心と癌と量子力学の関係(2)

スポンサーリンク
LINEで送る
Pocket

朝日新聞の木曜日の夕刊に『日々是修行』というコラムがある。花園大学教授の佐々木閑氏のコラムですが、これをいつも楽しみにしています。

2008年4月17日の『「合理的」に考えるとは』のタイトルのコラムでは、量子力学における「多世界解釈」という言葉が出てきてびっくりした。

この人は仏教学者のはずだが、どうして量子力学に詳しいのだろう。調べてみたら「京都大学工学部工業化学科を卒業後、同大学大学院文学研究科博士課程に入学、退学後、カリフォルニア大学バークレー校に留学、京都大学文学部哲学科仏教学専攻卒業」となっているので、なるほどと思った次第です。

『「合理的」に考えるとは』のコラムでは、次のように書かれている。

この世界は時々刻々分裂を繰り返していて、あなた自身も次々と分身している。この自分は平行して存在している大勢のあなたの一人に過ぎず、他の世界には別のあなたがいるのである。しかし、こんな考えは非常識であり、まじめに言うと馬鹿にされるだろう。しかし、量子力学の解釈を合理的に進めていけば、論理的にこうした結論になるのだ。正しい論理を積み重ねて得た結論は合理的であり、重要なのは結論よりも考える道筋である。外見上は常識的で世間一般が「そうだ、そうだ」と納得しても、途中の論理に狂いがあればそれは不合理なのである。その典型的な例が「マイナスイオンは身体によい」という主張である。

日々是修行 現代人のための仏教100話 (ちくま新書)このコラムは、ちくま新書から『日々是修行-現代人のための仏教100話』として出版されているので興味を持たれた方はどうぞ。4月17日のコラムは第52話に『結論より思考の道筋が大事』とタイトルを変えて収録されています。45話には『ある物理学者との邂逅』と題して、『がんと闘った科学者の記録』戸塚洋二・立花隆で紹介した戸塚洋二氏との仏教と物理との世界観の共通性について語らい合ったことなども紹介されています。そして戸塚洋二さんのブログにも佐々木閑氏と会ったことがお互いに記されているのですね。

犀の角たち佐々木閑氏には『犀の角たち』という本があって、実はこちらの方が抜群におもしろい。私は久しぶりに時間を忘れて読みふけることができる本に出会った心境です。この本は仏教書です。著者もそのように書いているから仏教書なのでしょうが、直接に仏教のことに触れているのは、後ろの3分の1程度です。物理学、進化論、数学、更にベンローズの『皇帝の新しい心』に触れてから、やっと仏教論が始まるという、なんともおもしろい構成です。

前置きが長くなりました。量子力学(量子論)の話しに入りましょう。とは言っても私のようなど素人が、物理学者でも正確にわかっている人は少ないと言われる量子論について、しかもブログでわかりよく説明するなど、月に向かって犬が吠えるようなものです。量子論に関するわかりやすい解説書がたくさんありますからそちらにお任せします。

とりあえず前提として、次のことが分かったつもりになってみます。

  • 有名な二重スリット実験により、光は粒子と波の両方の性格を持っていることが分かった。
  • 電子についても同様に、二重スリットを通ると干渉縞が生じる。これは電子も波の性質を持っているということである。
  • 光子や電子が、どちらのスリットを通過したかを観測装置で測定すると、干渉縞は現われない。人間が「観察」することによって結果が違ってくる。
  • スクリーンに到達した電子は、「1個」の粒子としてスクリーンを光らせるのであるが、到達する位置は途中の二重スリットを通過して干渉した波形に応じた確率に対応した一点である。

量子論では「世界はどんなに精密に観察しても、本質的に不確定なのであり、それがどう見えるかは、我々観察者側のあり方が決めること」という結論です。合理的に考えればこうなるのであり、常識は捨てなければならないと主張するわけです。

ところで、量子論でも説明の付かないことが一つあります。それは先の二重スリット実験において、電子がスクリーンに到達したときに何が起きているのかを説明することができないのです。電子は二つのスリットを同時に通過するから干渉縞が現われるのであり、そのことにより、途中では「波」として進んでいることが分かります。

しかし、波としてやってきた電子がスクリーンに衝突したときは、一個の粒子として光って現われるのです。波であったものがスクリーンに到達した瞬間に粒子に変貌します。これを「波の収縮」といいます。量子論の数学からはこの現象を説明することができません。量子論の最大の弱点です。それで、「シュレーディンガーの猫」という思考実験で攻撃されることになったのです。

この難問に対する一つの回答として出されたのがエヴェレットの「多世界解釈」です。電子がスクリーンのAという点に衝突した世界、B点に衝突した世界・・・・・と延々と無限に続きます、どの世界も電子の波がスクリーンに描く干渉縞の確率に応じて存在することになります。A点に衝突したと私が見ているのは、A点に衝突した世界にいるかであり、別の私がB点に衝突した世界にもいる、C点に・・・・・。とこれも無限に続きます。

佐々木閑氏が「量子力学の解釈を合理的に進めていけば論理的にこうした結論になる」というのはこういうことです。とにかく世界は時々刻々分裂して枝分かれするように別の世界が絶えず生み出されていると、量子論を突き詰めていけば、そう考えざるを得ないということです。

「多世界解釈」が仏教の輪廻転生、三千大千世界、無量寿仏(阿弥陀如来)などとどのように関係するのか、長くなったので次回にします。


がんと闘う多くの仲間がいます。

にほんブログ村 病気ブログ すい臓がんへ
にほんブログ村

にほんブログ村 病気ブログ がんへ
にほんブログ村


スポンサーリンク

このブログの関連記事

  • シュレベールの箴言(6)シュレベールの箴言(6) 免疫細胞は、客観的に見て、より”生きる価値”があるように見える人生を送っている人間の体内では、それだけ活発に動くかのように見える。 がん細胞に対して活発な免疫システ […]
  • この方も声を上げているこの方も声を上げている 拡散してほしいと書かれているので、長尾和宏医師のブログです。
  • 亡くなった患者のプライバシーは保護されないの?亡くなった患者のプライバシーは保護されないの? 仕事帰りに図書館に寄って、文藝春秋に掲載されている近藤誠氏の『川島なお美さんはもっと生きられた』を読んだ。 副題に「二年前、彼女は私のセカンドオピニオン外来を訪ねてきた」と書かれ […]
  • 患者会に参加する患者は、生存率が高い患者会に参加する患者は、生存率が高い がん患者どうしの互助的集まりに参加して精神的なサポートを受けている患者と、そうではない患者とでは、その後の生存率に大きな違いがあることが分かっています。 […]
  • がんの最後は痛いのか?がんの最後は痛いのか? 土日は体調を崩してしまい、終日家で休養していました。Pancanのパープルリボンキャラバン2010に参加を予定していましたが、取りやめ。中村祐輔教授らの話を聞きたかったのですが、 […]
  • 東大話法と中川恵一東大話法と中川恵一 「東大話法」に関する反響が未だに続いていますね。安冨歩さんの「東大話法」に関する興味深い記事がいくつかありました。 ■毎日新聞:特集ワイド「東大話法のトリック 」(リンク切 […]
  • 『松田さんの181日』 死ぬ運命は真っさらにして、知らぬが如くに生きる オール讀物新人賞を受賞した平岡陽明の短編集。 表題作『松田さんの181日』は、カネも女も才 […]
  • アベノミクスのバブル崩壊アベノミクスのバブル崩壊 5月31日付でローンの借り換えをしました。アベノミクスによるいかさま景気など続くはずがないのだからと、ゴールデンウィーク中に借り換えを決断して準備を開始。その途中でいきなり株価の […]
LINEで送る
Pocket

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です