今日の一冊(18)『長尾先生、「近藤誠理論」のどこが間違っているのですか?』
長尾医師の近藤誠批判。何冊目だろうか? 肺がんのステージⅡaと診断された若き女性記者と長尾医師との対談形式で書かれていて、どんどんと読み進めることができる。もちろん架空の女性記者である。
近藤誠氏の誤りは、本物のがんと「がんもどき」しかないという黒か白かのどちらかだという二分法思考である。しかし世の中、グレーの領域がどの分野にも存在する。
近藤理論自身にも正しい主張もあり、明らかに間違っている部分もあり、グレーの部分もある、というのが長尾医師の主張である。私も同感である。
抗がん剤については、やるかやらないかではなく「やめどき」が大切であるということは、別の著作『抗がん剤 10の「やめどき」~あなたの治療、延命ですか? 縮命ですか?』でも書かれている。延命効果から縮命効果になる時点を見極めることが大切だと思う。しかし、現実にはなかなか難しい判断であろう。
- 最初からやらない
- 抗がん剤開始から2週間後
- 体重の減少
- セカンドラインを勧められた時
- 「腫瘍マーカーは下がらないが、できるところまで抗がん剤をやろう」と主治医が言った時
- それでもがんが再発した時
- うつ状態が疑われる時
- 一回治療を休んだら楽になった時
- サードラインを勧められた時
- 死ぬときまで
「1. 最初からやらない」は相当勇気のある患者だ。あるいは近藤理論の信奉者か。「4. セカンドラインを勧められたとき」も、多くの患者が「効かなくなったら次の抗がん剤を」と考えている現状では難しい。日本で膵臓がんに使える抗がん剤はまだまだ少ない、という声は、たくさんあればもっと延命できるはずだということを前提としているが、それが本当に正しいのかは分からない。
「9. サードラインを勧められたとき」でもまだまだ頑張るのだろう。そして「10. 死ぬときまで」あるいは亡くなる1週間前まで続ける。ときには臨終のベッドに抗がん剤の点滴がぽたりぽたりと落ちていたりする。
長尾氏の上記の本でも、亡くなった患者の口からTS-1の錠剤が出てきたという衝撃的な事実が書かれていた。しかし、がん患者のそうした心情はよく分かる。闘病ブログでも副作用に耐えて、次々と抗がん剤を代えて頑張っている患者がたくさんいる。
早期から緩和ケアを受けていた患者は、亡くなる2ヶ月前に中止している割合が多い。その方が結局長生きできるようだ。生活の質(QOL)も良い。
私にはどちらが正しいとは言えない(二分法は避けている)が、結局はその人の哲学、価値観であると思う。
実際には、最後まで抗がん剤をやって延命ではなく縮命になっている場合が多い。どこで止めるか、を常に考えていた方が良い。最後の最後まで抗がん剤をやると、生活の質(QOL)が下がる、最後に心肺蘇生をされる、ICUで亡くなる率が高くなる、生存期間が短くなる。
同じ国立がん研究センターの医者でも、亡くなる3ヶ月以内に患者に抗がん剤を投与した割合は、医師によってこんなにも違う。
緩和ケアも「治療」なんだよね。しかし「緩和ケア=治療の断念」との受け止める患者が現状では多数だ。