リムパーザ(オラパリブ)が膵癌にも拡大適用される
FOLFIRINOX治療後の維持療法として
第3相試験(POLO試験)の結果を受けて承認申請をしていたリムパーザ(一般名:
アストラゼネカ社のプレスリリース
2020年12月25日付で、「相同組換え修復欠損を有する卵巣癌におけるベバシズマブ(遺伝子組換え)を含む初回化学療法後の維持療法」、「BRCA遺伝子変異陽性の遠隔転移を有する去勢抵抗性前立腺癌」および「BRCA遺伝子変異陽性の治癒切除不能な膵癌における白金系抗悪性腫瘍剤を含む化学療法(FOLFIRINOXに含まれるオキサリプラチン)後の維持療法」の3つの適応症を対象に、厚生労働省より承認を取得いたしました。
転移性膵がんは、いずれも大きなアンメット・メディカルニーズを伴うがんです。患者さんにとって、治療の選択肢は非常に限られてきました。リムパーザは、前立腺がんおよび膵がんに対して承認された日本初のPARP阻害剤であり、分子標的薬が新たに承認されることで、個別化医療の新たな時代をさらに前進させ、日本におけるこれらのがんの治療法が大きく変わっていくことが期待されます。
POLO試験ではOSは改善せず
POLO試験の結果概要は下図のとおりです。
無増悪生存期間(PFS)は、プラセボ群3.8カ月に対してオラパリブ群は7.4カ月、ハザード比0.53と、高い有効性を示したが、OS(全生存期間)では有効性が示せなかった。
- BRCA遺伝子変異陽性の人は「プラチナ製剤を含む化学療法」終了後の維持療法として「リムパーザ」治療を選択することで、無増悪生存期間の延長が期待できる。
- 今回追加された膵がんの対象患者は、白金系抗がん剤を含む一次化学療法後、疾患進行が認められない乳がん感受性遺伝子(BRCA遺伝子)変異陽性の遠隔転移を有する膵がん患者で、この患者に対して現在推奨されている標準的な治療はない。
- 転移性膵がん患者の約5~7%で生殖細胞系列のBRCA遺伝子変異が認められます。
プラセボと比較して、無憎悪生存期間が約2倍になるという結果でした。
バイオマーカー、遺伝子検査を受けて、自分のがんにBRCA遺伝子変異がないかどうか、調べておくことが重要です。
今後の課題
こちらの記事で紹介した「第58回日本癌治療学会学術集会」の関連情報を再掲しておきます。
- 生殖細胞系列のBRCA1/2遺伝子変異を有する膵癌に対するフェーズ3試験のPOLO試験。主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)は、プラセボ群3.8カ月に対してオラパリブ群は7.4カ月、ハザード比0.53と、高い有効性を示した。OSでは有効性が示せなかったが、分子標的に対して薬を開発した膵癌で初めての試験であり、非常に注目すべき試験
- 膵癌においてBRCA遺伝子変異の頻度はおよそ5%にすぎないが、DNA損傷応答(DDR)の欠損がある膵癌患者に対して白金系薬剤を用いた場合、生存が改善されることが示されている
- DDR変異に関連する中心的な遺伝子変異はBRCA1/2だが、ATMやRAD50/51など、DDRに関連するマイナーな変異まで含めると、対象となる膵癌患者は20%にまで増える可能性がある
- そういった患者を見つけるにはゲノム診療が必須となるが、その対象は標準治療がない固形癌患者、または局所進行もしくは転移が認められ標準治療が終了となった固形癌患者(終了が見込まれる者を含む)に限られている。
- BRCA遺伝子検査をしている間は治療を待たなければいけないのかといったことも含めて、いろいろな議論が残っている
PARP阻害剤(オラパリブ)
- 細胞の増殖に必要なDNAの修復を妨げることで細胞死を誘導し抗腫瘍効果をあらわす薬
- がん細胞は無秩序な増殖を繰り返したり転移を行うことで、正常な細胞を障害し組織を壊す
- PARP(ポリアデノシン5’二リン酸リボースポリメラーゼ)というDNA修復や細胞死などに関与している物質がある
- 本剤はPARPを阻害することでDNA修復を妨げ、がん細胞の細胞死を誘導することで抗腫瘍効果をあらわすとされる