ホメオパシーを賞賛しなければよい本なんだが・・・

連日の猛暑日だそうです。今日は昨日までよりは少しは過ごしやすい気がします。さすがにこの厚さではバックパックを背負って30分以上の散歩をする気にはなりません。膵臓がんで助かって熱中症で倒れたのでは笑いものですから。しばらくは散歩は中止です。

がん最先端治療の実力―三大療法の限界と免疫細胞療法

幻冬舎からは免疫細胞療法の書籍が続けて出版されています。『がん再発を防ぐ活性化自己リンパ球療法
』、『免疫細胞治療―がん専門医が語るがん治療の新戦略
』があります。こんど新たに『がん最先端治療の実力―三大療法の限界と免疫細胞療法
』という本が出版されました。フリーライターの荒川香里氏は、母親のがんを機会に三大療法に疑問を抱くようになり、取材を続ける中で免疫細胞療法に関わるようになったそうです。

いま期待されている重粒子線治療についてコンパクトに理解できる内容で紹介されています。重粒子線治療では、ドカッと患部に穴があくようにがん細胞を焼き切ります。エックス線との比較では「拡大ブラッグピーク」があるために標的とする腫瘍以外の組織への影響が小さくなる。放射線は同じ患部には1回しか治療の適用ができないが、重粒子線なら例えば同じ患部に再発した場合でももう一度照射することができるなど、患者が本当に知りたいことが書かれています。もともと重粒子線治療は軍事技術として、敵の人工衛星を無力化する宇宙兵器として開発されたものなのです。そのことには残念ながら触れられていませんが、重粒子線治療は半世紀もの開発の歴史があり、最近になって安全に治療への適用ができるようになったことも紹介されています。

この本のメインは免疫細胞療法の紹介です。それもANK免疫細胞療法といわれるリンパ球バンク(株)が開発して京都の東洞院クリニックがリンパ球の培養を行なっている治療法です。リンパ球バンク(株)の社長である藤井さんのブログ「がん治療と免疫」は私も良く参考にさせていただいています。この本でも藤井さんの考えが随所に紹介されています。

「大きくなったがんの固まりの中心部は、ほとんど分裂しないないことが分かっています。化学療法剤で叩くことができるのは、がんの固まりの表層部分だけ。しかも、その間に正常細胞が受けるダメージは比べものにならないほど大きいのです。」

CTやMRI,PETが導入されたことで、あるていど腫瘍の大きさが目に見えるようになった。その結果、腫瘍の大きさで抗がん剤の効き目を判断する「腫瘍縮小効果」という考えが出てきた。ただし、この腫瘍縮小効果は、現在では新しく開発された薬の判定基準としては否定されています。延命効果がなければ新薬は認定されないことになってきたのです。しかし、以前に「腫瘍縮小効果」という判定基準で承認された抗がん剤が未だに使われていることは問題でしょう。もっとも「延命効果」にしても医薬品の開発現場では平均余命がわずか3ヶ月長くなっても「すごい」ということになるのですが、がん患者の期待する治療・延命効果とはかけ離れたものになっています。

ある薬の効果を数値化するとき、例えば腫瘍縮小効果と免疫打撃効果のふたつの基準を置くとします。こうした性質の異なるふたつのデータを無理に統計処理しても、どちらの重みを持たせるかで薬の効果は恣意的に白にも黒にもなる。実際の統計データはいつも正しいわけではなく、むしろ単純すぎるというのが実情です。

化学療法を受けたら免疫は隔日に低下します。しかも化学療法の後最初に増えてくるのは、免疫を抑制する働きを持つリンパ球です。

今話題の「がんペプチドワクチン療法」についても、ペプチドワクチンでがん特異物質と確認されたものはありません。そもそもペプチドのような単純な構造の物質が本当にがんの目印になるのかどうか、明かではないのです。樹状細胞がペプチドを取り込む効率は非常に悪く、仮に取り込んだとしてもそれを抗原として提示しなければなりません。それが達成されて初めて、樹状細胞の提示する抗がんでがん細胞を攻撃するCTLを誘導できるかどうかという基本的問題に取りかかることができるのです。

このように免疫細胞療法を考える際の、免疫に関する基本的な問題点が歴史的経緯とともに要領よくまとめられています。そして、巷で一般的に宣伝われている各種のリンパ球療法の問題点も指し示しています。NK細胞を使った免疫細胞療法以外は、本当の効果は望めないというのが、著者らの主張したい点でしょう。藤井さんのブログと合わせて読めば、免疫細胞療法に関心のあるがん患者には大いに役立つことはまちがいないと思います。

しかし、問題がふたつあります。ひとつはANK細胞療法の費用は高額であること。もちろん健康保険の対象にはなりません。12回を1クールとして、1クールあたり概算で400万円だといいます。再発予防なら1クールも必要ないらしいですが、末期のがんなら2クール以上。しかしお金の問題は考え方次第です。末期がんを標準治療で治療しても、患者の最後までに係る費用は2000万円だという数字もあります。もちろん患者の負担のその3割の600万円で、高額療養費を考えればもっと少ないでしょう。高級車の一台分だと考えれば、経済的に余裕のある患者には躊躇するような金額ではないかもしれません。私には選択の対象外ですが。

この本でいちばん問題なのは「ホメオパシー」を好意的に取り上げている点です。がんという結果(タネ)は、それを育てた私たちの身体(土壌)があるから発生したのであり、私たちの身体の状態を改善しないかぎり本当の治癒はあり得ない。この考えはほとんどの統合医療支持者が言うことです。それなのになぜ「ホメオパシー」なのか。「ホメオパシーの根幹にあるのは免疫です。免疫の働きを利用して病気を治す手助けをする。」ヨーロッパの上流社会ではホメオパシーのほうが主流であり、一般のドラッグストアよりもホメオパシーの店の方が多いくらい庶民にも根付いている、というのが主張の根拠です。しかし、サイモン・シンの『代替医療のトリック』でも紹介したとおり、ホメオパシーにはプラシーボ効果以上の効果はなく、イギリスでも保険適用から除外されてきている。上流社会に人気があったのは、チャールズ皇太子の力入れによるところが大きいのではないでしょうか。

ホメオパシーは有効成分の1分子も含まないほどに希釈するのですから、害になるはずはありません。問題はホメオパシー以外の治療法を受けさせないようにすることが頻繁に起きているということです。患者の正統な治療の機会を奪って、ときによっては死に至らしめることがあることです。最近も毎日新聞で報道されました。ホメオパシーとは書かれていませんが、記事を読めばレメディーを与えたのだと分かります。

損賠訴訟:山口の母親、助産師を提訴 乳児死亡「ビタミンK与えず」

 助産師がビタミンKを与えなかったのが原因で生後2カ月の長女が出血症で死亡したとして、山口市の母親(33)が同市の助産師に約5640万円の
損害賠償を求める訴えを山口地裁に起こしたことが分かった。厚生労働省の研究班は新生児の血液を固まりやすくするためビタミンKの投与を促しているが、助
産師は代わりに、自然療法を提唱する民間団体の砂糖製錠剤を与えていた。

 訴状によると、母親は09年8月に女児を出産。生後約1カ月ごろに発熱や嘔吐(おうと)などを起こし、急性硬膜下血腫(けっしゅ)が見つかった。入院先の病院はビタミンK欠乏性出血症と診断し、10月に亡くなった。

 民間団体によると、錠剤は、植物や鉱物などを希釈などした液体を砂糖の玉にしみこませたもの。訴状によると、助産師は母子手帳にビタミンK2のシ
ロップを投与したと記載していたが、実際には錠剤を3回与えていたという。助産師は毎日新聞の取材に「錠剤には、ビタミンKと同じ効用があると思ってい
た」と話している。

 昨年10月、助産師から今回の死亡事故の報告を受けた日本助産師会(東京)が、民間団体にビタミンKの投与を促したところ「『ビタミンKを与えないように』とは指導していない」と答えたという。【井川加菜美】

分子標的薬と抗体医薬品の違い、ADCC活性の興味深い働きなど、面白く読めました。ホメオパシーに関する記述を除けば、役立つ本には違いありません。


膵臓がんと闘う多くの仲間がいます。応援のクリックをお願いします。

にほんブログ村 病気ブログ 膵臓がんへ
にほんブログ村

にほんブログ村 病気ブログ がんへ
にほんブログ村


スポンサーリンク

ホメオパシーを賞賛しなければよい本なんだが・・・” に対して2件のコメントがあります。

  1. キノシタ より:

    ぴあさん。
    統計的にいえば、末期がんに効果のある代替医療はありません。しかし、統計には良い意味でも悪い意味でも例外データがあります。どうにも説明がつかないが効いているというデータです。
    しかし、いつ、何を摂れば、誰にそのチャンスが訪れるかはまったく分かりません。
    私自身、自分がどうして今まで生きているのか、納得できるように説明することができないのです。奇跡というほどのことでもなく、単に珍しいという程度なのでしょう。何が効いて再発しないのか、あるいは何もしなくても再発しなかったのかもしれません。推測するだけです。
    がんは個性的です。一人ひとり違います。私に効果があった方法が他の人に効果があるとは限りません。私の経験なんかはひとつのエピソードに過ぎないのです。したがって、この方法をというお勧めのものはありません。ご自身で探すしかないと思います。
    ぴあさんのお父様に延命効果のある治療法はあるかもしれません、ないかもしれません。やってみなくては分からない、いや、やってみても分からないはずです。なぜなら、その治療法をしたお父様と治療をしなかったお父様を比較することはできないからです。
    このブログは一患者のエピソードを紹介しているだけです。参考にしてご自身で決断してください。どのような決断をしても後悔はするかもしれません。別の選択肢と比較することができないので、最善の方法だったとは確信を持って言えないからです。

  2. ぴあ より:

    いつも勉強になる記事をありがとうございます。
    88歳(10月で89歳)の父のことでご相談したいのでコメントさせて頂きます。
    今月のはじめに黄疸症状が出て検査したところ、胆嚢癌が見つかりました。
    すでに肝臓にも広がっており(腫瘍の大きさ7.5センチ)
    手術は不可能で、抗がん剤も効果がないだろうから
    積極的な治療はせずに、黄疸や胆管炎などの症状の
    治療のみとなりました。
    主治医の意見では年末くらいには危険な状態になるのではと。
    黄疸や炎症も治まったので先週末に退院しました。
    末期癌患者とは思えないほど、食欲もあり元気に過ごせています。
    少しでも延命に効果のあることをしてあげたいと思います。
    ペプチドワクチンや代替療法なども相談しましたが
    主治医からは「効果は期待できない」と言われました。
    食事療法や延命効果の期待できる書籍などお薦めがありましたら
    是非、教えて頂きたいのですが。
    サイドバーに掲載されている中から、「ガンに打ち勝つ患者考」と
    「がん患者学Ⅰ」を購入しました。
    「がんに効く生活」も購入しようと思っています。
    初めてのコメントで厚かましいお願いですが、よろしくお願い致します m(_ _*)m

ぴあ へ返信する コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です