サイコオンコロジー:がんと「こころ」

サイコオンコロジー(精神腫瘍学)という学問分野があります。1922年には国際サイコオンコロジー学会が設立されて研究が進められています。

精神腫瘍学は、癌が患者や家族の精神にどのような影響を及ぼすのかということを研究する学問であると同時に、心の在り様が癌にどのような影響を与えるのかということを研究する学問でもあります。

そうした分野で先駆的な研究がいくつかありますが、英国王立ロンドン大学の研究とスピーゲルらの研究を紹介します。

がんへの取り組み方で生存率に差

イギリスのGreerらのグループの報告では、乳癌患者の心理反応(病気の受けとめ方)と予後の関係を検討し、闘争心や否認の強い症例では、冷静に受けとめたり、絶望感に陥ったりした症例に比較して、明らかに生存率が高い結果が得られた。

  • 前向き:闘争心で対応した人
  • 否認:病気を否定した人
  • 諦め:冷静に受容した人
  • 絶望:絶望感を持った人

しかし20年後、お弟子さん達がこの研究を再評価したところ、前向き、否認、諦めの間に生存率の差はなかったことが分かった。

しかし、「絶望感を持っている人」は、生存率が低いことが再確認された。この人たちの多くはうつ病でなかったかと推測されている。

この研究を受けて現在では、癌への対応は人それぞれでよい。闘争心を持つのも良いし、私は癌じゃないと否認する、あるいは受容して、「なるようになるさ」という心境もよい。それらには生存率において差はありません。だから頑張らなくてもよいのです。

ただし、無力感・絶望感だけは癌の再発率を上げ、生存率を低くすることが分かっています。

心理的サポートを受けると再発率は下がり生存率が上がる

また、 米国スタンフォード大学のスピーゲルらは、すでに転移を伴う乳癌の診断を受けた患者を二つのグループにわけ、通常の生物学的な治療だけを受けた群と、さらに心理療法を併用した群とで比較を行い、10年間にわた り死亡率の推移を検討している。

具体的には、癌であることを受容するための心理的サポート、 自己暗示によるリラクゼーションや痛みのコントロールの指導などを集団で行い、そのような心理的接近を行なわない患者に比べて2年以降の死亡率が有意に改善するという結果である。

この研究には、おもしろいエピソードがある。

統合医療のバイブルとも言える、シュレベールの『がんに効く生活―克服した医師の自分でできる「統合医療」』には、スピーゲルの『がん―限界のその先を生きる』を取りあげて、次のように書かれています。

精神科医のスピーゲル博士は、「人間が完全に本来の自分に立ち返れるのは死の恐怖に直面したときだ」と信じていた。それを証明するために、余命数年または数ヶ月と宣告された乳がん患者のグループを励ます活動を行なった。しかし、奇跡的なことが起きた。彼女たちは死の恐怖に直面するはずだったのが、このグループに参加することで、自らの病を受入れ、喜び、生きることへの意欲、今この瞬間に共にいることへの心地良さといった肯定的な感情が生まれたかのようだった。

一年間定期的に集まった彼女たちは、それぞれの生活に戻っていった。彼女たちは、治療だけを受けているグループに比べて、精神的な落ち込みや不安感だけではなく、身体的な痛みを感じることが少なくなったとことが分かった。

”心理状態とがんの進行には関連性などない”と確信していたスピーゲルは、精神状態が良くなった彼女たちが、それによって長生きをするはずがないことを示そうとした。

しかし、スピーゲルの期待はくつがえされた。50人の参加者の家に電話をかけると、余命数ヶ月から数年の告知から10年経っていたにもかかわらず、三軒は患者本人が電話に出た。対象グループはそれほど長生きした患者は一人もいなかった。全体では、互助グループに参加した患者は、対照群に比べて二倍も長生きしたことを認めざるを得なかった。

この研究は「ランセット」誌に掲載され、一大センセーションを引き起こしました。心理的状態、メンタルな部分ががんの進行に影響を与えることが分かった瞬間でした。

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がんは「心」で治るのか?

この問いに対する答えは「YES」です。もちろん全員がそうなるというわけではありませんが、上の二つの例に挙げたように精神的な部分が腫瘍に対して大きな影響を与えることは間違いありません。

健康食品やサプリメントよりも、食事や運動よりも、「心の平安」こそが一番大切な要素です。

そのための方法は、サイモントン療法、自律訓練法、マインドフルネス瞑想、座禅、太極拳など色々あります。


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