「ゆらぎ」を認めてこそ、個別化医療が成り立つ

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複雑系(complex system)の「系」とは、自分たちが眺めている群全体を指しています。医療の分野でいえば、循環器系、神経系、免疫系などがあります。

そして、あまりにも多くの要因が影響を与えながら、系全体の行動に作用することで、一つ一つをとれば決定論的な説明ができるにも関わらず、系全体としては予測のつかない、混沌とした状態に見える行動を起こす系を「複雑系」と言います。

私たちの目に見える世界の全て複雑系であり、複雑系科学の対象であるといっても過言ではありません。

もちろん生命体そのものが複雑系であることは明らかです。したがって当然、医学も複雑系科学でなければならないはずです。

医学や医療に絶対的な正解は存在しないし、医療行為にも「ゆらき」が必要なことは、現場の臨床医なら自然にわかっている基本的な概念です。

医療の基本は、患者に適切な情報を与えることと、システムの行動に最も影響を与えると思われるパラメータを操作して、患者自身の「自然治癒力」を手助けすることでしょう。

簡単な切り傷であれ、がんであれ、最終的には、患者自身の組織が元通りに戻る力を発揮しない限り、病気は治らないのです。複雑系においては、特殊な形態が、ある条件下で自然に形作られていくことが知られており、それを「自己組織化」と呼んでいます。これも複雑系科学が明らかにした自然界の基本的な仕組みです。

近代科学が見つけた複雑系の行動様式とその扱い方は、医療に関わる人々の中では、太古の昔から理解されていたことなのです。それは全て現場の経験則から見出され、尊重されてきた人間の叡智の結晶です。

しかし近年、医療の世界におけるマニュアル化が進み、この複雑系を基礎とした医療の根本原則に反した現象が顕著になっているのではないでしょうか。


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医学は科学です。しかし、医学の対象とする人体は複雑系の代表であり、その行動は、原因と結果が1対1にならないで「非線形」に振る舞う。

したがって、医学を学問として捉えた場合、その方法論は「非線形」でなくてはならないはずです。

しかし、物理学でさえも「非線形」の扱いが始まったばかりなのに、その高次な応用科学である医学が、非線形の方法論を取り入れることは、ほどんど不可能でしょう。

その反面、医療は太古の昔から経験則に基づいた複雑系として扱われており、医療は元々非線形なのであり、医療の中に「ゆらぎ」を認めてこそ成り立ってきたのです。それが「さじ加減」と呼ばれ、そうした行為を太古から「医療」と呼び習わしてきただけのことなのです。

ガイドラインには平均値が記載されており、平均値から標準偏差の3倍までは許容範囲であることを条件にして、それぞれの患者にとって必要なことを考え実行するのが、こんにちEBMと呼ばれる医療行為でしょう。

しかし、標準偏差の3倍から外れた患者に対しては、EBMもガイドラインも、何も教えてくれません。近年の医療のマニュアル化が進み、医療についても、医学の方法論と同じように、原因と結果が1対1に対応するのだという、決定論的な傾向が横行しているといわざるを得ません。

21世紀の医療が「個別化医療」となるためには、「さじ加減」が、医療における重要な法則となるはずである。

マニュアル化した医療は、「P値」にすべてを委ね、握られてしまっている。

 


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