がんと心、サイコオンコロジー

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「ストレスとガンとは関係がない。ポジティブシンキングは誤解されている。」

これは『がんと心』で、対談者の精神腫瘍医・内富庸介先生が言われている言葉です。

がんと心

がんと心

岸本 葉子, 内富 庸介
発売日: 2004/11/30
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とくに初期のサイコオンコロジーの研究は五五人の患者さんを前向きな人、そうでない方に分けて一〇年間追跡して、前向きな人は長生きできたというデータがセンセーショナルに報道され、そしてもろ手をあげて受け入れられた。

専門的にはパブリケーションバイアスといいまして、いいデータだけ結果的に、世に出ていたのですね。そういったことが重なって患者さんの背中を過度に叩いて、家族もスタッフもがんばれがんばれと応援したのです。

現場の看護師さん、ドクター、家族はがんばれ、がんばれといっていればいいんだと。それが医療者の役割を果たしているということだったのです。が、最近それが立て続けに否定されて、転じて皆さん罪の意識を感じているわけです。とくに医療の現場は。特別の性格、特別のストレスががんを直接引き起こすことはない。ネクラな人はネクラにやっていく方がいいだろうし、明るい人は明るくした方がいいだろうということだと思います。

精神腫瘍学は、①がんが心に及ぼす影響、②心ががんに与える影響 を研究する学問だということです。が、この本では②に関する対談は多くなくて、ほとんどが①のがん患者の心の問題について対談しているようです。

精神腫瘍学、精神免疫学、精神神経免疫学と似たような言葉があり、私には違いがよく分からないのですが、どうも「免疫」という言葉が含まれていると、心ががんに与える影響を肯定的にこらえている場合が多いように感じます。例えば『こころと体の対話』神庭重信著などその例でしょうか。

ワイルやサイモントンの著作を持ち出すまでもなく、こころががんの発生と治療に関して大きな役割を果たす可能性があるということを信じてきたので、内富医師の「最近それがたて続けに否定されて」という根拠が知りたいのですが、この本には根拠となるものは紹介されていません。このような問題を、誰の目にも明らかなように統計的に証明することは非常に難しいことだということは想像できます。

「こころの有り様」という数値化することが困難なものを対象にしているのですから、実験の結果が二転三転することは大いにあり得ることです。

しかし、がん患者の立場としては次のように考えておけばよいのでしょう。がんの”種子”を作り出す精神的要因が特定されたことはない。しかし、心理的なストレスはがんが成長するのに好ましい土壌に大きな影響を与えているだろう。少なくともがん細胞の成長を促す可能性があることは示されているのである。がんの要因は多種多様であり、人それぞれによっても違っているだろう。心ががんを作り出すかどうかは、議論の余地があることだとしても、私たちはがんと診断されたとき、自分の生き方を転換するという選択肢を選ぶことができる。

これを選ぶか選ばないかは当人の意志によるとしても、そうした方が回復の可能性が高いのであるなら、やってみても失うものはないでしょう。対談者の岸本葉子氏も、「がんになるのに心は関係ない。でもなってからは関係あるといいたい」と述べています。

この対談集は、死に対する考え方、受け止め方など共感する部分が多いです。死を通過点、別の命への結節点としてとらえるのではなく、そこから先は一切が途絶える断崖絶壁としての死を措定してこそ、「生」という問題が人間にとって、この上ない集中度と緊張を持って成立する。死後の世界を信じることができる人は幸せなのかもしれません。

しかし、私はどうしても死後の世界というものを信じることができません。同じような悩みを抱えたがん患者がどのような心境にいたったのか、教えられることが多かったように思います。苦悩をじゅうぶんに苦悩し得るための、健康的な自我を取り戻すこれは非常に精神的に強い生き方ですね。悩み抜くことが人間らしい生き方だというのです。

動物は、苦痛を感じても苦悩を感じることはありません。私としては心ががんに与える影響という点に引かれてこの本を買ったので、期待はずれでしたが、しかしそれ以上に得るものの多い対談集だということができます。何度も読み返したい本には違いありません。


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