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今日の一冊(145)藤岡陽子『きのうのオレンジ』

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きのうのオレンジ (集英社文芸単行本)

きのうのオレンジ (集英社文芸単行本)

藤岡陽子
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発売日: 2020/10/26
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現役の看護師でもある藤岡陽子さんは、生と死に対峙する作品を多く発表しております。

今回の長編小説は、がん患者の立場から、どのようにして死を受け入れていったのか、死を受容しつつ希望を持って生きるとはどういうことなのかを描写した感動的な作品です。

東京のレストランの店長を務めている笹本遼駕が大学病院で受けた胃カメラの検査結果を聞くシーンから始まります。

結果は胃の幽門部にできた悪性の腫瘍です。遼駕は「なぜ自分が・・・」と恐怖にへたりこんでしまいます。その時郷里の岡山で体育の教師をしている双子の弟の恭平から宅配便が届きます。(実際には双子ではなかったのですが)

ダンボール箱の中にはオレンジ色の登山靴が入っていました。2人が15歳の時父親に連れられて冬山に登って遭難したときに履いていた靴でした。

登山道から滑落した二人は、テントを張り少ない食料を食べて朝を迎えます。しかし死を覚悟した二人はテントの中で、どちらか一人が生き残ったらこの手紙を両親に届けようと約束をして遺言状を書くのでした。

遼駕の入院した大学病院には、偶然にも高校で同じクラスであった矢田泉が看護師として勤めていました。この矢田泉は遼駕の主治医である松原とは過去に同棲関係にあって、今は別れています。

手術をした遼駕でしたが、すでに多くのリンパ節に転移していることがわかります。術後の再発率は50%と告げられるのです。

死への恐れ葛藤や孤独、もう治療をやめようかとも考えた遼駕でしたが、恭平から送られてきたオレンジ色の登山靴を見て、15歳の時に冬山で遭難した時の記憶、生きるか死ぬかは五分五分だと思ったその時の記憶が蘇ってきます。

「あの日のおれは、生きるために吹雪の中を進んでいったのだ。逃げ出したいなんて、一度たりとも思わなかった・・・」

泉は残された最後の時間をふるさと岡山で過ごそうとする遼駕の後を追うように、看護師をやめて介護士となり、遼駕の担当を希望するのでした。

最後のシーンは遼駕と恭平、矢田泉そしてレストランで遼駕を手助けしてくれていたアルバイトの高那と、遭難した冬山に登って頂上を目指す場面です。

父や母や兄弟や泉らの友人に支えられて、何の取り柄もない自分ではあったけども、自分は生きてきた意味があったのだと、遼駕は悟ります。

泉がこう言うのですね。「遼駕くんは電卓の真ん中で突起のついた5のボタンに似ている」と。

数字の5には小さな突起があって、目の見えない人であっても、あるいは暗闇であっても、その突起を頼りに他の数字を手繰っていくことができます。

そういう存在だと言ってくれたんですね。何か困った時に頼りになる人だと。

なんの取り柄もないと考えていた遼駕でしたが、そういう風に言われて自分の生きてきた命を肯定でき、人生に納得して死を迎えることができると感じたのでした。

生きた時間の長さではないですよね。自分として納得できるものを貫いてきた、そう言えるかどうか、それによって自分の生命の価値が測られるのではないでしょうか。

落涙必至の小説です。

偶然にも、次回の『膵臓がん患者と家族の集い』は、清水研先生の講演「もしも一年後、この世にいないとしたら。」が予定されています。

がんと死、命とはなにか、一緒に考えてみませんか?


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