済陽式食事療法について

食事療法でがんが治るのか。これについては賛否両論ある。骨折ならすぐに外科治療あるいは整形外科を受診すべきだろう。しかし高血圧なら、一時的に血圧降下剤が効くにしても、根本的には生活スタイルを変え、食事を変え、運動をする必要がある。なぜなら高血圧は慢性病であり、生活習慣病だからだ。それではがんは急性の病気なのだろうか慢性の病気なのだろうか。一個のがん細胞がCTで見つけることができる直径が1cmの大きさになるまでには5年から40年かかるといわれている。

多くの疫学調査によれば、がんの発症率の高い地域と低い地域の人々において、何が大きく違うかといえば、食物である。乳がんの発症率が低いアジア系の人がアメリカに移住したのち2世代を経ればその子孫の乳がんの発症率はアメリカ人と違いがなくなる。食事が欧米化するためだと証明されている。日本でも長寿県といわれた沖縄で、昔の沖縄特有の諸記事が廃れた結果、長寿県ではなくなってきている。カロリー制限をすれば、がんを予防できるというエビデンスもある。

アメリカ対がん協会が、がんになった人の食事療法についての指標を公表している。指標は次の7段階で示されているが、

  • A1…利益が証明されている。
  • A2…おそらく利益があるが、証明はされていない。
  • A3…利益の可能性があるが、証明はされていない。
  • B…利益やリスクについて結論するだけの、十分な知見がない。
  • C…利益の可能性を示す知見と、有害な可能性を示す知見が、両方ある。
  • D…利益がないことを示す知見がある。
  • E…有害なことを示す知見がある。

公表された表に使われているのはA1はなく、A2,A3,Bの3種類である。そして、欄外には「低脂肪食や野菜、果物の摂取は積極的に取り入れる価値がある」と書かれている。

現状では疫学調査もデータも不十分である。緑茶のように、あるときは「がんの隣接した組織への進入と血管新生を抑制する」という調査があるかと思えば、より大規模な調査でそれが否定されたりもする。何が本当であるかは、証明できるほどには確かなデータがない。

こうした時、がん患者は何を頼りにどのように対処すればよいのだろうか、ということが私自身にとっても重要な問題である。

こうした現状と、がん患者の不安、何か自分でもできることに取り組んでいないと心配だという心境につけ込んで、多くの食事療法の本が出版されている。書店に行けばある消化器外科医の著作が平積みされている。彼の著作の変遷をたどると、『おいしく食べて直す腎臓病』『おいしく食べて治す糖尿病』からはじまり、『日本だけなぜ、がんで命を落とす人が増え続けるのか』となり、『いまあるガンが消えていく食事』と続く。さらに屋上屋を重ねるように、『今あるガンが消えていく食事〈実践レシピ集〉』『がん再発を防ぐ「完全食」』『今あるガンが消えていく食事 超実践編』『ガンを消す食材別レシピ完全版』と、丁寧というか、しつこいというか、いま一番売れっ子の食事療法家である。がんの再発を防ぐ完全食があるのなら、私としては飛びついて実践しなくてはなるまい。(あるはずがないが)

アマゾンの彼の著作のレビュー欄に書かれた投書にこんなのがあります。肯定的なレビューが多いのですが、実際にこの先生の診察を受けた患者はすべて否定的なレビューです。

この著者は本の中で、今でも病院で治療を行っているように書いています。この方の勤務するS県にある病院に入院すれば、通常より少ない量の抗がん剤治療と、入院中から野菜ジュースを中心とした食事療法が受けられるといった内容を匂わせています。

そして患者の体験談のコーナーでは、必死になって訪れた患者を受け入れ、精一杯の治療を行うことを匂わせています。私も、入院中に姉から差し入れられてこの本を読み、意を決して退院し、この先生の病院を受診しました。しかし、待っていた現実は、東京にあるクリニックで高い検査をさせられ、前の検査結果やデータは一切見ず今回のデータと比較してもらうこともしてもらえず、事前の問診表に書いた内容を再度一から聞かれました。検査もPET検査を含め、2週間前に行った検査を全てされました。

PET検査で放射能を2週間ごとに体内に入れることはかなりの不安でした。たぶん、前の病院のデータや事前の問診表には一切目を通していないのでしょう。また、3分ぐらいの食事指導をA4一枚の紙で行い、あとは自分が過去に雑誌に投稿した資料を手渡されて終わりました。結局、元の病院で元通りの治療を受けるように言われ終わってしまいました。意を決して飛行機を乗り継いで来た私にとって、あんまりの仕打ちでした。

本や雑誌で名前を売り、東京のクリニックで検査代で儲けようとされている構造があまりにも露骨に見えました。
私の所属している患者の会でも、この著者の本に踊らされて被害を受けた人は多く、問題となっています。
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本の内容では、病院で今も治療に当たっているように書かれていますが、現在は全く医療行為を行われていません。藁にでもすがりたい患者の気持ちを悪用しているのではないでしょうか?私の妻が今年の春にこの本を基に受診しましたが、冷たくあしらわれ、家族共々悲しい思いをしました。結局必要のない高額な検査を受けさせられただけで終わりました。この著者のお金儲けに利用された、妻の気持ちを考えるといたたまれません。

今後、このような被害者が出ないように、この本を買われる方は、治療目的で行かない方がいいと思います。

この著者の行為は、私の妻が所属している患者の会でも問題になっています!! 患者の会の中には、前の病院をやめて著者のクリニックを訪れたことが分ると、「なんでそんなことをしたんや!あんたは悪い患者や!!」と怒られた人もいたそうです。埼玉にあるS病院とこの著者は、どうやら関係が切れているようです。また別の会員は「立派ながんですね。」と鼻で笑われ、深く傷つけられたそうです。患者の精神的な落ち込みや絶望感を、この著者はあまり理解されていません…。

この先生が院長を務めるクリニックに関しては、こんな事実も知っておくべきでしょう。何しろ日本におけるPET診断の草分けであり、一度自己破産したクリニックです。

PET専門診療所が倒産
西台クリニックが開業したのは2000 年10月。当時、PETはあらゆる臓器の癌の早期発見に有効であると大きな注目を集めていた。しかし、機器が高額な上、保険適用になっていなかったことから導入する施設はほとんどなかった。そこに目を付けたのが、医療コンサルティング会社の(株)Methods(今年3月に破産)。同社は、清志会と協力してPET 検診専門の西台クリニックを開設。高額な検診料で収益を上げるモデルを考案した。

Methods は建物の賃貸やPET 機器のリースなどを通じ、実質的にクリニックを経営していた。開設時には1台約3 億円する米国・ポジトロン社製のPET 専用機3 台とサイクロトロンを導入、国内最大級のPET 検診施設としてマスコミの注目を集め、開設から半年足らずで1日約20人の受診者を確保した。さらに、2001年には、同じくポジトロン社製の専用機を2 台追加して計5台に拡充。ところが、これが過剰投資となった。

検診の場合、受診料は1回10万円以上かかり、費用を負担できるのは一部の人に限られる。複数のPET施設の開設に携わった経験を持つあるコンサルタントは「通常、機器1台で1日10人前後の検査を行わないと、PET 事業の採算は合わない。検診の需要を考えると、5台は重装備すぎた」と話す。

時代はPET-CTへ
さらに追い打ちをかけたのが、PET の保険適用とPET-CTの普及だった。02 年、18FDGを用いた検査が保険適用となり、翌03 年には、X 線CT 検査も同時にできるPET-CTが国内でも発売された。

これを境にPET 施設が全国で急増、競合が激化するとともに、PET検査は保険診療が中心になっていった。02 年6月に開設したPET 施設の厚地記念クリニック(鹿児島市)院長の陣之内正史氏は、「保険による癌の検査の市場は検診よりはるかに大きいが、それを取り込むには高性能のPET-CTを装備し、専門病院などから癌患者を紹介してもらうことが必要だ」と話す。実際、同クリニックも04 年にPET-CTを導入している。

これに対して、西台クリニックは既に5台のPET 専用機を所有しており、最新のPET-CTを導入するだけの資金力はなかった。ただ、01年に専用機2 台を追加した時点でも、PET-CT が近々登場することは分かっていたはずだ。これについて院長だった宇野公一氏は、「Methodsが開業前からポジトロン社製の専用機5台の導入を決定しており、私の意見を受け入れてもらえる状況ではなかった」と語る。

そして8ヶ月後に再開することになります。

破産から8カ月…
PET検査の西台クリニックが再スタート
個人の診療所として、引き続き画像診断に注力

わが国のPET検診施設の草分けながら、今年3月に破産した医療法人清志会の西台クリニックが、11月上旬、リニューアルオープンしたことが分かった。今後は、院長を務める済陽高穂(わたようたかほ)氏が開設する個人の診療所として、PETによる癌の総合検査を中心に、従来どおり画像診断センターとして運営される。

同クリニックは、2000年10月、PET検診専門の施設として東京都板橋区にオープンした。国内最大級のPET施設としてマスコミにもたびたび登場、 PET検査の普及・啓蒙に貢献した。しかし、5台のPETを導入したことによる過剰投資のほか、PET検査の保険適用やPET-CTの発売をきっかけに始まった競合激化による収入の伸び悩みで経営状況が悪化、経営していた医療法人清志会は、約22億円の債務超過に陥って破産に追い込まれ、西台クリニックも休診していた。(関連記事[PDF]:2008.5 PET専門診療所が倒産)

それを済陽氏が引き継いで、このほど再開にこぎ着けたわけだ。西台クリニックのパンフレットなどによれば、同氏は千葉大学医学部出身の消化器外科医。都立荏原病院や都立大塚病院に勤務した後、埼玉県の医療法人松弘会が今年6月に開院した認知症専門病院、トワーム小江戸病院の院長を務めていた。

実施する検査の価格は、PETと生化学検査、メタボ検診を組み合わせたコースが10万8000円。PETにX線CTや骨盤部MRIなどを加え、結果説明も受けるコースは18万3000円に設定されている。

約8カ月と比較的短い休止期間での再スタートとなった西台クリニック。PET施設がいくつも存在する首都圏で、老舗としての知名度を生かして患者を集め、採算を合わせられるかどうか、今後に注目したい。

倒産したクリニックを(たぶん)安く引き継ぎ、いまでは旧式となったPETを使って、相談にきた患者には必ずPET受診をさせている。(クリニックのウェブに「PETを用いて、体幹部の細胞の働き具合を調べることで、がんの有無や位置を調べ、CTで体幹部を、MRIで骨盤部を調べます。」と分けて書かれているので、旧式を使っているのだと推定しています)

○ がん食事指導の内容

1.PET検査および腫瘍マーカー検査:現在の病状(腫瘍の病期・位置、転移の有無など)を把握するために検査を行います。

PET検査の意味・意義:
医学的な根拠が必要なので、PETおよび腫瘍マーカーの検査により、現在の病状を把握した上で、食事指導を行います。定期的* に上記検査をすることで、治療効果を判定すると同時に、病状に応じて食事指導の内容を変更します。

* 病状により異なりますが、6ヶ月に一度、PET検査を行います。

食事療法や治療をするのではないのですね。「食事指導」をするのだということ。しかも、食事指導をするについては、「必ずPET検査をうけてもらう」。驚いた経営方針です。検診費用もグランドコースで249000円。自由診療は診療費が「自由」に決められるのですから違法ではないですが、こんな金額を出せる患者が多くいるのでしょうか。

食事療法でがんが治るかのような本を出版し、それを見て来院した藁をもつかみたい患者の全員に旧式のPETでの検査を強制する。(半強制的に販売する)
こうした商法を『バイブル商法』というのです。

私の食事療法に対する基本的なスタンスは、

  1. なるべくエビデンスのしっかりした方法を採用する(完全なデータはないのだから)
  2. 無理のない食事である
  3. 長く続けられる方法である(続けられない方法では効果がない)
  4. 臨機応変に

ということでしょうか。原則は玄米菜食です。しかし、白米は絶対にだめというわけではない。寿司を玄米でいただいても食えやしません。肉は鳥だけにしていますが、これも臨機応変。家族で外食した場合にはみんなに合わせて牛肉を食べることもあります。控えめにはしていますが。玄米がおいしいと感じないなら、無理には実行しない方がよいです。がんと闘うのは結局は「体力」です。体力を維持できないような食事では勝てません。

幸い、私の場合は玄米もおいしく感じられるし、続けることで確かな効果を感じています。では、玄米菜食が本当に効果があったと言えるのかと問われると、「分かりません」としか言いようがない。

玄米菜食にした、瞑想もしている。可能な運動もやっている。マルチビタミンも摂っている。さて、どれが効果があったのかは分からない。証明することができない。それに、相関していることと因果関係があることとは別のことだ。「○○を摂ったらがんが消えました!」というがん関係の本が多いが、これはせいぜい(書いてることが真実だとしても)相関があるということ。真の原因は別にあるかも知れない(その場合が多い)のです。

私はいま膵臓がんが再発しないでいる。私は東京都の水道水を飲んでいる。私のがんが再発しないのは、東京都の水道水を飲んでいるからである。これがおかしな論理だとすぐ分かりますが、同じような相関関係と因果関係を(故意に)混同した本が多いですね。

先の先生の著作にも食事指導の結果をまとめていますが、この先生は少量の抗がん剤治療と併用しているらしいのです。だとすると、食事療法の結果なのか少量の抗がん剤投与による結果なのかは分からないはずです。少量の抗がん剤治療(いわゆる休眠療法)でも、あの程度の成績はでるのではないでしょうか。

食事とがんの関するエビデンスは不足している。かといって、十分なエビデンスがそろうまで待っていることはできない。予後の悪いがんであるから、あれもこれも試してみるだけの時間的余裕もない。だとすれば、自分でよく考え、可能性のありそうなものに賭けることしかできない。何が信頼できそうかは、いま時点でのデータから「推測」するしかない。「これなら確実にがんが治る」という言葉には、先ず信頼がおけないと肝に銘ずべきだろう。彼らが勧めている食事がだめだということではなく、多くは健康的な食事であるのだが、「これでがんが確実に治る」と言っているところがだめなのだ。他の治療法を放棄させるから罪作りだということだ。

ゲルソン療法もだめ、がんの患者学研究所もだめだ。半数のがんが治ると言われてるのですから、100人、1000人の「治ったさん」を集めることくらい簡単なことであるはずだ。治らなくて亡くなった患者が何人いるのかのデータを出すべきだ。ようするに分母がいくつかを明らかにしないで、分子だけを公表している。たくさん集めれば分子はいくらでも大きくすることができる。大事なのは分母は何人なんだ、ということだろう。

この説明に反論するのであれば、膵臓がんの患者何人が食事療法をして、何人が治ったかを明らかにしてみればよい。彼らの公表したデータですら、膵臓がんの患者では惨憺たる結果ではないのか。

がんは食事療法では治らない。
しかし、がんは食事療法をしなければ(たぶん)治らない。

私の心中でのひとまずの結論はこんなところだ。


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済陽式食事療法について” に対して2件のコメントがあります。

  1. 匿名 より:

    膵臓がん患者の 5年生存率の低さ どのがんよりも低いデータであることは、病気が発覚して初めて知りました。
    母は 早期発見のおかげか 現在手術から 4年半たちますが元気です。
    食事療法は 大切です。野菜中心 薄味が毎日の食事です。 
    負担の無い軽い運動 散歩程度 旅行も ストレス解消に役立つようです。
    前向きに 笑って過ごす母は 偉大です。
    ”こころ”の健康まで 失わない強さ 本人の努力のたまものが 今日の健康です。

  2. K より:

    がんの民間療法に対する貴殿のスタンスは 素晴らしいと思います。
    食生活の改善や運動だけで、治るほど、がんは甘くはないですが、
    私の妻の経験に即して、書くと、効果はあったと思います。
    運動や食事療法(無理しない形での)、充分な睡眠、ストレスコントロール
    などを「組み合わせる」ことが大事ですが、食事療法をやっている
    患者さんは なぜか、運動をやらない人が 多いですね。
    貴殿のように 自分の個性や人生観に合った形で、自然な無理のない形の
    対処法を 見出している患者さんも 少ないようです。
    ガン治療のトップに位置する テキサス MD アンダーソンや
    西海岸一のガン病院 U C S Fにおいても、運動の奨励は
    行われていますし、食事指導も行っています。
    食事や運動を 標準的医療の補助として、奨励するというのは
    決して、オカルトではなく、世界でもトップレベルの病院でも
    行われていることなのです。 
    再発がんというのは 現代医学においては死を意味します。
    私の妻も根治は不可能だと言われましたが、それがきっかけに
    なり、食生活の改善と運動を やるようになりました。
    食事や運動なんかでは 治らないと周りからは よく言われましたが、
    何もしないと それこそ エビデンス通りに座して 死を待つばかり
    になります。 
    がんは食事療法では治らない。
    しかし、がんは食事療法をしなければ(たぶん)治らない。
    この貴殿の考えは 正しいと思います。
    私の妻は 再発後 7年が経過し、骨転移が消滅、マーカ値も
    正常な状態が続いています。
     

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