今日の一冊(161) 『「健康」から生活をまもるー最新医学と12の迷信』

「健康」から生活をまもる 最新医学と12の迷信

「健康」から生活をまもる 最新医学と12の迷信

大脇幸志郎
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ポリープを取った後の禁酒が解禁になったので、昨夜は羽目を外して酒を飲みました。でも・・・

タバコと酒は健康に悪い?

お酒は、健康のためならおそらく飲まない方がいい。

「適度の飲酒」は心筋梗塞を防ぐといった議論もあるにはあるが、それにも反論がある。

「適度の飲酒」という言葉自体がどこか変だ。酒は羽目を外したい時に飲むものだから、適度で止められるはずがない。

だから、「羽目を外したい」という気持ちこそが確かな現実であって、酒は健康に良いか悪いかという二者択一は偽の問題だ。

健康の事など考えないで、飲めばいいのだ。

著者の大脇幸志郎氏はちょっと変わった経歴の持ち主です。東大医学部卒ですが、医師の国家試験に落ちてしまいます。フリーターなどを経て出版社に勤めていたのですが、ある方の勧めで医師の国家試験に再び挑戦。現在は訪問診療などのクリニックで仕事しておられるようです。

医療に関する12の迷信について書かれていますが、一言で言えば「健康第一」を見直してみませんかということ。

社会の価値観からみて、いささかひねくれた見方で「正論」を述べる。彼の考え方、私は大好きですね。私自身にその傾向があるからでしょう。

例えばタバコの害について。タバコは間違いなく体に悪い。だが体に悪いという「魔法の言葉」は思考を停止させがちだ。

「タバコを吸うと肺がんになる」というのは確率の話であり、統計の話だからややこしい。一人の人生の中でタバコを吸うと肺がんになるという統計的事実を身に染みるほど体験することはできない。吸っても肺がんにならない人はいるし、吸わなくても肺がんになる人がいる。

こう言うと、意識の高い人は「このような迷信から脱して科学的にものごとを考えるために、統計の理解が欠かせないのだ」と言い出しがちである。

それはそれで正しいのだけれども、別の言い方だってできる。

タバコの害というものは、統計という七面倒なものを持ち出さなければはっきり言い表すこともできないほどの、些細なものなのだ。

「健康」よりも大事なことを、本当は誰もが持っている。人は何か大事なもののために体を壊す。それは当たり前のことだ。「健康はそのためにあるのだ」と言ったノーベル賞作家もいる。

バーナード・ショー『医師のジレンマ』にそのようなことが書かれている。

がんの早期発見・早期治療

がん検診によってがんを早期発見し早期治療をすれば長生きできる。これも「迷信」です。

いくつかの大掛かりな実験があって便潜血検査をすると大腸がんで死亡する人が減ったという結果が出ている。従って便潜血検査はエビデンスがある検査として推奨されています。

ただし、「大腸がんで死亡する人が減った」というのは「みんなが長生きになった」という意味ではない。死因を問わず死亡した人の数で比較すると、便潜血検査の有無で有意差はなかった。

大腸がん以外にも人が死ぬ原因は無数にあるから、大腸がんで死ぬ人が減っても、全体の中ではごくわずかな違いにしかならないし、大腸がん死ななければ他の原因で死ぬだけのこと。

つまり便潜血検査で大腸がんが見つかるということは、早期発見によって死に方を変えられるという可能性がある。そういうふうにも考えられる。

だから、大腸がん早期発見のエビデンスがあることを理由に、便潜血検査は行った方がいいと考えるのは偏った論理だ。

腫瘍内科医の勝俣範之先生も、2010年に Twitter でこのようなことを言っている。

医者の勧めが絶対だと思うのは迷信

医者が何かの治療を勧めるとき、「どうしてもこの治療はしなければいけない」と思っている場合と、「やらないよりは行った方がいいが、大した違いはない」と思っている場合がある。

この区別を患者が読み取るのは難しい。

不安を感じたら、「その治療はどうしてもやるべきなのか、できればやった方がいいのか。どちらですか?」と尋ねてみれば良い。具体的には次の四つの質問がポイントだ。

  • その治療をするかしないかで、どれくらいの違いがありますか?
  • その治療のせいで副作用や悪い結果が出る可能性はありますか?
  • その治療のために、お金や時間の負担はどれくらいかかりますか?
  • その治療を拒否拒否する人はいますか? いるなら、理由は何ですか?

プレシジョン・メディシン

ゲノム医療あるいはプレシジョン・メディシンについても辛口で歯切れよく指摘している。

プレシジョン・メディシンはあくまで理念だ。

医学がいつでも理想を実現できると思うのは迷信である。

遺伝子検査で選んだ薬がピタリと当たるかと言うと、当たる確率は非常に小さい。確かに確率は少し上がるが、1割だったものが9割まで上がることはあり得ない。

遺伝子検査が陽性なら使える薬が増えるが、陰性なら増えない。つまり遺伝子検査こそがくじ引きである。

1回目のくじで当たりなら2回目を受ける権利が手に入るというわけだ。

だったらそんな面倒なことなどしないで、2回目のくじを全員に引かせてくれれば良いのではないか。

薬が合うか合わないか、そんなことをモタモタ考えている隙にがんは進行してしまう。合わないリスクがあってもいいから、さっさと使ってくれればよいではないか。運悪く効かなければ他の薬を試せば良い。なぜそうしないのか?

それは、遺伝子検査をする戦略の目的が、効きそうにない薬を使わないという点にあるわけで、つまり遺伝子検査は「薬を使うためではなく使わないための検査」だからだ。

なぜそんなに薬を節約しようとするのか? 理由は三つ

一つはお金の問題。がんの薬は高いものが多いので医療財政を圧迫する。闇雲に使わせたくない。

もう一つは時間の問題。一つの薬を使っているうちに数週間から数ヶ月時間がかかるので、試しているうちにがんが進行してしまう。

第三の理由が副作用の問題。副作用で死ぬ可能性があるからだ。

他にも分子標的薬に対する迷信はある。

狙いを定める早く効くというのも迷信だ。

熊を撃ち殺すには心臓か脳を狙えば良いが、ある種のミミズは体が二つちぎれても再生する。狙いを定めれば効くとは言い切れない。

医学用語の「効く」とは「おまじないよりは効く」という意味である。がんが体から無くなるという意味には程遠い。

臨床試験において統計的有意差を得る、つまり「効く薬だ」と認定してもらうためには、症例を増やす必要がある。それは、同じ薬の臨床試験であっても、100人に対して行うよりも1万人に対して行なったほうが統計的有意差が出やすいからである。これは別にインチキをしているわけではなく統計的手法の限界です。

逆に言うと、それほど大量の症例を作らなければ有意差が証明できないということは、仮に効果に差があっても、ごくわずかな差でしかないということです。大した違いはない薬を飲まされることになる。

といろいろと書きましたけどもね大脇幸志郎さん。面白い視点で読ませてくれます。

エビデンスに振り回されないことも大事です。

大脇幸志郎氏が翻訳したこちらの本にも勝俣先生が推薦文を書かれています。

この本は、レベルの低い医療批判本ではなく、
腫瘍内科医によるこれからのがん医療の未来へ向けての提言だ
――日本医科大学武蔵小杉病院・勝俣範之氏推薦

エビデンスに振り回されている医者も患者も多い。

こちらも読みたい本ですが、いずれ紹介しましょう。何しろ非常に分厚い本です。


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