イレッサの薬害訴訟

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肺がん治療の抗がん剤イレッサによる副作用死の集団訴訟に対して、裁判所が和解勧告を出した。厚生労働大臣は「これから慎重に検討する」と、態度を保留しているようだが、患者・原告側は受け入れる予定だという。

がん患者にとって抗がん剤は当然のこと、延命効果があるはずだと期待して治療を受けている。しかし、イレッサの裁判をふりかえってみると、その承認過程のいい加減さには驚くばかりである。「イレッサ薬害被害者の会」の資料を見ると、他の抗がん剤に比べてイレッサの副作用死の多さは断トツである。
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イレッサは2002年に世界に先駆けて日本で承認された。しかし、無作為比較臨床試験の結果、プラセボと比較して生存期間を延長することができなかったため、2005年1月4日アストラゼネカは欧州医薬品局 (EMEA) への承認申請を取り下げ、また2005年6月米国FDAはイレッサの新規使用を原則禁止とした。その後2009年7月1日欧州医薬品局は、INTEREST試験とIPASS試験の2つの無作為化第III相臨床試験の結果をもとに、成人のEGFR遺伝子変異陽性の局所進行または転移を有する非小細胞肺癌を対象にイレッサの販売承認を行った。2009年現在イレッサを承認している国は、日本を含めたアジア諸国、欧州、およびオーストラリア、メキシコ、アルゼンチンである。(この項Wikipediaより)

患者側は、日本での承認審査において副作用死の人数を過小に申告したり、延命効果がないのに腫瘍縮小効果だけで承認したことを批判している。また、審査に当たった医師に製薬企業との利益相反があったことも批判している。

近藤誠氏が文藝春秋2月号「抗がん剤は効かないのか?」で、同じように昨年の3月に承認された新しい分子標的薬ベクティビックスの審査においても、第三相試験の結果無憎悪生存率(PFS)は有意差があるが全生存期間(OS)にはまったく有意差がないにもかかわらず承認されている例を挙げて、いまだにイレッサと同じように患者を愚弄するような審査が行なわれていると告発している。こんな状態でも審査はしゃんしゃんと終わって承認されているのだから、患者は何を信用して良いのか分からない。近藤誠氏の問題提起は、標準療法の範囲内でならば、という限定付きだが貴重な見解だと思える。

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「がん患者には時間がない」と未承認薬の早期承認を求める患者団体の運動も、この裁判を見れば諸刃の剣である。”がんに効く夢の新薬”が現われては消えるのが抗がん剤の歴史である。いまの分子標的薬にしてもほとんどが不合格、副作用のない抗がん剤というふれこみは胡散霧消してしまった。がんワクチンが同じ運命をたどらないとも言えまい。抗がん剤の承認においては、何よりも延命効果が明らかであること、安全性が確認できること。これを抜きにしていい加減な審査で早期承認されてはたまらない。

しかし、抗がん剤は細胞毒であるからすべて止めるべきだとは考えない。イレッサでさえも無効だとは考えていない。中には劇的に効いたという患者もいるからである。たとえば休眠療法を行なっている銀座並木通りクリニックのサイトには、イレッサが劇的に効いた症例が紹介されている。結局がんは、同じがん種であっても一人ひとり違う病気である。患者の数だけ病気の数があると言っても良い。臨床試験の結果を鵜呑みにして、同じ量を同じ投与期間(クール)で、患者の状態などは無視して投与するから効かないし、重篤な副作用が出るのであろう。経験豊富な腫瘍内科医が少ないし、マニュアル通りならまだましで、製薬会社のMRが差し出すパンフレットしか読まない医者も多いと聞く。医者に同情もする。マニュアルを逸脱した投与方法では訴訟リスクも負うことになるから、医者としてはそんな冒険はできない。まして治療費のほとんどは製薬会社に流れていくのが抗がん剤の世界である。もうけにもならないのに訴訟リスクだけを負う奇特な医者はいなくて当然である。

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穆如清風(おだやかなることきよきかぜのごとし)―複雑系と医療の原点
医療は複雑系である。「ゆらぎ」を無視しては医療は成り立たない。こんなことは「医者の匙加減」としてあたりまえであった。「休眠療法」などと言ったって普通に匙加減をしているだけなのに、異端療法の扱いを受けている。いつの頃からか「診療ガイドライン」という名のマニュアル医療になってしまった。統計データ+匙加減=エビデンス(科学的な根拠)である、との認識がない。

中田力さんが、医療と複雑系についてのエッセイを出版している。次回にでも紹介してみたい。

と、書いた後でこちらのブログを拝見したら、近藤理論を現場から批判していて、思わず頷いてしまった。

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