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今日の一冊(64)『いま、希望を語ろう』

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スタンフォード大学の脳神経外科医で英文学の修士号を取得。36歳で肺がんの末期患者でもあるポール・カラニシが、死を前にして如何に生きる意味を見出したか、末期癌患者の希望とは何かを語る。

ポールは子どものころから「死」について深く考えてきた青年だった。そのためには文学者になるか医者になるかと思案してきた。

人間のアイデンティティ、生と死を考察するのに、脳神経外科医は最適な仕事であった。なぜなら、脳腫瘍と共に海馬の一部を切り取れば、患者のアイデンティティは変わってしまい、もはや「その人」とは言えない状態になることもあるからだ。そうしたポールが肝臓に転移した末期の肺がんだと分かった。

彼の訓練された目は、腫瘍が肺全体に広がり、脊椎が変形し、肝臓の一葉全体ががんに取って代わられているという所見を見逃すことはない。診断は明らかだった。全身に転移したがん。似たような画像ならこれまでにいくつも見てきたが、今回の症例はいつもとちがっていた。それは彼自身の画像だった。

将来を約束され、脳神経外科医としてまもなく頂点に上り詰めるはずだったポールは、この時点から自らが勤める病院の患者となった。

2016年1月に発売されるや、ベストセラーの上位に名を連ねている本書である。彼の文学的才能を余すことなく発揮して、生と死に対する哲学的考察が随所にちりばめられている。

脳神経外科医はアイデンティティのるつぼの中で仕事をする。脳手術というのは全て必然的に、われわれ自身の本質を操作する作業であり・・・患者とその家族がそれまでに直面した中でもっともドラマティックな出来事となる。

そんな重大事において問題になってくるのは、生きるか死ぬかといった単純な点ではなく、生きる価値のあるのはどんな人生か、という点だ。

一次治療のタルセバで腫瘍が縮小し、脳外科医としての仕事に戻る。しかし、タルセバが無効となり、再発。二次治療も臨床試験への参加の道も経たれて、それでもポールは希望を見失わない。内科医である妻のルーシーと相談の上、抗がん剤投与を始める前に冷凍保存しておいた精子を使って対外人工授精をする。子どもを持つことに決めたのである。

ポールの上司である研究室長「ヴィー」に膵臓がんが見つかった。膵頭十二指腸切除術を前にヴィーは、「ポール。私の人生には意味があったと思うか? 私は正しい選択をしたのだろうか?」と問う。

驚きだった。私にとっての道徳的な模範である彼ですら、自らの死に直面して、このような疑問を抱くのだ。

ポールの主治医エマはカプランマイヤー曲線について語ろうとしない。ポールが求めても予後を言おうとしないのだ。

患者が本当に知りたいのは医師が隠している科学的知識ではなく、自分という存在の真の意味であり、それはそれぞれの患者が自分自身で見出すべきものなのだ。統計にこだわりすぎるのは海水で喉の渇きを癒そうとするのに似ている。死すべき定めに直面する不安を癒す治療薬は、統計の中には存在しない。

私も患者たちと同じく、死すべき定めに向き合わなければならなかった。そして、人生を生きるに値するものにしているのはなんなのかを理解しようと努めなければならなかった。

「最も楽な死が必ずしも最良の死ではない」と理解するようになったポールは、最善の治療法を探して、復帰に挑戦する。「末期がんというのは、死を理解したいと願い続けてきた若者にとっての完璧な贈り物ではないのか?」とジョークを言う。

しかし、一日一日を大切に生きれば良いのだということは分かっても、その一日をどう過ごせば良いのだ?

私は今、ついに死と正面から向き合っていたが、それのどこにも見覚えがなかった。私は交差点に立っていた。長年のあいだ自分が治療してきた数え切れないほどの患者の足跡が、そこから見えるはずだった。それを辿っていけばいいはずだった。だがまるで、見覚えのある足跡を砂嵐が残らず消してしまったかのように、見えるのはただ、なんの道しるべもない、荒涼とした、ぎらぎら光る白い砂漠だけだった。

愛娘ケイディを授かったポールは、生きる意味と、死への道しるべを残そうと本書の執筆に死の間際まで力を注いだ。

片腕にケイディの重みを感じ、もう一方の手でルーシーの手を握っていたそのとき、私たちのまえには人生の可能性が広がっていた。私の体のなかのがん細胞はこの先もまだ死に続けるかもしれないし、あるいは、ふたたび増え始めるかもしれない。前方の広大な広がりを見渡した私の目に映ったのは、がらんとした不毛の地ではなく、もっとシンプルなもの、真っ白なページだった。そのページの上を、私は進んでいく。

はらはらしながらポールの苦悩に共感し、ルーシーの愛に癒され、読み進めるのが怖いような、読み終わるのが惜しいような、1年を締めくくるのにふさわしい、そんな本でした。


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