「命の値段は49円?」高額療養費改定に潜む残酷な不条理
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総選挙は自由民主党の歴史的な圧勝で終わりました。
高市政権は、石破政権が一旦凍結した高額療養費制度の改悪を、早速押し進めることでしょう。
私たちの命を守る最後の砦、医療のセーフティネットが今、音を立てて崩れようとしています。
政府が決定した2026年8月からの「高額療養費制度」の改定。表向きは「現役世代の負担軽減」を掲げていますが、その実態はあまりにも過酷なものだと言わざるを得ません。
膵臓がん患者を襲う、月数千円の「重み」
具体的に、重い病と闘う患者さんにどれほどの負担がのしかかるのでしょうか。膵臓がんの標準治療である「アブラキサン+ゲムシタビン療法」を例にシミュレーションしてみましょう。
この治療を3週投与・1週休薬のサイクルで行った場合、薬剤費や検査代を含めた総医療費は、1ヶ月でおよそ30万円(10割分)にのぼります。
- 現在の負担(一般所得層): 約80,430円
- 2026年8月以降: 約86,330円(+約5,900円の増)
さらに、4ヶ月目から適用される「多数回該当」の軽減額も引き上げられます。現在の44,400円から47,500円程度へと、月々3,000円以上も家計を圧迫する計算です。
「月に数千円くらい……」と思うかもしれません。しかし、副作用と闘い、仕事を制限せざるを得ないがん患者さんにとって、この「数千円」は生存への希望を削り取るような重みを持っているはずです。
「年間53万円」という絶望的な数字
政府は緩和策として「年間上限53万円」を新設する案を出しています。一見すると安心感を与える数字に見えるかもしれません。
ですが、生活実感として考えてみてください。一般家庭において、毎年53万円という大金が「医療費だけで」消えていく状況を。
これは、多くの世帯にとって数ヶ月分の手取り給与に相当します。あるいは、子供の教育資金や、老後のためのなけなしの蓄えを、毎年根こそぎ奪われるに等しい金額ではないでしょうか。病気になったことが、そのまま家計の破綻へと直結する。そんな未来が、すぐそこまで来ているようです。
2年ごとの「自動値上げ」がもたらす底なしの不安
さらに恐ろしいのは、今回の改定が「一度きり」ではない可能性です。政府内では、物価や賃金の変動に合わせて2年ごとに限度額を自動で見直す仕組みが検討されています。
これが導入されれば、医療費負担は私たちの知らないところで静かに、そして確実に増え続けることになります。長期にわたる闘病を余儀なくされる患者にとって、家計の設計図を引くことすら困難になるのではないでしょうか。セーフティネットの「底」が2年ごとに抜けていくような、終わりのない不安を強いる制度と言わざるを得ません。
削られる命、得られる恩恵はわずか「49円」
最も憤りを感じるのは、この痛みを強いる理由です。政府は「現役世代の社会保険料負担を減らすため」と説明しています。
ところが、驚くべき試算が明らかになりました。この改定によって、現役世代1人あたりの保険料が安くなる額は、月額わずか「49円」程度だというのです。
年間にしても600円弱。ワンコイン程度の恩恵のために、難病やがんと闘う人々の生活を崖っぷちに追い込む。これが果たして、私たちの目指す「共助」の社会の姿なのでしょうか?
社会保障費全体のわずか0.076%にすぎない「改革」
さらに絶望的なデータがあります。今回の改定による公的医療費の削減効果(約2,450億円)は、日本の社会保障予算全体(約39.1兆円)のわずか0.076%程度にすぎません。
この「0.076%」を捻り出すために、政府が計算に入れているのは何か。それは、負担増に耐えかねた患者が病院へ行くのを諦める「受診抑制」の効果です。削減見込み額の約半分は、まさに「治療の断念」によって賄われるわけです。
誰しも、いつ当事者になるかは分かりません。今は健康な現役世代も、明日には「負担増」を突きつけられる側に回る可能性があると考えられます。
誰のための制度改定か
今回の改定は、単なる数字の調整ではなく、社会のあり方を問う問題だといえます。
わずか数十円の負担減と引き換えに、医療というセーフティネットを形骸化させることは、将来の自分たちの首を絞める行為に他なりません。経済的な理由で治療を諦める人々が溢れかえる前に、私たちはこの改定の不条理性に対して、もっと声を上げるべきではないでしょうか。
医療費の負担増に、断固反対します。

