アイスランドの火山噴火で放射性医薬品が不足

アイスランドの火山噴火でヨーロッパの多くの空港が閉鎖された影響で、海外からの観光客が帰れない、飛行機は再開されたがゴールデンウィーク中は予約が一杯で乗ることができない。また、野菜やチーズなどの輸入ができずに、高級レストランのシェフが困っているなどと報じられている。しかし、影響はそれだけではない。マスコミでは報じられていないが、医療用器材の輸入が止まってがんの検査や治療にも影響が及びそうだ。

乳癌や前立腺癌の転移、脳や心臓の血流を診断する検査には放射性同位元素を使用するものがあり、私も10年前の直腸がんの手術でお世話になった。放射性同位元素は腫瘍組織に集まるという性質を利用して、手術前にそれを腫瘍部に注射し、手術中にはこの同位元素が集まっている部分を残らず切り取るのである。こうして肉眼で確認するよりも確実にがん組織を切除することができる。そのおかげかどうか、再発転移もなしに10年以上経っている。(もっとも別の膵癌になってしまったのであるが)

このように現在の医療は放射性同位元素なしにはまともな検査・手術ができない。その放射性同位元素、テクネチウム99mの原料となるモリブデン99の輸入が止まっている。日本アイソトープ協会のホームページには「【緊急連絡】アイスランドでの火山噴火によるテクネチウム製品の供給変更について」というお知らせが頻繁に掲示されるようになった。これによると、テクネチンキは1施設1バイアルに限定し、緊急の患者のみを対象とするなど、供給が非常に逼迫しているようすが分かる。

テクネチウム99mは半減期が6.4時間と短いので患者の被ばく線量は少なくてすむ。一方で、すぐに減衰するために使用の直前に作ることが必要になる。モリブデン99は絶えずテクネチウム99mを生成しているので、モリブデン99を詰めた容器(Cow 雌牛)からテクネチウム99mを取り出すことを乳搾り(ミルキング)と言う。しかし、モリブデン99の半減期も67時間と短いために、船便では運ぶことができず、航空機に頼ることになる。

私も仕事で放射性同位元素のイリジウム192とコバルト60を扱っている。イリジウム192は、茨城県大洗の日本原子力研究開発機構(旧原研)で作っている。しかしここ10年来、大洗の原子炉が老朽化して、ときどき製造できないことがある。仕方なくカナダから緊急輸入してでも割高な線源を使用せざるを得ない。コバルト60はもともと国内では製造できず、これもカナダからの輸入品を使っていたが、カナダの原子炉もトラブルが多いらしく、最近は必要なものが入手しづらい状態である。そのために、もともと所有しているコバルト60用の容器が使えなくなり、買い換えると数百万円の出費になるという困った状態にある。

全国で1000以上もの病院で年間100万件の核医学検査が行なわれているこの日本で、それに必要な放射性医薬品や放射性同位元素を100%輸入に頼っている状態である。その一方で、世界の多くの国が撤退をした核融合炉「もんじゅ」に多大の金をつぎ込んでいる。日本の原子力政策は、電力エネルギーをまかなうことが中心で、原子力の平和利用のひとつである医療分野、核医学検査にたいしてはほとんど関心がないという、偏った原子力利用政策である。

原発ほどのばかでかい施設がいるわけではないのである。熱を取り出す原子炉ではなく、中性子が取り出せればよいのだから、「もんじゅ」に捨てる金の何分の一があれば、国民の健康を守ることができるのだが、自民党も民主党のまったくその気がない。「安全保障」とは国民の命と財産を守ることだろうに、戦争ごっこの準備をすることだけが「安全保障」だと勘違いしている。ろくな海軍をもたない北朝鮮が攻めてくるはずがなかろうに「抑止力」などという水戸黄門の印籠を掲げてアメリカに湯水のごとくに金をつぎ込むのが「普天間基地の問題」である。そのツケは国民の命の軽視と消費税の増税となって我々に返ってくるに違いない。

政治家の考え方の根本が違っているのだが、そういう政治家が跋扈する日本にしたのも我々である。

マスコミがでっち上げた”政治俳優”である舛添要一も馬脚を現わして自民党を飛び出した。織田信長のつもりだろうが、後に続くのは落選した2人の政治家だけ。鳩山由紀夫を持ち上げたマスコミが、今はバッシングに熱中している。浅知恵の政治家とマッチ・ポンプのマスコミが、日本をだめにする。


<7/22 追記>

(社)日本アイソトープ協会事業本部長の中村吉秀氏が、医療用アイソトープの供給問題、その後の状況、日本における将来の供給体制について書かれています。

テクネチウム-99m放射性医薬品の安定供給の現状と課題


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