がんと食事(2)

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キャンベル博士の「がんの原因は肉だ」という主張は、アメリカでは受入れられませんでしたが、1997年の世界がん研究基金(WCRF)と米国がん研究協会(AICR)によるがん予防の勧告(14か条の勧告)には取り入れられています。

これは4500以上の研究を元に、「食べもの、栄養とがん予防」として報告されました。日本では、がん予防14か条、タバコの制限を加えてがん予防15か条として紹介されました。

  • 第1条 食事は植物性食品を中心とする。野菜、果物、豆類、精製度の低いデンプン質の主食など、できるだけ多様な種類の食べ物を摂る。
  • 第2条 体重はBMl(日本では体重/身長mX身長m)の数値18.5~25を維持して肥満を避ける。
  • 第3条 運動は1日1時間の早歩きと、1週間に合計1時間の強度の運動を行ない、体を動かす習慣を維持する。
  • 第4条 野菜・果物を1日に合計400~800g摂る。
  • 第5条 野菜・果物以外の植物性食品としては、1日に600~800gの穀類・豆類・イモ類・バナナなどを摂る。
  • 第6条 飲酒は勧められない。アルコール類を摂るなら男性は1日に2杯(ビール500ml、ワイン200ml、ウィスキー50ml、日本酒1合)以下、女性は1日1杯以下に控える。
  • 第7条 赤身の肉(牛肉、羊肉、豚肉など)は1日80g以下に抑える。
  • 第8条 総脂肪量を減らし、総エネルギー量の15~30%の範囲にとどめる。とくに動物性脂肪を控え、植物油を使用する。
  • 第9条 塩分は1日6g以下に抑える。香辛科やハーブ類を使用するなどして、減塩のための工夫をする。
  • 第10条 カビ毒に注意する。食べ物を常温で長時間放置せず、カビが生えたものは食べない。
  • 第11条 腐りやすい食品は、冷蔵庫か、冷凍庫で保存する。
  • 第12条 食品添加物や残留農薬に注意する。適切な規制下では添加物、汚染物質、その他の残留物はとくに心配いらない。
  • 第13条 黒こげの食べ物を避け、直火焼きの肉や魚、塩干し燻製食品は控える。
  • 第14条 栄養補助食品は、以上の勧告を守ればあえてとる必要はない。

当時、キャンベル博士はアメリカがん研究協会の創設を支援し、上級研究顧問の要職にありました。当然この報告においても重要な役割を果たしています。

2007年に、世界がん研究基金(WCRF)と米国がん研究協会(AICR)による同様の評価報告書「食物・栄養・身体活動とがん予防」が10年ぶりに 改訂されました。その中では牛・豚・羊などの赤肉・加工肉について大腸がんのリスクを“確実”に上げるとし、また、いくつかの食品や栄養素について“可能性大”と判定するなど、より多くのリスクおよび予防要因について考察されています。

  1. 肥満 ゴール:BMIは21-23の範囲に。推薦:標準体重の維持。
  2. 運動 推薦:毎日少なくとも30分の運動。
  3. 体重を増やす飲食物 推薦:高エネルギーの食べものや砂糖入り飲料やフルーツジュース、ファーストフードの摂取を制限する。飲料として水や茶や無糖コーヒーが推奨される。
  4. 植物性食品 ゴール:毎日少なくとも600gの野菜や果物と、少なくとも25グラムの食物繊維を摂取するための精白されていない穀物である全粒穀物と豆を食べる。推 奨:毎日400g以上の野菜や果物と、全粒穀物と豆を食べる。精白された穀物などを制限する。トランス脂肪酸は心臓病のリスクとなるが、がんへの関与は知 られていない。
  5. 動物性食品 赤肉(牛・豚・羊)を制限し、加工肉(ハム、ベーコン、サラミ、燻製肉、熟成肉、塩蔵肉)は避ける。赤肉より、鶏肉や魚が推奨される。ゴール:赤肉は週300g以下に。推奨:赤肉は週500g以下に。乳製品は議論があるため推奨していない。
  6. アルコール 男性は1日2杯、女性は1日1杯まで。
  7. 保存、調理 ゴール:塩分摂取量を1日に5g以下に。推奨:塩辛い食べものを避ける。塩分摂取量を1日に6g以下に。カビのある穀物や豆を避ける。
  8. サプリメント ゴール:サプリメントなしで栄養が満たせる。推奨:がん予防のためにサプリメントに頼らない。
  9. 母乳哺育 6か月、母乳哺育をする。これは母親を主に乳がんから、子供を肥満や病気から守る。
  10. がん治療後 がん治療を行ったなら、栄養、体重、運動について専門家の指導を受ける。

これらの報告(勧告)は婉曲に表現していますが、動物性食品の摂取は極力減らすこと、赤肉(牛・豚・羊)は摂らないこと、摂る場合でも週300g以下にすることを提唱しています。これはキャンベルが『葬られた第二のマクガバン報告』で言っている「1日50g以下」に等しくなります。

キャンベル博士の「プラントベースでホールフードの食事」との考えが大きな柱となっていると考えて良いでしょう。「動物性食品をすべて止めろ」とは、抵抗が大きくて、生産者や業界を考慮した書き方になったのでしょう。

日本においてはどうでしょうか?

国立がん研究センターの「がん情報サービス」の「日本人のためのがん予防法」では、「2.科学的根拠に基づくがん予防とは」及び「3.発がんに関わるリスク要因の評価」でがんの種類ごと、食事・栄養のカテゴリーごとに分析しています。

動物性食品によるリスクを認識しながらも、しかし結論は、「食事はバランスよくとる。野菜や果物不足にならない」などと大きく後退しています。世界がん研究基金のもっとも重要な点、動物性食品を控えることを全く無視した内容となっているのです。(下の表3)

表3 日本人のためのがん予防法

―現状において日本人に推奨できる科学的根拠に基づくがん予防法―

喫煙 たばこは吸わない。他人のたばこの煙をできるだけ避ける。
飲酒 飲むなら、節度のある飲酒をする。
食事 食事は偏らずバランスよくとる。
      * 塩蔵食品、食塩の摂取は最小限にする。
      * 野菜や果物不足にならない。
      * 飲食物を熱い状態でとらない。
身体活動 日常生活を活動的に過ごす
体形 成人期での体重を適正な範囲に維持する(太りすぎない、やせすぎない)
感染 肝炎ウイルス感染の有無を知り、感染している場合はその治療の措置をとる。

厚生労働省の「食生活指針」も同様に、

  1. 主食、主菜、副菜を基本に、食事のバランスを。
  2. ごはんなどの穀類をしっかりと。
  3. 脂肪のとりすぎをやめ、動物、植物、魚由来の脂肪をバランスよくとりましょう。
  4. たっぷり野菜と毎日の果物で、ビタミン、ミネラル、食物繊維をとりましょう。
  5. 牛乳・乳製品、緑黄色野菜、豆類、小魚などで、カルシウムを十分にとりましょう。
  6. 塩辛い食品を控えめに、食塩は1日10g未満にしましょう。

となっているのですから、「乳製品は議論があるため推奨していない」とする世界がん研究基金(WCRF)報告を無視しています。どうやら厚生労働省とその管轄下にある国立がん研究センターは、「動物性食品ががんの原因」ということを認めたくないかのようです。

2007年の勧告の翌年に横浜市で開催された「国際栄養士会議」では、報告書作成に関わった研究者らが集まって詳細を報告しています。そのレポートが「がんナビ」に載っていて、

Kolonel氏は、「膨大な論文のレビューの結果、植物性食品を中心とした食事により、口腔がん、咽頭がん、食道がん、肺がん、胃がん、膵 がん、結腸直腸がんのリスクが低下することが確実」と語った。また、植物性食品を中心とすることで、動物性食品の摂取量が減り、過体重や肥満の予防にもつ ながり、がんのみでなく、循環器系の疾患の予防にも有効とした。
James氏は、肥満とがんに関する発表を行い、「これまでの体系的なレ ビューから、過剰体重が食道がん(腺がん)、膵がん、結腸直腸がん、乳がん(閉経後)、子宮内膜がん、腎臓がんのリスクを高めることが明らかとなってい る」と語った。加えて、「世界中で成人・小児とも過剰体重の割合が増加しており、この傾向になんとか歯止めをかける必要がある」とも力説した。

と書かれています。「がん予防10か条」は、『がんの補完代替医療ガイドブック』にも紹介されているのですが、その精神を正しく国民に伝えているとは言えないようです。(続く)


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