第4のがん治療法への期待、CU制度の構築を

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がんペプチドワクチン療法 第4のがん治療法への期待 (第4のがん治療法への期待 第 1集)
以前に紹介した『がんペプチドワクチン療法 第4のがん治療法への期待 (第4のがん治療法への期待 第 1集)
』を購入しました。中村祐輔先生は、「監修に当たって」に次のように書かれています。

医学は科学として冷徹に客観的に評価することが重要ですが、医療現場では、科学という物差しでは単純に計りきれない患者さんや家族の思いを受け止める血の通った対応を求められます。臨床研究や臨床試験(治験)は科学としての価値観が高く求められる一方、医療現場でそれが実施される過程で、現場の医師は目の前の患者さんに対する「情」と「科学」の狭間で苦悩することが少なからずあります。この本は、患者さんの生きる希望を受け止めつつ、科学的にペプチドワクチン療法を評価しようと必死にもがいている研究者や医師が、がんペプチドワクチン療法という新しい希望を科学的に理解していただくために企画したものです。(「監修に当たって」より)

このような意義と共に、膵臓がんに関してはこのブログでも何度か書いていますが、その他のがんに関するがんペプチドワクチンの情報はなかなか目にすることが少ないのです。この本は、下記のパイプラインで開発中の、各種がんのペプチドワクチンに関するリファレンスブックとして使えそうです。

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「はじめに」には、「米国では免疫療法そのものを否定する医師は不勉強な医師であるとの評価が一般的」だと書かれています。日本では「免疫療法」の名のもので、効果も疑問な高額な治療法が蔓延しているのが医者が毛嫌いする一因でしょう。

膵臓がんについては、第3相試験まで行なったが、残念ながらプラセボ群に比較して生存期間の延長が認められなかったエルパモチドについて、現在様々な角度から分析中だと書かれています。詳細な分析結果が公表されることを期待しています。

また、現在第2相試験を実施しているワクチン(OCV-101のことか)については、抗がん剤を併用しない単独投与にもかかわらず、腫瘍が縮小した患者もいるようです。

その他のがんに関しても最新の情報が専門用語は極力使わないで分かりやすく書かれています。

第3章では、がんペプチドワクチンの研究を実施している国内50施設のCaptivation Networkについても詳しく書かれています。また、このネットワークから発展した医師主導治験として、膵がんに関する2つの臨床試験が始まっていることも述べています。こちらもネット上などではなかなか知ることのできない情報です。

●主な内容
第1章 がんペプチドワクチン治療
 がんペプチドワクチン療法とは? 中村祐輔(シカゴ大学)
第2章 がん症例とペプチドワクチン治療
 胃がんに対するペプチドワクチン治療  藤原義之(大阪府立成人病センター)
 大腸がんに対するペプチドワクチン治療 奥野清隆・杉浦史哲(近畿大学)
 肺がんに対するペプチドワクチン療法  醍醐弥太郎(滋賀医科大学)
 肝臓がんにおけるペプチドワクチン療法 澤田 雄・中面哲也(国立がん研究センター東病院)
 乳がんに対するペプチドワクチン療法 藤田知之・藤森 実(東京医科大学茨城医療センター)
 膵臓がんに対するペプチドワクチン療法 山上裕機・宮澤基樹(和歌山県立医科大学)
 膀胱がんに対するペプチドワクチン治療 小原 航・藤岡知昭(岩手医科大学)
 食道がんに対するペプチドワクチン療法 河野浩二(シンガポール大学)
第3章 がんペプチドワクチンの研究  
 がんペプチドワクチン療法臨床研究ネットワーク 小原 航(岩手医科大学)
 がん治療用ペプチドワクチンガイダンスについて 山口佳之(日本バイオセラピィ学会)
 特別配慮使用の治験薬の入手可能性 ロバート.J.テンプ(FDA)

コンパッショネート・ユース制度

がんペプチドワクチンは現在臨床試験が勧められている薬剤であり、その条件に合った患者しか臨床試験には参加できません。また、この臨床試験の結果が出て薬剤として承認されるまでにはさらに5~10年はかかると思われます。

現在、生死の瀬戸際にいる患者はそれまで待っていることはできません。どうすればよいのか。そこで、この本では「コンパッショネート・ユース制度(CU制度)」というものを紹介して、「これが使えるようにしたい」と展望を示しています。

米製薬メーカー日本支社の協力を得て米国のCU制度を利用し、薬剤の無償提供を受けて日本の患者を治療している病院もあるそうです。

ただ、この本では具体的にどうするという提案ではなく、米国FDAの「特別配慮使用の治験薬の入手可能性」という文書の翻訳版を載せているだけです。

Compassionate Use、人道的使用

基本的に生命に関わる疾患や身体障害を引き起こすおそれのある疾患を有する患者の救済を目的として、代替療法がない等の 限定的状況において未承認薬の使用を認める制度。アメリカ、ヨーロッパ(EU)などではすでに導入されており、日本では現在、実施のための検討が行われている。導入に際しては、現行の治験制度との兼ね合い、対象となる医薬品や患者の選定、未承認薬提供者の限定(製造販売業者、医師、その他)、未承認薬の安定供給の確保、安全性の確保(副作用報告の責務、副作用被害救済制度、感染症被害救済制度の対象の是非などを含む)などが課題となっている。

日本で承認されていない薬を安全に使う -コンパッショネート使用制度
CU制度に関しては『日本で承認されていない薬を安全に使う -コンパッショネート使用制度』がこの問題について詳細に論じています。それによれば、日本においても、限られた治療域ではありますが、人道的供給が提供された例があります。

  1. 熱帯病治療薬
  2. エイズ治療薬
  3. ハンセン病治療薬:サリドマイドを国がドイツから入手して供与

現状では、厚生労働省が2010年4月に「薬害肝炎事件の検証及び再発防止のための医薬品行政のあり方検討委員会」の最終提言においてCU構築を提言しています。しかし、その後この提言に関する動きはないようです。

CU制度が導入されても、薬剤費を全額患者負担とするならば、抗がん剤が高額ながん患者は恩恵には浴せません。

2007年7月の、厚生労働省の「有効で安全な医薬品を迅速に提供するための検討会」は、「製薬企業の承認申請のために実施される治験とは異なり、提供される未承認薬は患者の治療のために提供されるものなので、その治療にかかる費用負担を製薬企業に求めるのは適当ではない」としています。しかし、ドイツでは無償で提供することを製薬企業に義務づけているのです。

コンパッショネート・ユース制度はドラッグラグ・未承認薬問題の本質的な解決策にはなりません。 ドラッグラグ・未承認薬問題をこれ以上悪化させなくするかもしれませんが、改善する要因にもなりません。 CU制度の対象となる治療法は全て保険で使えるようにすることこそが本当に必要な解決策でしょう。

患者会などを通じて、コンパッショネート・ユース制度の早期構築を求めるとともに、患者負担を考慮して保険適用をすることを政府・厚生労働省に求めていくべきだろうと思います。

すべての希望する患者が、がんペプチドワクチンを受けられる日が早く来ることを願っています。そのためにできることがあれば実行する所存です。


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