膵癌の『腹膜播種診療ガイドライン』

膵癌で腹膜播種あるいは腹水があれば余命は厳しいです。『膵癌診療ガイドライン2019』では、腹膜播種や腹水がある場合のエビデンスのある治療法については詳しくは述べられておりません。

ならばもう治療は諦めなければならないでしょうか。そんなことはありません。

膵臓がん患者にも多い腹膜播種は、がん種や地域ごとに様々なアプローチで診断・治療がされており、統一した治療指針が確立されていません。医師によっても治療法への考え方は大きく異なっているようです。

従って、エビデンスのある治療法いわゆる標準治療だけにこだわっていては、治療の可能性を見逃すことにもなりません。

日本腹膜播種研究会では臓器横断的な観点から腹膜播種患者の予後向上を目指し、本邦初となるガイドラインを策定しました。

腹膜播種診療ガイドライン 2021年版

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腹膜播種は、腫瘍細胞が腹腔内に散布された形で多数の転移を形成する予後不良の病態です。

歴史的には、がん種や地域ごとに様々なアプローチで診断や治療がなされてきたが、国際的にも統一した治療指針が確立されてません。

本書の特徴

そうした現状に鑑みて、

  • 腹膜播種特有の手技(審査腹腔鏡、腹腔内温熱化学療法、CART)に対するCQ等、臨床で有用な推奨を明示した。
  • がん種や施設により治療法が大きく異なっている現状に加えて、審査腹腔鏡、腹腔内(温熱)化学療法、腹水濾過濃縮再静注法など腹膜播種に特有の手技があり、その一部は保険適用外である
  • 高レベルのエビデンスが少ないことなどから、明確な推奨度の判定は難しい事象が多い
  • 本ガイドラインでは、これらの事項もあえてCQとして取り上げ、現時点における推奨を検討することにした。

保険適用外の治療法であってもエビデンスの評価を行って推奨しているのが、このガイドラインの特徴です。

膵癌の腹膜播種

膵癌全体の5年相対生存率は年々良くなっているものの、腹膜播種を有する場合には治療成績は厳しい。オランダからの報告によるとその生存期間中央値は6週間であったと報告されている。

また別のオランダからの報告によると、膵癌患者の7.7%に腹膜播種が認められ、その生存期間中央値は2.2ヶ月から3.4ヶ月と報告されている。

日本においても、高原らが2000年から2010年に診断された494名の進行性膵癌のうち、15%が腹水中に顕微鏡的腹膜播種を有する患者であり、その生存期間中央値は7週間であると報告されている。

このように難治がんである膵癌の中でも、腹膜播種患者の予後はさらに不良である。

その理由としては、腹水貯留による腹満、食欲低下、腹痛、腸閉塞や水腎症など癌の随伴症状の発生率が高いこと、全身化学療法の施行期間が短くセカンドライン化学療法の導入率が低いことなどが挙げられる。

要するに、腹膜播種や腹水があると、その後の治療が続けられないということです。

腹膜播種膵癌の治療方法

一般的に腹膜播種と診断されればその後の積極的な治療が行われないことも多い。膵癌腹膜播種における標準的治療は全身化学療法であるが、腹水による全身状態の悪化などから化学療法の継続に支障をきたしことが多く、そのため治療成績は不良であり、顕微鏡的腹膜播種患者の生存期間中央値は6週間から3.4ヶ月である。

こうした観点から全身化学療法と腹腔内への局所療法を併用する治療法が開発されてきました。

腹腔内化学療法、腹腔内温熱化学療法、加圧腹腔内エアロゾル化学療法などの治療効果を確認するための臨床研究が進行中であり、その効果が期待されています。

腹腔内化学療法に関しては、 S 1+パクリタキセル併用化学療法や、ゲムシタビン+ナブパクリタキセル腹腔内併用化学療法を使用した臨床試験が行われ、良好な生存期間が報告されており、現在第三相試験が行われています。

ハイパーサーミアは1990年よりがん種によらず健康保険適用となり集学的治療の一環としてがん治療に用いられています。『膵癌診療ガイドライン 2019』によると、膵癌に対するハイパーサーミアは放射線療法や化学療法との併用に関する第二層試験までの報告にとどまっており、無作為化比較試験はありません。

本邦においては顕微鏡的腹膜播種を有する膵癌に対して膵切除が行われてきましたが、最近の研究によると、このような患者群の治療成績は不良であり、集学的治療の導入が期待されています。

ガイドラインの膵癌に関する部分

このガイドラインの膵癌に関する内容を見ていこう。評価のみを記載する。

膵癌の標準治療遺体の治療法

保険適用外と注釈が付けられているが、腹水貯留が大量でない症例では腹腔内化学療法が提案されています。

一方で、 減量手術+腹腔内温熱化学療法は現時点では推奨されておりません。

3章 膵癌
CQ 1 膵癌腹膜播種の診断法として血液検査(腫瘍マーカー)を推奨するか?
腹膜播種の診断において CA 19-9なだとの腫瘍マーカーの測定を提案する
推奨の強さ:弱い エビデンスの強さ:C 合意率:100%
CQ 2 膵癌腹膜播種の診断法として画像検査を推奨するか?
腹膜播種の診断として画像検査を行うことを提案する。
推奨の強さ:弱い エビデンスの強さ:C 合意率:100%
CQ 3 膵癌腹膜播種の診断法として腹腔穿刺を推奨するか?
播種の診断として腹腔穿刺を行うことを提案する。
推奨の強さ:弱い エビデンスの強さ:C 合意率:100%
CQ 4 腹膜播種が疑われる膵癌に対して、審査腹腔鏡を推奨するか?
審査腹腔鏡は画像検査では評価が困難な腹膜播種の診断に有用であり、手術を企画するが腹膜播種が否定できない場合、適切な患者選択を行ったうえで審査腹腔鏡を行うことを提案する。
推奨の強さ:弱い エビデンスの強さ:C 合意率:88%
CQ 5 腹膜播種を有する膵癌に対して全身化学療法を推奨するか?
腹膜播種は悪性腹水、水腎症や消化管閉塞など患者の容態を急速に悪化させる合併症を伴いやすく、患者の状態を十分に考えた上で適切な全身化学療法を行うことを推奨する。
推奨の強さ:強い エビデンスの強さ:B(中) 合意率:75%
CQ 6 腹膜転移を有する膵癌に対する腹腔内化学療法を推奨するか?
全身状態良好で腹水貯留が大量でない症例では、腹腔内化学療法を提案する(保険適用外)
推奨の強さ:弱い エビデンスの強さ:C 合意率:100%
CQ 7 腹膜播種を有する膵癌に対して減量手術+腹腔内温熱化学療法(HIPEC)を推奨するか?
腹膜播種を有する膵癌に対して減量手術+腹腔内温熱化学療法(HIPEC)については行わないことを提案する。
推奨の強さ:弱い エビデンスの強さ:D 合意率:100%
CQ 8 集学的治療で治療効果が得られた腹膜播種を有する膵癌に対して原発巣切除(Conversion Surgery)を推奨するか?
集学的治療により腹膜播種が消失した膵癌症例に対して原発巣切除を行うことを提案する。
推奨の強さ:弱い エビデンスの強さ:C 合意率:100%
CQ 9 顕微鏡的腹膜播種を有する膵癌(P0CY1)に対して膵切除を推奨するか?
顕微鏡的腹膜播種を有する膵癌に対しては、膵切除(手術先行)を行わないことを提案する。
推奨の強さ:弱い エビデンスの強さ:C 合意率:100%

加圧腹腔内エアロゾル化学療法(PIPAC)

加圧腹腔内エアロゾル化学療法は、腹膜播種に対する新しい腹腔内化学療法である。

腹壁に留置した二つの部品を用いて腹水を廃液後に帰服し、一定の圧力を保つ。その後生理食塩水に溶解した化学療法剤をエアロゾル化して腹腔内に噴霧する。帰化させて圧力をかけることにより、腹腔内の隅々まで薬剤を分包させる効果があるとされており、腹腔内組織は薬物濃度が高くなり、全身投与よりも副作用が少ないのが利点であると言われている。

膵癌に対するPIPACではいくつかの症例集積試験が報告されており、安全性、忍容性は問題はなく、生存期間中央値は9.2~14.0ヶ月であった。いずれも小規模な臨床試験であり、背景にもばらつきがある。今後前向きの臨床試験で効果を確認する必要がある。

7章 癌性腹水
CQ 1 大量腹水を伴う腹膜播種に対して化学療法を推奨するか?
CQ 2 大量腹水を伴う腹膜播種患者に対してCARTを推奨するか?
従来のCARTは問題が多く、改良型のKM-CARTが推奨されている。
CQ 3 腹膜播種を伴う大量腹水に対して、腹腔 ─ 静脈シャント術を推奨するか?
CQ 4 癌性腹水コントロールにトリアムシノロンアセトニドの腹腔内投与は推奨されるか?

※このガイドラインについては、金魚さんのブログで適切なコメントが紹介されています。またこの記事の後ろには「このブログの関連記事」に腹膜播種と腹水に関する記事が紹介されています。


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