今日の一冊(170)『がんの壁』佐藤典宏
『膵臓がん患者と家族と集い』で度々ご講演いただいている佐藤典宏先生が新しい本を上梓されました。
膵臓がん専門の外科医であり、YouTuberとして11万人のフォロワーがいます。膵臓がんに関するたくさんの動画もアップされています。
がんの告知を受けた高齢者は、さまざまな「壁」にぶつかります。それは心理的な壁、持病の壁、体力の壁、栄養の壁、認知機能の壁、社会的な壁、あるいは医師や家族とのコミュニケーションの壁かもしれません。
こういった「がんの壁」を乗り越えられるかどうかで、治療がうまくいくかどうか、治療後に普通の生活に戻れるかどうか、そして、幸せな老後が送れるかどうかが決まります。
「がんの壁」」はじめにより
冒頭でこのように述べた佐藤先生は、今新たにがんと診断される4人に3人は65歳以上の高齢者だと指摘しております。
高齢のがん患者さんが増え続けているにもかかわらず、その特徴や問題点を明らかにする研究や議論は多くありません。
医師の間でも、「高齢者のがん」についての理解が不十分で、提供される医療やケアは決して満足のいくものではありません。高齢者ががんになったらどうすべきかという、患者さん向けの指針や情報も少ないのが現状です。
また医師が患者が高齢という理由だけで積極的な治療をしない(無治療)という選択を押し付けることがあります。「危ないから治療はやめておきましょう」などと言った具合です。
逆に高齢の親の治療について、家族が次から次と新しい治療法(集学的治療法)などを提案して、逆に体力を奪い、結果として寿命を縮めることも懸念されています。
こうした現状を憂えた佐藤先生が、高齢のがん患者さん、あるいはそのご家族向けに書かれたのがこの本です。
例えば「高齢の癌患者さんの家族がやってはいけない3つのこと」には、
- 患者に代わって治療方針を決めてしまう
- エビデンスのない治療(標準治療以外の方法)を押し付ける
- 患者さんの仕事や体を動かす機会を奪ってしまう
を上げています。
これなんてまさに「あるある」ですね。
また食事と運動、心のケアの3要素を重点的に、どういう取り組み方をすれば自分の納得のいく治療や治療後の老後を送ることができるのか、簡潔によくまとめております。
高齢の癌患者さんやその家族にとって、告知された直後はさらに悩みが多いことでしょう。治療方針に迷うこともあろうかと思います。
そういった方におすすめの一冊です。