今日の一冊(164)『ラブカは静かに弓を持つ』安壇 美緒
スパイ小説です。とはいっても、国際政治の舞台や戦争に関わる007のようなスパイではありません。
武器はチェロ。潜入先は音楽教室。
少年時代にチェロ教室の帰りに誘拐されかかった主人公の橘、そのトラウマから睡眠障害を発症している。
そして深海に住むラブカの姿が現れる悪夢に苛まれながら生きている。
ラブカとは、
軟骨魚綱カグラザメ目ラブカ科に分類されるサメ。
数が少なく、比較的海の深い所に生息する種であるため、観察が難しく、詳しい生態はほとんどわかっていない。
最大全長オス165センチメートル、メス196センチメートル。体型は細長い円筒型。頭部は幅広くて平たく、短く丸い吻がある。鼻孔は縦に裂け、前鼻弁で二つに区切られている。眼は比較的大きく楕円形で、瞬膜を欠く。非常に大きい口は普通のサメと異なって体前端に開く。口角に溝・褶はない。
Wikipedia
音楽著作権を管理している団体の社員である橘は、ある日上司から音楽教室への潜入調査を命じられる。
これは現実にもニュースになったのですが、音楽教室で演奏される楽曲に対しても著作権使用料を払うようにとの著作権管理団体の申し出があり、それに対してヤマハ音楽教室などが裁判に訴えた事件を題材にしています。
音楽教室で著作権を侵害している証拠を掴むために、橘は身分を偽り、チェロ講師・浅葉のもとに通い始める。橘はレッスンの際にボールペン型の録音装置で全て録音をしているのです。
しかしチェロのレッスンが進むにつれて生きる喜びが湧いてくる。睡眠障害もほとんど克服された状態になる。
チェロ講師の浅葉や仲間との交流を通じて、楽器を奏でる喜びが、橘の凍った心を溶かしだす。
しかし橘が証言することになる裁判の日が刻一刻と近づいてくる・・・
バッハの無伴奏チェロ組曲を弾く橘。いいですね。チェロの重複した低音とメロディーが紙面の活字から聞こえてきそうです。
私も久しぶりにチェロを弾きたく引っ張り出してきました。バッハの無伴奏チェロ組曲第1番。いい曲です。
ところが私の左手は最近ばね指になっていて、強く押させると痛みがあり、しっかりと弦を押さえることが難しい。
まあ年相応の老化現象です。あまり欲張らずに、この体とチェロとも付き合っていきましょう。