牛の真似をしても、がんは治らない
ニンジンジュース療法
ゲルソン療法やその亜流である日本人医師による「がんのニンジンジュース療法」があります。街の本屋に行けば、その手の本が並んでいて、がんを告げられた患者が最初に手に取る本になっているようです。
「ニンジンジュースでがんが治った」という方もいるようです。そういう方の腸内には特殊な細菌が住みついているのでしょう。
牛などの草食動物は、体内に草からアミノ酸を合成できる微生物がいるからなのです。草を食べて筋肉隆々になっているわけではなくて、草を消化して蛋白質に変えた細菌を食べているのです。
『哺乳類誕生 乳の獲得と進化の謎』で酒井仙吉氏が解説されています。
ウシは唾液と第一胃に尿素を分泌する。微生物は尿素と、胃で発生するアンモニアからアミノ酸をつくる。これも非反芻動物には不可能である。草のタンパク質は微生物に利用されてしまうが不利にならない。微生物が第四胃に送られると胃酸で死滅、タンパク質消化酵素で分解され、小腸でアミノ酸となって吸収されるからである。タンパク質は草に含まれていた一〇~一〇〇倍に増加し、量的に不足することはない。微生物も動物であり、必須アミノ酸が欠乏することもない。また、各種ビタミンも微生物から得ている。口にした栄養はみかけで、第四胃に到着した栄養が本物である。(166ページ)
牛は草ばかり食べていると思っていたら、実は、しっかりと動物性タンパク質を補給しているのです。
牛と同じ微生物を腸内に持っている人も稀にいるようです。そういう方が大量のニンジンジュースを飲んでいても、蛋白質を補給できるのでしょう。
人間の細胞は60兆個とも37兆個ともいわれていますが、日々壊されて再生されています。これには大量の蛋白質が必要です。また、免疫細胞も蛋白質がなければ産生できません。
がん患者の多くはがんで死んでいるのではない
「肉を食べない」食事では、免疫にとっては「兵糧攻め」にあっているようなものです。「四つ足の肉はがんを育てる」にも何の根拠もありません。がん細胞は栄養が取れなければ、炎症性サイトカインを放出してタンパク質の代謝を異常にし、筋肉などを溶かすようにして栄養を集めて大きくなるのです。食べて栄養を摂らなければ、がん患者はあっという間に栄養障害になり、やせ細っていきます。感染症で亡くなるのです。
東口高志氏の『「がん」では死なない「がん患者」』には、
がんで入院しても、がんで亡くなる患者はたった2割です。8割の方は感染症で亡くなっています。なぜ感染症に罹るのか、それは栄養障害によって免疫機能が低下しているからです。
栄養素のバランスが崩れた結果、代謝障害が起き、身体機能に支障が出ます。免疫機能もそのひとつで、健康人なら問題のない弱い菌にすら感染して、回復できずに亡くなるのです。
著者らの調査によれば、余命一ヶ月のがん患者の82.4%は栄養障害に陥っていました。適切な栄養管理をしてもこれ以上よくならなかった患者はわずか17.6%でした。そして適切な栄養管理を受けた患者は、がんそのもので亡くなるのですが、その最期はとてもおだやかでした。
と書かれています。
「栄養を摂るとがん細胞が大きくなる」との考え方は、その栄養が私たちの身体から奪われているという事実を無視しているわけです。
タンパク質、糖質、脂質の三大栄養素のなかで、タンパク質が不足すると筋肉量が減少します。足りない栄養を補うために筋肉を消費してしまうのです。歩けない、立てない、座れない状態になるのです。
抗がん剤で治療中の患者は、アルブミン濃度が低いほど副作用が大きくなります。抗がん剤、放射線治療の副作用を低減させるためにも動物性蛋白質などの栄養補給が大切です。
ゲルソン療法は、抗がん剤治療中はやってはいけない
ゲルソンの娘であり、シュバイツアー博士の主治医でもあったシャルロッテ・ゲルソンの『決定版 ゲルソンがん食餌療法』の12章には次のように書かれています。
どの程度であれ、また最後に受けた抗がん剤治療からどんなに時間が経っていようとも、化学療法を受けたことのある患者が、基本のゲルソン療法のまま忠実に実行することは大変危険である。
「基本のゲルソン療法のまま忠実に実行することは大変危険」なので、済陽式などの亜流が出てくるのでしょう。バカ正直に受け取って、抗がん剤を拒否してゲルソン療法だけに賭ける患者も出てくるのです。
12章の最後の段落にはこんな記述もあります。
膵臓がん患者で、以前に化学療法を受けたことがある場合には、残念ながらゲルソン療法でも良い結果が出せない。抗がん剤で膵臓があまりに激しく損傷を受けるからである。
膵臓がんに限らず、消化器系のがんの全てでゲルソン療法は危険です。