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今日の一冊(123)『山中静夫氏の尊厳死』南木佳士

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南木佳士氏の作品を読むのは四半世紀ぶり、『信州に上医あり―若月俊一と佐久病院』以来です。「農村医療」という分野を確立した若月俊一医師の、波瀾に満ちた信念の半生をたどりながら、真の医療のあり方を問う作品でした。

『山中静夫氏の尊厳死』は1993年の初版で古い作品ですが、尊厳死や安楽死、終末期医療が話題になっている現在、映画化されることになりました。やはり、医療とは、尊厳死とは、を問う作品です。

山中静夫氏の尊厳死 (文春文庫)

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南木 佳士
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小椋佳が主題歌「老いの願い」を書き下ろしています。

末期の肺がん患者・山中と、信州の病院に務める医師・今井の物語。がんの告知が一般的でなかった時代が背景になっています。

山中静夫さんは、信州の群馬県境に近い山奥の村で生まれ育って、婿養子に入ります。家業以外に郵便配達夫を長年勤め、妻にいわせると「道楽もせず、本当に良い婿でした」と言われるような人生を歩んできました。

それが肺がんが骨と肝臓にも転移して、余命わずかの状態です。

「どうせ死ぬんだったら、生まれ育った信州の山を見ながら、楽に死にたい」と、真顔で主治医に告げる山中さん。

住まいの近くの病院から、無理やり生まれ育った村の近くの病院に転院します。

今井が、余命は3か月と告げると、山中さんは「それだけあれば充分です」と告げます。

「私にはやっておきたいことがあるのです」という山中さんは、毎日外出許可をもらって山奥の生まれた村に通い続けます。実は自分の墓を造っているのです。両親と兄が眠っている裏山の墓は、養子に出た自分が入るわけにはいかないが、その側に自分だけの墓を造ろうとしているのです。

人は死んだら山の中に行くんだという祖母から聞いた言い伝えを信じている(信じたい)のです。

一方で、主治医の今井は、あまりにたくさんの患者の死を見続けてきたことによって鬱病になりかけています。がんの告知を阻む家族の意向に従って、患者との間に嘘の関係を持ち続けてきたことに疲れていたのでした。

「楽に死にたい」という山中さんに、いよいよ最期のときが訪れます。

抗うつ剤とモルヒネで痛みも楽になったが、それも効かなくなり、奥さんからは「楽にしてやってください」とモルヒネの増量を頼まれるが、今井は応じません。

「山中さんとはなあ、苦しくなったら楽にしてあげますって約束した。あくまでも本人が苦しくなったらで、家族のことは約束していない。」

「尊厳死ってものが、どれだけ主治医や家族を消耗させるものなのか、とことん付き合ってやろうと思ってるんだ」

楽に死ねそうな気がしてふる里の山見ゆ

これは、山中さんが詠んだ山頭火風の作です。

人間が死んでいくことの意味、最期まで生き抜くってどういうことなのか、その意味を問うているのです。


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