モーツァルトと脳内物質ドーパミン

モーツァルトが求め続けた「脳内物質」 (講談社プラスアルファ新書)

音楽療法という分野があり、特にモーツァルトの音楽には糖尿病が治った、血圧を下げる、がん細胞の増殖を抑える、などの効果があるという説があります。
多くの書籍でも紹介され、音楽療法用のCDもたくさん販売されています。

今年の3月に出版された『モーツァルトが求め続けた脳内物質』(須藤伝悦)では、他の作曲家の曲には反応しないラットが、モーツァルトの曲を聞かせると落ち着いてのんびりしてくる。実験してみるとラットの脳内ドーパミンの合成を調整する化学反応が活発になることが分かり、なかでも高周波数の音域が重要であったと紹介されています。

どうしてモーツァルトの音楽にはそのような効果があるのか。著者はその秘密に科学的に迫ろうとします。合わせて脳内麻薬といわれるドーパミンとは何かも紹介していきます。
モーツァルトが10代のときに作曲した曲、ディヴェルティメントや教会ソナタが特に効果的で、ディヴェルティメントニ長調 第三楽章のアダージョ(K.205)を平均65デシベルの音量で聞かせたときが一番大きな変化が起きたといいます。

そして、モーツァルト自身が抱えていた病気を癒すために、自分が心地よい曲を作曲したのだという結論です。モーツァルトは注意欠陥多動性障害(ADHD)、トゥレット症候群サヴァン症候群などの病気を持っていて、晩年は高血圧を併発していたという精神科医らの研究があるようです。映画「アマデウス」に登場するモーツァルトはそのような病気を持った奇声を発したりする人物のように描かれていましたね。これらの病気は脳内ドーパミンの分泌と深く関わっており、著者はモーツァルトが幼年期にてんかん症を患っており、のちに統合失調症となったのだろうと推測しています。

モーツァルトの音楽の特徴として

  • 高周波数領域の音が多く、創造性を活発にさせるエネルギーを持っている
  • 独自の音楽の反応スペクトルを持つ。スムーズな音の流れを生み出すフレーズの速いパッセージがあり、音の連なりに大きな運動性がある
  • 子供の心臓が脈打つような生理的リズム

を挙げて、こうした特徴がドーパミンの合成を促すのだと結論づけています。ドーパミンは情報伝達物質であり、免疫系とも深く関わり合っています。騒音よりは楽しい音楽がストレスを緩和することは、経験的にも自明のことです。

行きすぎた商業主義によって、モーツァルトの音楽には奇跡的な効果があるかのように宣伝されていますが、ある種の効果はありそうだという一定の科学的根拠があるのですから、クラシックが好きなら、そうした効果を期待してモーツァルトを聴く分には弊害はないでしょう。

モーツァルトの曲では、チェロはほとんど重要な役割を演じていないのですね。チェロのパートがすばらしいという曲がありません。これまでどうしてだろうかと思っていたのですが、この本を読んで、チェロのような低周波数の音は、彼の気分を良くする効果がなかったからだろうと納得した次第です。


膵臓がんと闘う多くの仲間がいます。応援のクリックをお願いします。

にほんブログ村 病気ブログ 膵臓がんへ
にほんブログ村

にほんブログ村 病気ブログ がんへ
にほんブログ村


スポンサーリンク

モーツァルトと脳内物質ドーパミン” に対して1件のコメントがあります。

  1. 安西英雄 より:

    キノシタ様
    たいへん興味深いお話をありがとうございました。アメリカの統合医療では音楽療法がとても重視されていますが、納得がいきました。こんどこの本や文献も読んでみようと思います。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です