今日の一冊(110)「がんを生き抜く最強ごはん」

先日の『膵臓がん患者と家族の集い』において、ジャーナリストの森省歩氏が丸山ワクチンについての講演を行いましたが、その講演の最後に紹介されたのがこの本です。

がんを生き抜く最強ごはん

がんを生き抜く最強ごはん

和田 洋巳
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炎症ががん発症の引き金

京都のからすま和田クリニックにおいて、がん患者の劇的寛解例が続出しているという話でした。森さんは、実際にからすま和田クリニックに赴いてカルテも入念にチェックして確認したと語っていました。

本書はサンデー毎日に連載された二つのインタビュー記事がベースになっています。ひとつは「がん制圧の法則」もうひとつは「がん・生活習慣病を撃退する『命の食事 』」です。ともに2018年にスタートした連載ですが、合計19回に及んだインタビュー記事でした。相当大きな反響があったらしく『和田屋のごはん』もベストセラーになっているようです。

このサンデー毎日の記事をベースにして上梓されたのがこの本です。第2章では、がんの発症の引き金となるのは「慢性炎症」であるとして、分子生物学的に、炎症とがんのメカニズムを解き明かしています。

例えば肥満は慢性炎症です。そして肥満の人ががんにかかりやすいことは医学的にも証明されています。

慢性炎症からどのようにしてがんが発症するのか。そのメカニズムを9つのステップに渡って説明しています。

  1. 食生活の乱れなどによって血管に炎症が起きる
  2. 血管壁の肥厚が臓器の慢性炎症を引き起こす
  3. 壊死・脱落した上皮細胞が修復される
  4. 修復の過程で上皮細胞の増殖が起きる
  5. 過増殖によって酸素不足と糖不足が加速する
  6. 酸素不足と糖不足からアポトーシスが起きる
  7. 一部の上皮細胞が自前でエネルギーを産生し始める
  8. 細胞周辺環境の酸性化能力を併せ持つがん細胞が誕生する
  9. 誕生したがん細胞が血管に入り込み血流に乗って行く

このような慢性炎症とがんの関係は、最近ブルーバックスから『免疫と「病」の科学 万病のもと「慢性炎症」とは何か』として出版され、病気と炎症に関する新しい知識が紹介されています。

がん細胞のエネルギー獲得のしくみ

またがん細胞は、ブドウ糖をエネルギーに変える特殊な方法を獲得していきます。がん細胞はブドウ糖からエネルギー変換した酸(プロトン)とブドウ糖とは別に取り込んだ塩分(ナトリウム)を巧みに交換することで、自身が活動成長していくために不可欠な住環境を作り上げているのです。

また、がん細胞が転移能力を獲得するためには EMT(上皮間葉転換)という現象が深く関わっていますが、これによってがん細胞は性質を変えながら増殖し、転移能力を獲得していきます。さらに抗がん剤から自分の身を守るため耐性も獲得していくのです。

こうしたがんの特性に合わせて、和田医師は独特の治療戦略を提唱しています。

治療戦略1.ーがん細胞に活動のための兵糧をなるべく与えない。がん細胞にはなるべくブドウ糖を与えないようにします。

治療戦略2.ーがん細胞周辺の微細環境を酸性からアルカリ性に変える
がん細胞は、ナトリウムプロトン・ポンプを使って塩分(ナトリウム)を取り込み、取り込んだ塩分をブドウ糖から変換した酸(プロトン)と交換し、水素イオンを細胞の外に排出することによって、自分が活動しやすい酸性環境を維持しています。したがって塩分の摂取をなるべく控えがん細胞周辺の微細環境酸性からアルカリ性に変えることが重要になってきます。

治療戦略3.ーがん細胞に成長促進のための環境や物質を与えないこのためにはまずインスリンを過剰に分泌させないことが重要になります。血糖値を急上昇させる食生活を続けるとインスリン耐性と呼ばれる状態に陥ってきます。その先には糖尿病です。

また、乳製品に多く含まれるIGF-1はインスリンに似た作用を持っているので、牛乳や乳製品の摂取を避ける必要があります。

治療戦略4.ー慢性炎症を鎮める

慢性炎症を鎮める鍵を握る物質が NF-κB です。NF-κBと特異的に結合する成分の摂取、例えばパルテノライドを含むハーブ類などを取ることが効果的です。
治療戦略5・・・と続きます。

劇的寛解例は本当か

和田医師がすすめる食事は決して悪いものではありません。『「がん」になってからの食事と運動―米国対がん協会の最新ガイドライン』にあげられている食事内容と多くの部分が共通しています。

乳製品や牛乳、肉類を避けるようにとの説は、マクガバン報告いらい賛否両論ありますが、ま、それもありでしょう。

2011年から2018年までの7年間に、からすま和田クリニックを受診した約3000人の患者さんのうち、その半数にあたる1500人がステージⅣの患者さんです。1500人のステージⅣの患者さんのうち、劇的寛解を得たと考えられる患者さんは約500人いると書かれています。

驚くような掃除ですが、実際にこの本とからすま和田クリニックのホームページには膵臓がん患者の「劇的寛解」例として紹介されているものがあります。それを見てみましょう。

膵臓がん Bさん 80歳代女性のケース

Bさんは、2014年11月に強い腹痛に襲われ膵炎と診断されました。その後精査加療中に十二指腸がんが疑われ、2015年1月に切除手術を受けたところ、手術中に膵臓がんであることが判明し、十二指腸、胆嚢、膵臓の全摘手術となりました。

Bさんがセカンドオピニオンを目的に当クリニックを受診されたのは、2016年3月のことです。Bさんは甘いものが好きで、ヨーグルトを毎日食べており、もともと便秘症でもありました。

そんな B さんに私が提案したのは、アルカリ食の実践に加えて重層の服用、高用量ビタミン C の点滴、メトホルミン(血糖降下作用のほか腫瘍抑制効果も期待されている)の服用などによる治療のほか、がんの勢いを鎮めるための低用量の抗がん剤エルロチニブとウベニメクスの併用による治療も行いました。

これらの治療の結果、まずは B さんの血糖値が降下、さらに重層の服用と高用量ビタミン C の点滴、低用量抗がん剤の投与を開始すると、腫瘍マーカー CA19-9も下がり始め、現在は元気な日常生活を送っておられます。ちなみに抗がん剤治療のみ、それも通常量を使った治療ではこのような劇的寛解はほとんど得られません。

ステージも書かれていませんが、膵臓を全摘しても遠隔転移がなければステージⅣではないでしょう。治療の結果は腫瘍マーカーでしか判断してませんが、CTの結果はどうだったのでしょうか。膵臓を全摘しても元気で生活している膵臓がん患者はたくさんいます。この程度の症例を「劇的緩解」とは、判断が甘すぎませんか?

毎週ヨットを楽しんでいる膵臓がんの男性(73歳)

この患者さんは、3年前にステージⅠBのすい臓がんの手術を受けています。そのときはがんをきれいに切除できたそうですが、手術の1年半後に腹部に再発、その時点で腹水が溜まっていました。そこで当時の担当医はジェミシタビン(ゲムシタビンのことと思われる)とTS‐1という抗がん剤で治療を始めました。

ところが手術後、CA19‐9という腫瘍マーカーの値が一時は下がったものの、その後180くらいまで上がってきました。通常、このマーカーの数値は40以下が望ましいのです。

患者さんは、このタイミングで和田クリニックのセカンドオピニオン外来にやってきました。私はまず食事指導を行い、そして体力的に厳しいジェミシタビンの静脈投与をやめるという方針で治療をすすめることにしたのです。ジェミシタビンに代わってTS‐1という抗がん剤を通常の半量だけ服用することをすすめました。通常であれば100ミリから120ミリ使うところを、50から60ミリの量に減らしたのです。

しかし数カ月様子を見たのですが、腫瘍マーカーの数値はなかなか下がらなかったので、青梅エキスを飲んでもらうことにしました。この患者さんは糖尿病でもあるので、青梅エキスは糖尿病にもよい効果が期待できます。青梅エキスを飲みはじめると腫瘍マーカーの数値が下がりはじめ、最近では腫瘍マーカー(CA19‐9)が37まで下がっています。

がん治療に必要な体力(免疫力やと抗酸化力)を向上させるために行った治療は、玄米生菜食による食事療法、青梅エキスと雲南イチイのお茶、ビタミンCの服用、丸山ワクチンの利用です。またこの患者さんは、甲田式玄米生菜食を数カ月にわたって厳密に守っています。

初めてお目にかかったときは、動くことも精一杯というくらい苦しそうな状態でしたが、今は元気になって毎週末海に出てヨット遊びを楽しんでいくというくらい劇的に改善した喜ばしい症例です。

膵臓がんのステージⅠBで再発する例はたくさんあります。膵臓がんには「早期がん」という概念はないという所以です。

術後の再発に対して、TS-1単独でCA19-9が下がる例もたくさんあります。腹水の程度やそれがどうなったのかは書かれていませんが、この例も必ずしも青梅エキスでマーカーが下がったとは言いきれないでしょう。

ただ、がんにならない、がんを育てない食事療法は大切です。試してみる価値はあると思いますが、「劇的緩解」は誇大広告のような気がします。

2013年までの計画で、京大病院と協同して症例対照研究が進んでいるようですから、その結果がどう出るか、期待しています。


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