様腫瘍という分類で、このがんのステージ4の生存率は0パーセント。

既にサードラインの抗がん剤治療も効果がなくなり、がんセンターからは在宅医療、つまり緩和ケアを勧められて自宅に帰ってきました。しかし両親はまだその本当の意味を受け止めかねている状態です。もう少し元気になれば新しい治療にチャレンジできる、そう考えているのですが、きつい抗がん剤治療に苦しんだ萌は、もう病院には帰りたくないと言います。

6歳にして死を覚悟しているのです。そんな萌が望んだのは「死ぬ前に海を見たい。泳ぎたい」ということでした。佐和子たちは両親を説得して、萌の希望をかなえようとします。能登半島西側の付け根にある「なぎさドライブウェイ」、そこならば車で波打ち際まで行くことができます。酸素ボンベを用意して介護タクシーと乗用車に分乗した一行は、なぎさドライブウェイに向かいます。ここは国内で唯一車で走ることができる砂浜です。萌はパパに抱かれて、膝まで海に入ることができました。そして「萌ね、癌になっちゃってごめんね」とパパとママに謝ります。

萌が海を見に行きたいと言ったのは、この次生まれ変わるときは人魚になりたいから。その思いを海に向かってお願いしたいと言うのです。なぜなら人魚姫は300年生きることができるからと。海に出かけた三日後の朝、萌は亡くなりました。

佐和子の父達郎は、転んで足を骨折し入院しますが、それをきっかけにどんどんと症状が悪化してついに脳卒中になります。しかも頭の中だけで激しい痛みを感じる、いわゆる脳卒中後疼痛と呼ばれる感覚障害になります。病室の換気をしようと窓を開けただけで達郎は苦痛で顔を歪め「死んだ方がましや」と叫びます。

神経内科医であった達郎は、自分の病気や治らないこともよく理解しており、あまりの激しい痛みについには佐和子に「積極的安楽死」をさせてくれと頼むのでした。佐和子に渡した手帳には「 pentobarbital 2g 点滴静注」と処方と方法が書かれています。

安楽死を受け入れ難い医師としての良心と、娘として激しい痛みに悶絶している父に対してなにかしなければとの思いに揺れ動きます。

そして、悩んだ末に、積極的安楽死を幇助する決心をし、実行に移そうとしたのですが・・・。

いろいろな病気や患者が登場し、生きるとは何か、治るとはどういうことなのか、いつまで治療をするべきなのか。最期の時間をどのように迎えればいいのか、死とは、生とは何か。さまざまことを考えさせられる作品でした。


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