ビジネスクラス

中村祐輔先生の『シカゴ便り』がアメリカの医療事情を良く伝えている。「続々と開発されるがん新規治療薬」では、9月4日にFDAが承認した米製薬企業メルクの免疫チェックポイント阻害剤、抗PD-1抗体、Keytruda(キートルーダ)、(商品名ペンブロリズマブ)のことが書かれている。メラノーマの治療薬です。

がん細胞は非常に利口だから、免疫細胞にブレーキをかけて自分を守る仕組みを持っている。その分子がCTLA-4やPD-1で、がん細胞はT細胞上のこれらの分子のスイッチを入れることでブレーキをかけ、免疫細胞から自分自身を守ることができる。本当に利口なんです。がん細胞は。

で、新しい薬はこれら免疫を抑えるためのチェック機構(チェックポイント)を担う分子を標的にした薬剤なので「免疫チェックポイント阻害薬」と呼びます。がんペプチドワクチンなどの免疫系を賦活させるだけでは効果がないのはこうした仕組みのためのようです。

この薬の価格が驚くような高額です。キートルーダの患者1人当たりの薬剤費は、月12,500ドル(約125万円)、1年間続けると15万ドル(約1500万円)となるといいます。分子標的薬などの新薬がどんどん承認されてがん患者の命を救うようになって欲しいが、一方で高齢化社会に向けて医療費が膨れあがっていくことは必至でしょうね。膵臓がんのこのような新薬が登場して、余命半年と言われたとしたら、私など「こんな初老の男に1年で1500万円も使う価値があるのか」と考えてしまいそうです。(保険承認されなければ使いようもないけど)

財政破綻を避けようとすれば、「救える命を救う」=お金のある患者だけでも救うべきという考えで「混合診療」が肯定されるような気がします。病院の点滴用の椅子で、方や高額な新薬を自由診療で使っている患者、一方では承認された抗がん剤しか使えない患者が隣同士で、という図が見えてきそうです。ファーストクラスやビジネスクラスとエコノミークラスが同じ機内(病院)で、目的地は「延命、または完治」というツアーです。

上昌広氏は著書『医療詐欺』のなかで、『国や医師会が批判する「混合診療」を導入すれば安全性が上がる』と書き、航空会社がビジネスクラスを導入したおかげで競争原理から安全性が向上したと書いていますが、本当にそうでしょうか。

飛行機事故が起きたときにパイロットもファーストクラスの乗客もエコノミークラスの乗客も同じように死にます。パイロットだって死にたくはないでしょうから必至で墜落を避けようとするでしょう。しかし、病院は飛行機ではない。医者と患者は運命共同体ではないし、治療の甲斐無く死ぬのは患者であって医者ではないのです。一方でビジネスクラス、ファーストクラスの患者は治療の恩恵をより多く受けることができるでしょう。

日本医師会も「混合診療反対」の旗を降ろしたようなので、いずれ混合診療が普通の状態になるに違いありません。命の価値も金次第という時代です。これがグローバル化の行き着く結果です。医療は、たとえ大地震や津波が来ようが、戦争が起きようが、原発が爆発しようが、機能しなくてはならないものです。そこに「儲かるか儲からないか」という論理はありえない。

Gaza_war_2009_6 ガザ地区ではたくさんの民間人、子供が無残に死んでいます。それを思うと、がん患者の「治りたい」「もっと生きたい」という願いは当然なのですが、現在の日本の医療でも十分に天国のような気がしないでもない。平和があっての医療です。


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