ある闘病記「かわもと文庫」

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つねづね私は闘病記は読まないと言っている。がんの闘病記はその多くがハッピーエンドに終わらない。最もハッピーエンドで終わるようながんなら闘病記を書こうかという患者はいないに違いないから、必然的に闘病記の主人公がお亡くなりになる。

しかし、河本勝昭さんの闘病サイトはぜひ紹介したい。あまりにも私と考え方、がんに対するとらえ方、闘い方、エビデンスの考え方などが似通っているからだ。

河本 勝昭
1941年、横浜生まれ。東京電力を経て起業、食肉卸売業を始める。その後、会社員に戻り東京テレメッセージなどに勤務。東電時代から本格的に小説を書きはじめ、長編小説『冬の彷徨』を自費出版するなど、執筆を続ける。2000年、自身のホームページ「かわもと文庫」を開設し、書きためていた小説やエッセイなどを発表する。65歳で退職後、スキルス胃がんを発症。以後、ホームページ上で「がんと向き合う」と題した闘病記を連載し、大きな反響を呼ぶ。1年11ヵ月にわたる闘病ののち、2009年1月27日逝去。

65歳のがん治療日記―余命半年。それでも私は幸せだった

これは今月出版された河本さんの闘病記『65歳のがん治療日記―余命半年。それでも私は幸せだった 』のAmazonの紹介文である。登山にデジタル写真に、自然保護や愛犬ムックとの日々を綴ったりと、多彩なエッセイが掲載されている。「世相百断」では辛口の批評を、「憲法9条と自衛隊の現実」「混合診療 誰のための規制緩和か」など、私が書きたくても時間の制約でかけないことが、多く載せられている。

告知を受けたときの河本さんは次のように書いている。

「これは胃がんです。手術をしなければ治りません」

なんともストレートな告知だった。父の肺がんのときには本人に告知ができなくて私はとても苦しんだが、今はこんなふうに簡単に告知する時代になったのだろうか。それとも昨日私が、「そういう状況ですか」とつぶやいてうろたえもしなかったので、告知の予告は済んでいる、この患者はこんなふうにがんを告げても大丈夫、と医師は判断したのだろうか。

「胃がんですか」と私は平静な声で確認した。

「はい、腫瘍マーカーが57と異常に高い数値を示しています。しかしこれまでの診察では明らかな転移の兆候は見られません」

がんになったのはしかたがないが、これはいい情報だ。こういうとき患者は希望的な情報に飛び付いて安心したい。

「どこで手術を受けますか?」と医師は矢継ぎ早に言う。

「こちらでお願いします」

ただ、胃がん・全摘と聞いてもほとんど心に乱れはなかった。自分でも不思議なくらい平静でいられた。どうやら私にはかなりの鈍感力が備わっているようだ。

がんを告知されて動転するのは、死が怖いからだ。がんが死に直結する病気でなければ、人はこれほどがんを恐れない。

たしかに予期せぬことではあったが、こういう状況に立たされて、私には死はさほど恐ろしいものとは思えなかった。

ひとつには、31歳で父を肺がんで亡くして以来、読書や思索、ものを書く作業をとおして、およそ30年以上、私は死についてずいぶん考え続けてきた。この精神作業のおかげで、私にとって死は無縁のものではなく、意識の中ではかなりの程度身近なものになっていた。死をテーマにした長編小説も書いているし、ホームページに作品を掲載するようになってからは死に関するエッセイも何本か書いた。10年以上前にすでにリビングウィルも書いて、家内の同意の判をもらっていつも机の抽斗にしまってある。日常生活の中である程度〈メメント-モリ〉を実践していたといえる。

もうひとつ、私は飛び切りの楽天家である。

2007年3月というと、私が膵がんの告知を受けた3ヶ月前です。その後の治療法についても詳しく書かれているが、瀬田クリニックの免疫細胞療法と抗がん剤治療を合わせて行なっている。ただ「年金生活者には経済的に続けることは困難だ」と理由で途中で中断することになる。河本さんは免疫細胞療法が効いたのだろうと考えている。もちろん証明はできないがとも。スキルス胃癌で手術ができない患者にとって、現代医学では「何も手がない」というのは耐えられないからだ。

最後は町田の梅澤先生の少量抗がん剤治療に最後の望みを託している。梅澤先生とのやりとりや、この治療法を選択した理由や経緯なども詳細に記録されているので、同じ治療法を考えている患者には参考になろう。余命半年と言われたのが2年近く、貴重で充実した宝物のような日々を送ることができたのは、抗がん剤が効いたのか免疫細胞療法か、少量抗がん剤治療のおかげか、それは誰にも分からない。しかし私は、河本さんのがんに対する考え方、死に関する悟りのような心境が一番の要因に違いないと思う。

終末期日記「明日の風」には、死の1ヶ月前に「梅も桜も」と題して

せめて梅の花の咲くころまではと私も家内も思っていたが、西日本からそろそろ梅の便りも聞こえ始めてきた。家内の話だと、我が家の近くにある小さな運動公園でも紅梅が開きはじめてきたという。“梅の咲くころ”はまずクリアできたとみていだろう。
次の目標は桜だ。

がん患者の多くが、私も同じだが、今年の桜をぜひ見たい。そしてその願いが叶ったならば、「来年の桜ももしかして・・・」と希望を抱くのである。普段はなんとはなしに行き過ぎている風景が、あちらにもこちらにも桜色が点在して別世界のようになり、こんなにも多かったのかと吃驚するほどだ。あの淡いピンクに、日本人の魂を惹きつける何かがある。

デジタル文学館 かわもと文庫

次男の方が「かわもと文庫 ~その後~」というブログを立ち上げています。


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