日本膵臓学会:「BRCA1/2遺伝学的検査実施に関する見解」を発表

日本膵臓学会:「BRCA1/2遺伝学的検査実施に関する見解」を発表

PARP阻害剤オラパリブの切除不能膵癌、再発膵癌への適応が追加され、膵臓がん患者には新しい選択肢が増えました。

BRCA1/2遺伝子変異がある患者が対象ですので、遺伝子検査を受ける必要があります。日本膵臓学会からこの検査実施に関する見解と患者さん向けの説明文書が公開されました。

この遺伝子検査はどういうものなのか。ざっくりと理解するためにもこの説明文章案はよろしいのではないでしょうか。

化学療法を始める前にBRCA1/2検査を受けることが望ましい。また、アブジェムのあとにプラチナ製剤を使った患者にもオラパリブが使えることが望ましい。

膵癌患者に対するコンパニオン診断としてのBRCA1/2遺伝学的検査実施に関する見解

2021年1月4日

日本膵臓学会理事長 竹山宜典
日本膵臓学会社会保険審議委員会委員長 北野雅之

PARP阻害剤オラパリブの切除不能膵癌、再発膵癌への適応追加に伴い、BRCA1/2遺伝子変異のコンパニオン診断であるBRACAnalysis診断システムの検査実施は、以下の要件を満たすことが妥当と考える。また、上記膵癌患者に対して本診断システム検査実施を説明する際の参考となるよう患者説明文書案を別紙に記す。

I. BRCA1/2遺伝学的検査の対象となる患者及び実施のタイミング

1.膵癌におけるオラパリブのコンパニオン診断としてのBRCA1/2遺伝学的検査の対象は、オラパリブの対象となりうる再発・切除不能膵癌患者である。また、BRCA1/2遺伝学的検査の実施時期については、初回化学療法のレジメンが、その後のオラパリブ維持療法にも影響し得ることから、初回化学療法を実施する前にBRCA1/2遺伝学的検査の結果が得られていることが望ましい。ただし、BRCA1/2遺伝学的検査の結果が返却されるまで、初回化学療法の開始を待つことができない場合は初回化学療法を実施し、プラチナ製剤を含む化学療法により病勢が制御された際にBRCA1/2遺伝学的検査を実施することも可とする。

なお、再発・切除不能膵癌においては、ゲムシタビン+ナブパクリタキセルのようにプラチナ製剤を含まない化学療法も標準治療として広く使用されていることから、これらの治療を先行した後の二次治療以降にプラチナ製剤を含む化学療法を行い病勢が制御された患者に対してもオラパリブが使用できるようになることが望ましい。これにより、BRCA1/2遺伝学的検査の時期は初回化学療法の前にとらわれず、より柔軟な対応ができる可能性が高い。

II.BRCA1/2遺伝学的検査の実施における主治医の役割

1.BRCA遺伝学的検査の実施は,主治医が患者に対してその検査の意義や限界について十分な説明を行い、文書による同意を取得する。

2.膵癌の治療に従事し、BRCA1/2遺伝学的検査を実施する可能性のある医師は、各種関連学会や関連団体の主催するセミナーや講演会などに参加するなどBRCA1/2遺伝学的検査あるいは遺伝性腫瘍に関する基本的な知識を習得していることが望まれる。

III.コンパニオン診断としてのBRCA1/2遺伝学的検査を実施する施設基準について

1.BRCA1/2遺伝子変異の検査は、がん薬物療法専門医などの化学療法の経験を5年以上有する常勤医師、又は日本膵臓学会認定指導医などの膵腫瘍に関して専門の知識及び5年以上の経験を有する常勤医師が1名以上配置されている保険医療機関で実施する。

2.BRCA1/2陽性患者ならびにその家族の遺伝カウンセリングは、遺伝カウンセリング加算の施設基準に係る届出を行っている保険医療機関で行う。ただし遺伝カウンセリング加算の施設基準に係る届出を行っている保険医療機関との連携体制を有し、当該届出を行っている保険医療機関において、臨床遺伝専門医、認定遺伝カウンセラー等による必要なカウンセリングを実施できる体制が整備されている場合はこの限りではない。

BRCA遺伝学的検査同意文書

膵がん患者さんにおけるBRCA1/2遺伝子の検査について

BRCA1/2遺伝子検査の目的                                                   

膵がんの治療として、手術(外科治療)、化学療法、放射線療法、緩和治療等がありますが、膵がんは進行した状態で発見されやすいため、外科切除が難しく化学療法を行う患者様も多いです。また、手術後に再発を認めた場合も、化学療法を行うことが多いです。この様な患者さんに対して、PARP阻害薬と呼ばれる新しい種類の分子(ぶんし)標的(ひょうてき)(やく)(がん細胞の増殖等に関わる特定の分子(タンパク質)に対して働く薬剤)が使用されることがあります。この薬を使用する際には、BRCA1/2と呼ばれる遺伝子の検査を行う必要があります。BRCA1/2遺伝子検査は、血液中の正常細胞(生殖細胞系列)におけるBRCA1/2遺伝子の病的な変異(バリアント)の有無を確認するための検査です。

BRCA1/2遺伝子検査で明らかになること

膵がんの約5-10%は遺伝性と考えられ1、そのひとつがBRCA1/2遺伝子の病的な変異を原因とする「遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC(えいちびーおーしー))」です。

この遺伝子検査を実施しBRCA1/2遺伝子に病的な変異があることが分かった場合、HBOCと診断されます。

BRCA遺伝子の働きと遺伝子の変異

細胞の中にあるDNAは、紫外線や化学物質の刺激によって、日常的に傷がついていますBRCA遺伝子は、DNAを修復することで、がんの発生を抑える働きをもつ遺伝子です。BRCA遺伝子に病的な変異があると、その働きが機能しなくなり、乳がんや卵巣がん、膵がん、前立腺がんなどのリスクが高くなることが知られています。

●検査方法

この検査では採血を行い、血液中の細胞のBRCA1/2遺伝子に病的な変異、又は、病的変異疑いがあるかどうかを調べます。採血量は約7mLです。残った血液検体は、検査終了の30日後に廃棄されます。

●検査結果の伝え方

この検査は、結果が出るまでに約2~3週間かかります。検査結果は主治医からあなたに伝えられ、その後の治療方針を主治医と相談することになります。本検査によって得られたDNA情報は、BRCA1及びBRCA2遺伝子変異の解析以外の目的で使用されることはありません。

●検査結果とその後の治療

本検査によって特定されたBRCA1/2遺伝子の変異は「病的変異/病的変異疑い/VUS(ぶいゆーえす)(臨床的意義がわかっていない変異)/遺伝子多型(病的でない変異)/遺伝子多型の可能性」のいずれかに分類されます。遺伝子多型の場合は、がんとの関係を示すデータがないことから検査結果報告書には記載されません。しかし、遺伝子多型に関する情報はあなた或いは主治医が希望されれば開示されます。VUSは、現在の科学水準では病的な変異かどうか区別のつかないことを示す分類です。これらの検査結果のうち、病的変異/病的変異疑いであった方には、その後の治療選択肢のひとつにPARP阻害薬が加わります。その他の方はPARP阻害薬は使用せず、従来の治療が行われます。

また、病的変異がないと判断された場合でも、遺伝性ではないと証明されたわけではありませんので、詳細は主治医とご相談ください。

BRCA1/2遺伝子の検査結果は、検査結果報告書に記載された内容のみ返却され、それ以外の情報について情報提

供は行いません。採血から得られたDNA情報は、BRCA1/2遺伝子変異の解析以外の目的で使用されることはありません。

BRCA1/2遺伝子変異の遺伝について

生殖細胞系列のBRCA1/2遺伝子の情報は、性別に関係なく親から子へ50%の確率で受け継がれます。そのため、あなたのBRCA1/2遺伝子に病的な変異があった場合、あなたのご家族(ご両親、兄弟姉妹、お子さんやお孫さん)にも病的な変異をもつ方がいらっしゃる可能性があります。BRCA1/2遺伝子に病的な変異をもつ方は、がんを必ず発症するわけではありませんが、将来的に乳がんや卵巣がん、膵がん、前立腺がんなどにかかるリスクが高いといわれています2-4)

●遺伝に関する専門家への相談

BRCA1/2遺伝子を受けることにより治療の選択肢が増えたり、HBOCであるかどうかがわかるメリットがあります。一方で、BRCA1/2遺伝子に病的な変異があった場合は、ご家族を含む方への病気に関する不安や悩みを生じることがあります。そのようなことから、BRCA1/2遺伝子の検査について、遺伝に関する専門家にさらに詳しく相談することもできます。相談では、あなたのBRCA1/2遺伝子に病的な変異があった場合、その病的な変異によってがんの発症リスクが高まることについて理解を深めたり、今後の気を付けることや方針を話し合ったりします。

専門家に相談したいときは、まずは主治医にご相談ください。

●検査に関する費用

治療選択の際のBRCA1/2遺伝子の検査は、他の治療費と同様に保険診療として認められています。そのため一部負担金のみかかります。遺伝に関する専門家への相談など、その他の費用については主治医などにご相談ください。

●同意の撤回について

BRCA1/2遺伝子の検査は、検査を受けることに同意した後であっても、いつでも同意を撤回することが可能です。ただ、撤回されたとしても、本検査によって得られた情報は今後の本検査の精度を高めるため利用されることがあります。

また検査を受けたあとに、検査結果の提供を受ける事を拒否することもできますが、検査費用は返還されません。ご不安なこと、ご不明なことがある場合、主治医にご相談ください。

●個人情報の管理について

BRCA1/2遺伝子の検査は、本病院を通じて外部機関(Myriad Genetic Laboratories社:米国)に委託して実施します。あなたの血液検体等は、主治医を通じ検査の委託先に提供されます。この際に、あなたに関する情報はコード番号によってコード化する等してあなたを特定できないように適切に処理されます。検査の委託先においても、血液検体は、個人が特定できない方法により管理されます。

本病院および検査の委託先では、個人情報保護法に則り、適切に情報を取り扱います。

匿名化された個人情報の一部は、BRCA1/2遺伝子検査の質を高めるために用いられることがあります。個人情報とは、性別、診断情報、過去に骨髄移植を受けたことがあるか、血液悪性腫瘍であるか、検体採取の日、などです。


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