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映画「あなたへ」を観て

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SDIM0868DP2 Merrill F9.0 1/500秒 ISO200


映画「あなたへ」を観た。

刑務所の指導技官 倉島(高倉健)のもとにある日、血液のがんである悪性リンパ腫で急死した妻洋子(田中裕子)から2枚の絵手紙がとどく。1枚にはスズメの絵と共に、故郷の海に散骨して欲しいと書かれていた。もう一枚は、故郷長崎県平戸の郵便局留めで投函するのだと遺言代理人が言う。10日間のうちにその手紙を受け取らねばならない。

洋子は毎年刑務所の慰問に来て、童謡を歌っていた童謡歌手であった。しばらく姿を見せなかった洋子が久しぶりに慰問に来たその日、倉島は洋子に「しばらく来られなかったので心配していました」と話しかけ、帰りのバス停まで見送って外に出る。洋子は「実は、慰問はただ一人に受刑者の方のためでした。みなさんを騙してすみませんでした」と謝罪する。その受刑者は2年前に刑務所内で病死していた。”彼”に届いていた絵手紙にはスズメの絵が描かれていた。「内縁関係の女性から届いていた」ようですと、同僚から説明を受ける。受刑者の”彼”は、規則を犯してスズメに餌付けをしていたのだった。”彼”の人物像も、”彼”と洋子の関係についても、映画はこれ以上は何も語らない。

倉島は10日の期限にもう一枚を受け取るためにキャンピングカーに改造したバンで旅に出る。途中で大型のキャンピングカーに乗った杉野(ビートたけし)と知り合った。杉野はもと高校教師で、彼も妻を亡くしている。杉野は、

         このみちをたどるほかない草のふかくも

と山頭火の句を口にし、句集『草木搭』を倉島に贈呈しながらいう。『放浪と旅の違いは、帰るところがあるかないかです。』

山頭火の句が随所で紹介されている。

分け入っても分け入っても青い山

この句などは、まだ無名だった風景写真家の大御所、竹内敏信さんが山頭火の句に添えた写真と共に初めて見たものだった。

ひとりとなれば仰がるゝ空の青さかな

杉野の好きな句だ。その杉野は、実は車上荒らしをしながら全国を旅している窃盗犯だった。山頭火のように、彼もまた妻子と故郷を捨てたのだろうか。映画はこれ以上何も語らない。

山頭火とともに、洋子が歌う宮沢賢治が作詞作曲した「星めぐりの歌」も重要な役割を果たしている。洋子が慰問で歌った「星めぐりの歌」(映画では「星の歌」となっていた)、和田山の竹田城址で歌った「星めぐりの歌」。

「星めぐりの歌」はヨナ抜き長音階といわれる五音音階で、非常に親しみやすい旋律です。賢治の「双子の星」に歌詞が紹介され、「銀河鉄道の夜」にも登場します。

竹田城址の頂上でのコンサートはみごとだった。倉島は洋子の歌を聴くためにそこまでやってきた。洋子は「もう歌うのを止めようと思います」という。竹田城址はまさに「天空のラピュタ」だ。霧が雲海のように見えて、まるでマチュピチュのようである。

011

イカめしの実演販売で全国を回っている田宮(草薙剛)も、強引だが憎めない性格の影に、なにやら問題を抱えていそうだ。よった田宮がぽろっと白状したのは、妻が男を作っているらしい。しかし、怖くてそれを表沙汰にすることができない、と。田宮の年上の部下である南原伸一(佐藤浩市)は謎の人物だ。どことなく物腰がおどおどしている。

南原が倉島に「もしも散骨の船で困ったら、この人に相談して」と差し出した手書きの船頭の名前と住所。案の定、台風の前ということもあって、誰も船を出してくれない。そこに若いカップル、奈緒子(綾瀬はるか)と卓也(三浦貴太)が奮闘して、卓也のじいさん大浦吾郎(大滝秀治)の船を出してもらえることになった。

南原の手書きの文字を見た港の大衆食堂の女主人で奈緒子の母濱崎多恵子(余貴美子)は、7年前に時化で遭難したはずの夫の筆跡だと悟った。夫は生きている。しかし、夫の生命保険で借金を返し、食堂に改築した多恵子は、それを公にはできない。多恵子は倉島に、二人の胃結婚衣装合わせの写真を、「散骨の時一緒に海に流して欲しい」と託す。多恵子は倉島に、

『夫婦やけんて、相手のことが、全部は分かりはしまへん。それで良いんと違いますか。』

あなたへ (幻冬舎文庫) と言うのだった。倉島は、港の古い富永写真館のショーウインドーに飾られた色あせた写真、13歳の洋子がマイクの前で歌っている写真を見つける。13歳の洋子がこの島を出たわけを、映画は語らない。しかし、運命によって島を出た洋子が、自分の過去を問いもせず、一途に大切にしてくれる倉島と奇跡のように出会い、そして奇跡のようにこの島に帰ってきた。

そして、局留めのもう一枚の絵手紙には、一羽のスズメの絵と「さようなら」のひと言だけが書かれていた。

幸せだったけど、死んだもののことは忘れて、あなたは新しい一?を歩いて欲しい。これが洋子の伝えたかったメッセージではないだろうか。洋子の骨を手に救って海に流すとき、青い海に沈んでゆく白い骨粒を、カメラはまるでそれを銀河のように映し出していた。『銀河鉄道の夜』でも、ジョバンニとカンパネルラは死によって別れたのでしたね。

がん患者の私はこう考えた・・・

洋子はリンパ腫で死ぬんだ。しかし「頑張りました、でもダメでした」の、お涙頂戴の闘病記でないから良いのだ。

二人に一人ががんになる時代とは、夫婦のどちらかががんになる可能性が最も大きいということだ。がんになり、どちらかが先にこの世からいなくなる。だから、考えておくべきなんだよ。先立つときには何を伝えるのか。先立たれたときにはどう生きていくのか。洋子は倉島に「新しい一?を歩んで欲しい」と伝えたかった。散骨するのは、墓は造らずに私のことは早く忘れて欲しいということだろう。いつまでも思い出してもらってはかなわない。自分もそういう覚悟だ。

これまでもブログで知り合った幾人かの方を見送った。今でも末期がんで貴重な時間を過ごしている方がたくさんいるだろう。その患者が旅立つまで介護し、その後は独りで歩かねばならない伴侶もまたたくさんいるだろう。それがありふれた普通の出来事なんだよと。

だからこの映画は、団塊の世代の男と女への応援歌でもある。明るい未来を信じて頑張ってきた団塊の世代だが、3.11後にふと気付いたら、日本はおかしげな国になっていた。しかしまた独りで歩き出そう。倉島が門司の岸壁を独りで歩くラストシーンはそう告げている。


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