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今日の一冊(159) 「がんは裏切る細胞である」

■「がんは進化のプロセスそのものである」。無軌道に見えていたがん細胞のふるまいも、進化という観点から見れば理に適っている。がんの根絶をしゃにむに目指すのではない、がん細胞を「手なずける」という新しいパラダイムについて、進化生物学は原理的な理解をもたらしてくれる。
■著者は、この新しい領域を開拓する研究者の一人。進化の視点の基本から説き起こし、協力し合う細胞共同体としての身体の動態や、その中で《裏切り》の生存戦略を選び取るがん細胞の生態を浮かび上がらせる。身体にとって、がん細胞の抑制はつねに大事なものとのトレードオフだ。そんな利害のせめぎあいを分析することにたけた進化生物学の視点から、がんの発生や進展を、あるいは遺伝子ネットワークや免疫系との関係を見直せば、たくさんのフレッシュな知見と問いが湧いてくる。そして最後に話題は新たな角度からの治療へと及ぶ。

アマゾンの書評欄には上のように書かれています。

がんは裏切る細胞である――進化生物学から治療戦略へ

がんは裏切る細胞である――進化生物学から治療戦略へ

アシーナ・アクティピス
3,344円(01/22 11:11時点)
発売日: 2021/12/10
Amazonの情報を掲載しています

進化生物学から見たがん細胞

私たちの体には30兆個以上の細胞があり、それらはすべてが複雑なネットワークを介して互いに協力し合っています。この綿密な協力体制がなければ、多細胞生物は一瞬たりとも生きていくことができません。

細胞同士はお互いに情報を交換し、栄養分をやり取りし、そして必要とあらば自ら死を選ぶ(アポトーシス)ことによって組織を維持しようとします。

しかし進化論の立場に立てば、周りの細胞と協力するのではなく、それらから栄養分を搾取して、たくさんの子孫を残す振る舞いに出た方が有利となる場合があります。

それががん細胞です。まさしく裏切る細胞です。

しかしがん細胞にしてみれば、地球上のすべての生物と同じことをしているに過ぎません。つまり自分の置かれた生態系の状況に応じて進化しているのです。そしてそれが時には自らを含む系全体に害を与える方向に進むというだけに過ぎません。

一方で一個の生物体としては、こうしたがん細胞の振る舞いを許しておけば、自分自身が生き残ることができず、進化することができません。

なぜ生物はがんを根絶する方向に進化をしなかったのか。それはがん細胞全て殲滅するような方向に進化をすると、その生物自体が生き残ることができなかったからです。

生物が成長するためには細胞が分裂し組織化し、別の組織に浸潤し、指の間の水かきの膜のようなものをアポトーシスによって消滅させる。そうした仕組みが必要です。

そしてがん細胞はこうした仕組みを巧妙に利用しているのです。がん抑制メカニズムは進化の見地から言って、がん化の恐れのある細胞を100%制御することは不可能なのです。

進化生物学によってがんの本質をあぶり出す研究が、近年急速に発達しています。

その学問の最前線で何が起きているのか。第一線で研究する著者がまとめた本書によって、がんに対するあなたの見方がきっと変わってくるでしょう。

私たちの体内では30兆個の細胞が進化の途上にあります。これを「体細胞進化」と言います。それは地球上の生物と何ら変わるところがありません。

体内の細胞の間にも自然選択が働くため、身体という生態系によりよく適応した細胞が、より多くの子孫細胞を生み出して優位に立つのです。

ですから、がんは病気というよりも「多細胞生物に特有の性質」といえます。

転移した末期がんなどの場合は、高用量の抗がん剤治療をすることで、がん細胞に対して「進化圧」がかかります。つまり薬剤に感受性のあるがん細胞が死滅した後は、進化し遺伝子変異によって抗がん剤に対して耐性がついたがん細胞が、これまで以上に急激に増えることがあります。

こうした状況では、多くの場合、がん細胞を一つ残らず根絶する戦略は、逆に患者の余命を縮めてしまう結果になります。

がんをコントロールする

しかし、がんを「進化」という観点から捉えることによって、新しい治療戦略が見えてきます。

フロリダ州タンパにあるモフィットがんセンターの放射線腫瘍学者ロバート・ゲイトンビーらが提案した手法に『適応療法』と呼ばれるものがあります。

「適応療法」では、画像技術や血液検査によって腫瘍の状態を綿密にモニターをします。腫瘍が成長しているのかいないのかがわかったら、その情報をもとに抗がん剤の用量を決めます。

具体的には、

  1. 最初に腫瘍を小さくするために比較的高用量の抗がん剤を投与します。これによってがん細胞の進化のスピードを抑えるのです。
  2. 次に腫瘍を定期的にモニターしながら、腫瘍のサイズに変化がなければ用量も変えない。
  3. 腫瘍が成長したら用量を増やす(ただし最大耐量を超えないようにする)
  4. 大きくならなければ用量を減らす。
  5. 腫瘍のサイズが所定の下限値を下回ったら、再びその一線を越えるまで投薬は停止する

こうしたアルゴリズムに従って行ったマウスを使った実験では、マウスの腫瘍を制御して長期間コントロールすることができました。

また、腫瘍微小環境安定させることによって、より遅い生活史戦略を取る細胞が選択されやすくなります。つまり攻撃性の低い細胞の方が生存と繁栄において有利になるのです。また転移の要因であるがん細胞同士の協力を促す選択は、選ばれにくくなります。

この「適応療法」は、人の前立腺がん患者に対しても試験が行われ、11人の患者のうちがんの進展が確認されたのは一人のみ。なおかつ患者が投与された薬剤の総容量は、推奨される標準治療の半分にも満たなかったとされています。

「適応療法」は低用量抗がん剤治療か?

この「適応療法」は、日本で行われている低用量抗がん剤治療にほぼ似ています。アメリカではメトロノミック療法と言われた低用量抗がん剤治療法が一時研究されたこともありましたが、その後話題に上らなくなりました。

しかし「適応療法」として幅広く研究と試験が進んでいるようです。

日本においては一部の医師が経験に基づいて低用量抗がん剤治療を行っているだけですが、アメリカのように、マウス実験を経てヒトでの治験、研究会と進む必要があります。なぜならばこの治療法こそが、がんをコントロールできる方法かもしれないからです。

著者は、攻撃的な方法でうまく治療できる腫瘍と、こちらの戦略の裏をかいて進化する腫瘍を区別する方法として『進化インデックス及び生態系インデックス』を紹介しています。この他にもいくつかのがんをコントロールする戦略が記されています。

しかし心穏やかな手法ではないですね。誰だって体内の腫瘍にはきっぱりと消えてほしいと願うものです。しかし、特に後期のがんについては最適な戦略とは言えないでしょう。

がんを進化させない、あるいは進化のスピードを遅くすることができれば、同じ抗がん剤をより長く使うことができるようになります。

高額だし、読み応えのある一冊ですが、関心のある方はどうぞ。


【目次】
1 はじめに──がん、それは形を得た進化そのもの

2 がんはなぜ進化するのか
がん細胞は体内でどのように進化するか
がんの視点で考える

3 細胞同士の協力を裏切る
がんとは何か
協力が進化するという不思議
多細胞の体は協力を具現化したもの
裏切る細胞を見つけ出す
細胞の情報活動

4 がんは胎内から墓場まで
混沌の地獄vs.停滞の沼
あなたの母親と父親はあなたの体の中で攻防を繰り広げている
ミルクセーキと一夫一婦制
細胞版「若返りの泉」
時はあらゆる傷を癒す── ただし、速く癒しすぎるのは考え物
体細胞進化で感染症と闘う
生殖能力ががんをはらむ
ところ変わればがんリスク遺伝子も変わる
栄養膜の浸潤
私たちはひとり残らず前がん性の腫瘍と共に生きている
現代特有の環境要因とがんリスク

5 がんはあらゆる多細胞生物に
生命全体で見られるがん
細胞数が多いほどがんも多い?
生活史に基づく決断
調節され、制御されている
イヌと悪魔
感染性がんはヒトには(ほぼ)起こらない

6 がん細胞の知られざる生活
腫瘍微小環境のつくり方
破滅した生態系を逃れる
協力革命
メタ個体群と転移
副産物? 偶然? 協力の理由をめぐるそのほかの説明
微生物による仲介
クローン増殖ががんを止める場合もある
がんの進化における利己的な遺伝子

7 がんをいかにコントロールするか
炎からよみがえる不死鳥
遅らせる
薬のふりをする
酸性度を下げる
腫瘍に資源を与える
がんのコントロールに協力理論を活用する
協力を妨害する
コントロールを通した治癒

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