今日の一冊(97)『マインドフルネスを医学的にゼロから解説する本』

タイトルから推察されるとおり、医療者向けの本です。しかし、がん患者にとっても役立つ内容が含まれています。

なぜマインドフルネスなのか

「あなたは犬と散歩をしている。太陽は燦々と輝き、木々の緑は美しい。しかし、あなたは『抱えている問題や人間関係、家族との葛藤』で頭がいっぱい。綺麗な景色は見えていない。犬は目の前の景色をまさにありのままに見ている。」この犬こそがマインドフルネスの状態である。

と本文にあるが、マインドフルネスの核心をついています。

マインドフルネスは、今現在において起こっている経験に注意を向ける心理的な過程であり、瞑想およびその他の訓練を通じて発達させることができる。マインドフルネスの語義として、「今、この瞬間の体験に意図的に意識を向け、評価をせずに、とらわれのない状態で、ただ観ること」といった説明がなされることもある。(Wikipedia)

マインドフルネスは、Googleを始めアメリカのIT企業の多くでも採用され、ブームになっています。

医療の分野でも、近年エビデンスの蓄積が進み、マインドフルネスに関する学術論文数は指数関数的に増加しています。

その背景には、病気の多くが慢性疾患となり、原因が特定できず、それを除去できることが難しくなったことがあげられます。

再発不安を抱えるがん患者、慢性的な痛みを抱えた患者が「なぜ良くならないのか」と苦悩して「どうにかしてください」と訴えても、医療者の急性疾患へのアプローチ法では解決することができず、途方に暮れてしまうのです。

マインドフルネスの症状への関わり方

マインドフルネスは仏教心理学の「四諦(したい)」を基盤にしています。

  1. 苦諦(くたい) – 迷いのこの世は一切が苦(ドゥッカ)であるという真実。
  2. 集諦(じったい) – 苦の原因は煩悩・妄執、求めて飽かない愛執であるという真実。
  3. 滅諦(めったい) – 苦の原因の滅という真実[4]。無常の世を超え、執着を断つことが、苦しみを滅した悟りの境地であるということ。
  4. 道諦(どうたい) – 悟りに導く実践という真実。悟りに至るためには八正道によるべきであるということ。

「苦しむのは普通のことだ」という真実には、患者の状況をノーマライズする働きがあります。「多くの人がこの状況では同じように苦しむ。苦しみを感じるのは自然なことであり、だからこそ、対応策を考えることは可能かもしれない」という気付きが生まれます。

「がんが再発するかもしれない」という未来への不安が苦しみを生みます。しかし問題は、こうした不安への関わり方です。不安はなくなりませんが、一時的に生じるその感覚に「執着しない」「嫌悪しない」ことは可能です。

マインドフルネスは瞑想の実践を通して、こうした「不安」や「迷い」を手放すことを学びます。

瞑想中に呼吸に意識を集中していても、頭の中にさまざまな不安や考えが浮かんできます。そのときには「いま私は不安を感じている」ことに気付き、それを手放してまた呼吸に意識を集中するのです。こうした繰り返しによって、過去への後悔や未来への不安に占領された”私”を、「今この瞬間」に連れ戻すのです。

がんとマインドフルネス

がん患者に対して、マインドフルネスは抑うつ、不安、ストレスなどの精神症状と、疼痛、倦怠感などの身体症状の緩和に有益であることが、多数のメタ解析によって実証されています。

また、免疫機能やテロメアの延長など、生物学的なバイオマーカーに対しても有効であることが示唆されています。

がんの診断を受けた患者は、それまでの世界観が揺るがされ、人生は予測不可能でコントロールできないという事実を突きつけられます。命は有限であり、自分の命の終わりが見えてきます。再発や転移への不安もあります。

こうした問題への対処として、医療情報を集める、がんに効くという食事やサプリメントを探すという、「問題解決に向けた対処」をとります。

しかし、こうした対処方法は、問題への「完全な正しい解決法」があるときには有効ですが、そうでない(がんの場合)問題のときには、逆にさらに不安をかき立てられることになります。

「確実で良い結果」を得ようとして、ますますその行動を強化する方向に進みます。それが終わりのない苦悩につながっていくのです。

マインドフルネスは、問題解決に躍起になっている人に対して、「そもそも人生で唯一確実なことは、物事はすべて変わりゆくということしかない」ことや、「ありのままに受け入れることがもっとも効果的な問題解決法である」ことに気付かせてくれます。

それによって心の葛藤から解放される糸口となるのです。

マインドフルネスを実践すれば、がんが消えたり小さくなることを期待する人もいますが、それはマインドフルネスの根本を理解していないのです。

がんが消えるというのは「結果」であって「成り行き」です。未来を予測すること自体が、苦悩の原因ですから、こうした期待を持ってマインドフルネスに取り組んでも良い効果は得られないでしょう。

そうではなく、「今この瞬間」にエネルギーを集中して生きることによって、成り行きとして身体症状も緩和されて、良い結果につながるのです。

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