オラパリブ(リムパーザ)の維持療法はどういう場合に使う?

2020年12月に、治癒切除不能膵癌に対して、PARP阻害剤「オラパリブ」が使用承認されています。

この薬、どのような効果があり、どのような方が、どのようにして使うことができるのでしょうか。

先日の「膵臓がんサロン」でも話題になったので、改めてまとめてみました。

オラパリブ(商品名:リムパーザ)とは

リムパーザ (オラパリブ)は、BRCA1/BRCA2遺伝子の変異を有する腫瘍細胞において、DNA損傷応答(DDR)を阻害し、DNAの修復を阻止することでがん細胞を死滅させます。

BRCA 遺伝子は正常細胞で傷ついた DNA を修復する機能を持っています。 一部の膵がん患者さん(約5%)では、この BRCA 遺伝子に生まれつき変異を持っていて、その働きが十分機能しなくなることが知られています。

対象となる膵癌患者

  1. BRCA遺伝子に変異がある
  2. 白金製剤を含む化学療法(国内では主にFOLFIRINOX療法)でがんの進行が抑えられた後の維持療法として使用

上の条件にあった患者が使用することができます。

BRCA遺伝子に変異がある割合は、膵癌患者の4~7%程度といわれています。

維持療法とは:維持療法は、がんの再発防止、進行予防のために行われる抗がん剤治療です。具体的には、FOLFIRINOXで病状は安定しているが副作用が耐えられないほど強くて治療の継続ができない場合に、オラパリブの維持療法が考えられるでしょう。

これまで国内では化学療法で効果が認められ、かつ重い副作用が出なければ、同じ治療を継続する ことが提案されていましたが、FOLFIRINOX 療法は治療期間が長くなるとしびれの副作用が強くなるため、 継続が困難になる患者さんが出てきます。

一方、 オラパリブにも 貧血や疲労などの副作用がありますが、しびれの副作用はほとんどありません。

BRCA遺伝子変異の検査

BRCA 遺伝子に生まれつき変異があるかを確認するには、 血液を用いた遺伝子検査が必要となります。BRCA 遺伝子検査は手術で切除ができず、化学療法が必要となる膵がん患者さんに対しては保険で実施可能です。

コンパニオン診断として「BRACAnalysis®診断システム」が同時に承認されているので、血液を採取することによってBRCA遺伝子の変異を診断することができます。遺伝子パネル検査によっても BRCA遺伝子の変異は検査することができますが、簡単な血液検査で単独に調べることができます。

「BRACAnalysis®診断システム」の検査結果が返ってくるまでに2~3週間かかります。

ですから、FOLFIRINOX療法を始める前、あるいは早い時期に、主治医に対してBRCA遺伝子検査をお願いしておいたほうがよろしいでしょう。

オラパリブ(リムパーザ)の効果

☆OSの延長は証明できず

遠隔転移を有する 膵癌患者に対しプラセボと比べて無増悪生存期間(PFS)を延長することがPOLO 試験で示された (中央値 7.4 ヵ月 vs 3.8 ヵ月、ハザード比 0.53、 95%信頼区間 0.35–0.821)。

しかし、全生存期間(OS)では統計的な有意差は認められなかった。

膵臓がん患者さんが望むのは、この治療によってどれぐらい長く生きることができるのかです。それが重要です。

しかしオラパリブでは、患者さんの平均値ではありますが、プラセボと比べてより長く生きることができるということはありませんでした。

無増悪生存期間は良好だったが、全生存期間は伸びなかった。

無増悪生存期間(PFS)は代理エンドポイント

どうしてこのようなことが起きるのでしょうか?

それは無増悪生存期間(PFS)が代理のエンドポイントだからです。無増悪生存期間(PFS)は次の三つのイベントのうちどれか一つが起きるまでの時間を表します。

①患者が死亡する。②新たな腫瘍ができる。③腫瘍の大きさが20%増える。

問題は最後の③です。

腫瘍の大きさは主に CT 画像の一番大きいと思われる1次元の長さで測ります。しかし腫瘍の境界は雲のように曖昧です。また隣の腫瘍との境界もはっきりしないことがあり、繋がっているのか独立しているのか判断に迷うこともあります。

さらに CT は10 mm 間隔でスライスした画像ですが、そのスライスした位置が腫瘍のもっとも大きいところであるとは限りません。ですから同じ CT 画像を同じ検査員が別の日に測定すると大きさが変わることが頻繁にあります。むしろその方が当たり前です。

そして腫瘍の長さが20%増えて1.2倍になるということは、体積が1.73倍になるということです。(1.23 ≒ 1.73)つまり元の腫瘍のがん細胞の数が173%になっても悪化していないと判断されてしまうのです。それに加えて上に説明した誤差が頻繁に発生します。

無増悪生存期間(PFS)はあくまでも代理のエンドポイントであって、無増悪生存期間を改善する治療法が実際に全生存期間を伸ばせる治療とは限らない。こうした事態は他の抗がん剤においても頻繁に見られます。

最近はこの代理エンドポイントである無増悪生存期間で効果ありと判断して承認される抗がん剤が増えています。しかも高額な薬に多い。これは非常にまずい状態だと思います。

☆私の見解

リムパーザ150mgの薬価は、1錠が5185.1円と超高額です。1日に2回、1回で2錠服用するので、20,740円/日にもなります。日本の場合は健康保険があり高額療養費制度もありますから問題にはなりづらいですが、費用対効果が優れているとはとても言えないでしょう。

プレシジョン・メディシンとかゲノム医療が話題になり、新しい話題が出てくる度にがん患者としては夢が膨らむのですが、実際には対象となる患者もごく少数であり、しかも驚くような効果は期待できないのが現状です。

遺伝子カウンセリングについて

BRCA遺伝子検査を受けて仮に陽性であった場合、次のような問題が生じてきます。

生殖細胞系列のBRCA1/2遺伝子の情報は、性別に関係なく親から子へ50%の確率で受け継がれます。

そのため、あなたのBRCA1/2遺伝子に病的な変異があった場合、あなたのご家族(ご両親、兄弟姉妹、お子さんやお孫さん)にも病的な変異をもつ方がいらっしゃる可能性があります。

BRCA1/2遺伝子に病的な変異をもつ方は、がんを必ず発症するわけではありませんが、将来的に乳がんや卵巣がん、膵がん、前立腺がんなどにかかるリスクが高いといわれています。

BRCA1/2遺伝子に病的な変異があった場合は、ご家族を含む方への病気に関する不安や悩みを生じることがあります。そのようなことから、BRCA1/2遺伝子の検査について、遺伝に関する専門家にさらに詳しく相談することもできます。(遺伝子カウンセリング)

相談では、あなたのBRCA1/2遺伝子に病的な変異があった場合、その病的な変異によってがんの発症リスクが高まることについて理解を深めたり、今後の気を付けることや方針を話し合ったりします。

日本膵臓学会「膵癌患者に対するコンパニオン診断としてのBRCA1/2遺伝学的検査実施に関する見解」より

遺伝子カウンセリングを受ける際には、まずは主治医にご相談ください。

参考となる記事

このブログ内で関連する記事を紹介します。(下の「このブログの関連記事」も参照


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