九重親方の治療法は間違っていたのか?

元千代の富士、九重親方が膵臓がんの転移で亡くなりました。61歳は早すぎます。毎年行っている昨年6月の健康診断で膵臓がんが見つかり、7月に手術するも、他の臓器に転移していたそうです。

転移が見つかってからは、セカンドオピニオンで植松先生のUMSオンコロジークリニックに行き、「少ない抗がん剤でも治療する方法がある」とのことで、年初から四次元ピンポイント照射療法を受けたといいます。

がん闘病の九重親方 抗がん剤拒み樹木希林と同じ放射線治療

これについて、腫瘍内科医の勝俣範之医師はTwitterで次のように呟いています。

 

しかし、UMSは「放射線との併用で少ない抗がん剤でも治療できる」と言っているのであり、植松医師の著書『抗がん剤治療のうそ』も近藤誠氏のような抗がん剤否定本ではありません。

また、ガイドラインは参考にすべきものであって、逐一これに従わなければならないと考えている勝俣医師の方が「エビデンス至上主義」でしょう。

EBM(evidence-based medicine)とエビデンスはレベルの異なる概念であって、EBM=エビデンスではない。

膵臓がんに対して、これこれのエビデンスやガイドラインがあるから、患者は抗がん剤を受けるべきである、というのはEBMではないし、EBMを曲解している。

「エビデンス」と「患者の意向」と「医療者の臨床技能」とを個々の医療プロセスにおいて統合することによってEBMが実践されるのであって、「エビデンス」だけで治療方針が決まるというのは、腫瘍内科医の傲慢である。

『「四次元ピンポイント照射療法」ですが、きちんとしたエビデンスの報告がない』と勝俣医師は言うが、転移した膵臓がんに対してエビデンスのある抗がん剤治療があるのなら教えて欲しいものだ。私の主治医である齋浦先生は「再発・転移した膵臓がんにはエビデンスのある治療法、抗がん剤はありません。再発を早く見つけて抗がん剤をやっても、遅く見つけても生存期間はあまり変らない」とはっきり言われていた。

どっちもきちんとしたエビデンスはないんだよ。

アピタル夜間学校の放映に関してこのように記事にしたことがある。

コメンテーターが、進行大腸がんに対するTAS102という抗がん剤の生存率曲線について、「先生なら、この治療法をやりますか?」と質問したのです。

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TAS102を投与した患者の生存期間中央値は7.1ヶ月、プラセボ群では5.3ヶ月と、1.8ヶ月生存期間が延びるというデータです。

勝俣先生の回答は、「手足のしびれや、声が出ないという副作用がないのなら、やるかもしれない」でした。手足のしびれがあり声が出なければ医師としての仕事ができない、趣味の楽器演奏ができないと考えての回答ではないかと推察できます。わずか1.8ヶ月の延命効果なら、この抗がん剤は使わない、たぶん家族にも勧めないということなのでしょう。最後は患者自身が生活の質(QOL)と副作用、延命効果を天秤に掛けて判断するしかない、と締めくくっていました。

「患者自身が生活の質(QOL)と副作用、延命効果を天秤に掛けて判断するしかない」と。なんだ、自分の身になれば分かっているのではないか。ことばに一貫性がない人だね。

九重親方が、生活の質(QOL)を重視する考えで、少ない抗がん剤と放射線治療を選択したのであれば、それがEBMの実践なのである。7月の名古屋場所も途中まで務めることができたのだ。命よりも大事なことがあるんだよ。それを見つけることが人生を生ききるってことなのだ。親方の生きざまはまさにその通りではないか。

膵臓がんの転移だからステージはⅣbだろうが、それで1年近く生存したのであるから、統計的な抗がん剤治療の成績と大差はないと言える。

九重親方のご冥福をお祈りいたします。


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九重親方の治療法は間違っていたのか?” に対して3件のコメントがあります。

  1. キノシタ より:

    foxさん、さとうさん
    コメントありがとうございます。
    問題の根本には医療の不確実性があるからです。エビデンスを重視する立場では80%の確率で効果があるからこちらを選ぶべきと言い、他方は、いや20%でもこちらが良いと言う。患者にとっては80%や20%ではなく、結果は100%、しかもやってみなければ分からない。
    医療行為のうち確かなエビデンスがあるものは30%だといいます。実際バルーン血管拡張術にはエビデンスがない。しかし、あたりまえにやられている。セカンドラインの抗がん剤にも一部の癌を除いてエビデンスはない。
    70%には明確なエビデンスがないまま医療が行なわれている。だから、エビデンスのない医療行為は人体実験だといえば、70%が人体実験になってしまう。エビデンスだけでは現場の医療は廻らないのです。
    膵臓を切除したがん患者の血糖値管理にはどの薬剤が効果的なのか、これも臨床試験も治験もありません。しかし、現実に私は血糖値管理をしなければならないし、HbA1cを下げる薬が必要です。どれを採用するか、それは一般人のエビデンスを参考にしながら、自分の体で試すしかないのです。人体実験です。
    治験や臨床試験では有意差があるかないかが重要視されますが、P値による統計的有意差は、実験規模を大きくすることによって人為的に操作できるのです。
    中村祐輔先生のこちらの記事を参照
    はっきり言ってUMSの四次元ピンポイントでの膵臓がんの成績は良くないです。しかし、標準治療でも良くないのだし、わずか数ヶ月の延命効果をとるか、副作用を避けて自分の命よりも大事なことをやることをとるのか、それは患者の自己決定権です。
    患者が指揮官で、医者は参謀です。

  2. Fox より:

    こんにちは、キノシタさん。お久しぶりです。
    いつも明解な情報をありがとうございます。千代の富士の訃報についてはとても疑問がありました。これでスッキリしました。とても残念な結果ですが、ご冥福を心よりお祈りしたいと思います。

  3. さとう より:

    はじめまして
    勝俣医師のブログだけでは主張したいことが(たぶん)伝わらないのではと思います。
    日経グッデイに勝俣医師のコメントが載っていましたが、治験をしていない治療法を信じていないということです。
    治験をしているか否かが勝俣医師の判断材料になっています。
    御存知だと思いますが、薬事法で承認されないと上市できません。
    ところが、医師法では医師の責任のもとで治療が行われます。
    当然保険は使えませんので自費になります。
    治験は10年以上の歳月を要し億単位のコストがかかりますが、上市に至るのは三万分の一と言われてます。
    オプジーボで死亡例が出てますが、すべて輸入したオプジーボを医師の判断で抗がん剤併用治療したものだそうです。
    治験を経ない治療法には危険が伴うと勝俣医師は主張しているのです。

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