今日の一冊(173)『膵臓がんの何が怖いのか』本田五郎
著名なすい臓がん専門の外科医である東京女子医科大学の本田五郎先生の著作です。
膵臓がんは焦って手術をしてはいけない
主な対象とした読者は、膵臓がん患者ではなく、膵臓がんが怖い癌だと知っていて知識を得たい方、あるいは膵臓がんの治療法や手術などについて一般的な知識を得たい方を対象としているようです。
ですから前半は膵臓癌の基礎的な知識の説明、検査法や手術法などが書かれています。
そして第4章で膵臓がんを早期に見つける重要性、ステージ0で見つかれば90%の治癒率になり、根治の可能性が高くなるというようなことが説明されております。
注目は第5章「膵臓がんは焦って手術をしてはいけない」
膵臓がん手術の専門家であり、肝胆膵の手術経験が2500件を超える外科医の先生が、焦って手術をすべきでないと言っていることが注目です。
「膵臓がんは手術だけが唯一の根治的治療」というフレーズも言葉のアヤや誤解が含まれていると言います。
これは決して「手術さえすれば膵臓がんは根治できる」という意味ではなく、「手術ができた人の中にだけ根治できる人がいる」というのが正しいのです。
手術よりも抗がん剤治療の方を優先し、術前化学療法をしっかりとやって、手術すべき膵臓がんなのかどうかを見極めるべきだと言います。術前化学療法の結果を見極めながら手術すべきではない患者さんの選別をするのです。
効果の期待できない患者さんに手術をすることによって不利益を与えることを避けるという意味もあります。
そして術前科学療法の期間は最低でも3ヶ月、できれば6ヶ月から8ヶ月程度が必要だと提言しています。
現在の膵臓がんのガイドラインでは、術前化学療法は1ヶ月半という風になっているのが一般的ですが、これには科学的な根拠がないと言います。本田先生は、この臨床研究の治療スケジュールを決めるプロトコル委員でしたが、複数の委員からは1ヶ月半では足りないから3ヶ月にしようと意見が出たそうです。
しかし当時、術前化学療法の考え方はまだ一般的ではなかったため、治療期間をあまり長くすると、日本全国の専門医療機関の協力を得られなくなるのではないかという意見が強くて、最終的に1ヶ月半に落ち着いたというわけです。
つまり1ヶ月半というのは妥協の産物なのです。
術前化学療法を8ヶ月以上続けた患者は根治率が高い
診断時に切除不能であった膵臓がん患者さんのデータを集めた、関西医科大学の里井教授の研究結果があります。
抗がん剤治療や放射線治療法を長期間継続したことによって、手術による切除が可能な状態に戻ることができた患者さんのデータを全国から集めて分析したものです。
里井教授の分析によると、同じように抗がん剤がよく効いていても、8ヶ月以上の長期間にわたって抗がん剤治療を継続した患者さんたちの方が、それより短期間であった患者さん達よりも、膵臓がんを根治できた率が明らかに高かったそうです。
今現在、術前化学療法をしている膵臓がん患者さん、あるいはこれから手術を控えている患者さんにとって参考になろうかと思います。
膵臓がんの早期発見には超音波検査を
膵臓がんの早期発見については、こちらの押川勝太郎先生の動画もぜひ閲覧してください。北海道の厚岸からのレポートです。押川先生、よく北海道に仕事ででかけているようです。
これはなかなか難しい問題で、すい臓がんにかぎらず
早く手術してすっきりしたいという患者が多いんですよね
手術が必ずしも利益にはならなくても「何とか手術できないか」と言う人が多い
患者心理として無理もないかと思いますが
このあたり、医療側も情報を発信していく必要があるでしょう
ステージ2以上のすい臓がんの場合は、かなり高い確率で遠隔転移が隠れていて、そのために他のがんに比べて再発率が高くなるのです。
術前化学療法をやっている間にがんが大きくなるのではないかと心配になる気は分かりますが、局所のがんよりも遠隔転移した腫瘍が問題になるのでしょう。
目には見えないが遠隔転移した小さながん細胞を叩いておくことで治療成績が上がるのだろうと、思います。
本田先生の5章にも詳しく書かれています。